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20 泥仕合の果て ※

※暗い話はこれでラストですが、人死にが出ますので苦手な方は注意してください。

床や壁は石でできていたので燃える物がなくなれば勝手に鎮火した。

さすがに今回は内々ではすまないかと思ったが、公爵が体面を気にしたのか邸の離れで謹慎で済んだ。今あいつらの顔をみたら衝動で何をするかわからないので助かったが。


それから三週間後、あんなに待ち望んでいた入寮だったのに、ヴァルゴが隣にいなければなんの感慨も無かった。


アカデミーに入ったばかりの時はまだヴァルゴの死が頭から離れなかった。危険はわかっていたはずなのに助けることができなかった自分も許せなかった。

毎日が苦しい。


だがもう腹は決まった。

俺にここまで喧嘩を売った以上、あいつらは叩き潰す。

母は公爵達が領主として使い物にならなければ、自分がやっていたように金を持たせて追い出せと言いたかったのだろうが、そんなぬるいことはしない。

俺は俺のやり方であいつらを排除する。


当主に取って代わる以上、俺は公爵として誰もが認める存在でなくてはならない。

こうなった今、母には心から感謝している。幼少期から領主になるべくして全てを叩き込まれてきた俺にとってアカデミーの学問なんぞ一度通った道のようなものだ。


五年間ずっと、成績は完璧だった。

ほぼ全ての分野で首席。最優秀評価の数で言えば130年ぶりの快挙だとかで、陛下からも祝いの言葉が届いた。


『君のその手腕を公爵領で見る日を楽しみにしている』で締められた祝辞は俺にとってありがたいの一言に尽きる。


「さすがセレナ様のご子息」とは頻繁に言われるが、そこに公爵の影は無い。公爵とバカ女の息子は親の権力で毎年留年を免れる程度の成績で、嫌みを抜きにしてもよく卒業できるなという感じだった。



さて、本腰を入れるのはここからだな。


現公爵は母の統治時代から『右肩下がり』なんていうかわいいものではない、崖から落ちるよりひどいくらいの経営をしていて周囲からすでに引退を勧められている。

ボロクソな評価の中で何の成果も上がらない日々。公爵も働くのが本当に嫌らしい。


なんと奪い取るまでもなく、公爵本人から卒業次第爵位を引き継ぐ打診が来ていて笑ってしまう。

母に寄生して甘い汁を吸ってた日々が相当に恋しいのだろう。


都合の良い条件をつける気だろうが、俺が母のようにお前らを養ってやると思っているなら頭がおめでた過ぎるな。

このまま何事もなければ俺は公爵位を継いであいつらを放逐して終わりになる。


はずだったが、さすがクソ女。面白い動きを見せてくれた。

俺は公爵邸には帰らないが、邸の者に逐一あいつらの動きは報告させている。

最近明らかなごろつき連中がクソ女の所に出入りしているらしい。何をたくらんでるのか大体予想はつくが。


クソ女は領地経営については全く理解がない。大きく傾いていることすら気がついてないだろうから、公爵が俺に爵位を譲って引退するというのはあの女には許せないはずだ。

公爵が引退するのなら自分の息子に跡を継がせる気だっただろうが、それも無理だとさすがに気がついただろう。

血筋、生まれた順番、能力、さらにこちらには陛下の後押しもある。俺が生きている限りはアホの入る余地など一ミリもない。


「となると、卒業前には俺を消しに来るな」


俺が正式に公爵になった後ではもう遅い。殺害するにしても一介の令息と、叙爵後では事件の重さが違うし難易度も違う。後者は捜査も厳しいし、それで犯行がバレれば即死罪だ。


「それじゃあ、外出の予定でも教えてあげようか」


このシーズンになるとアカデミーの卒業生は婚約者探しで賑わうから連日大量に誘いが届く。机の隅に重ねてある招待状の山を漁った。

たしかアホの憧れている女が出席するパーティがあったはずだ。軽薄そうで派手な女で俺にはどこが良いのかわからないが。それひとつだけを選んで返事をすれば主催者が得意気に俺が来ると宣伝してくれた。あとは口の軽いヘンリーか誰かを使ってアホを唆してみよう。


あの女次第ではあるが、どうなるやら。





「本当にやったのか」という思いもあったが、ネルソンが死んだ。

実行犯のごろつきどもは逆上したあの女から公爵につきだされて処刑されたようだ。


クソ女は俺への逆恨みを募らせて今度は毒薬を取り寄せようとしているらしい。取り寄せを頼んでる商会を経営してるのが俺だから筒抜けだが。


毒か、手に入らないこともないな。さすがに俺の管理している店で大っぴらに毒を売る訳にはいかないので、薬品を扱う商人を仲介するという形で『摂取すれば数日以内に死ぬ、遅効性の猛毒』を提供してあげた。その後すぐに俺に晩餐の招待をよこすんだからわかりやすい奴だと思う。名目は俺の叙爵の前祝いらしいが、そんなタマか。


「招待は一週間後か」


黙って殺されている訳にもいかないな。それまでにこちらも仕込みを終わらせないと。

夜中に寮を抜け出して公爵邸の秘密通路に入る。公爵邸とアカデミーが近くて助かったのと、クソ女と公爵の寝室が別でラッキーだった。公爵なら気がつくかもしれないからな。

クソ女の寝室の床下で立ち止まりネルソンの声と話し方を思い出す。多少ガサついた声にしておいた方が判別しにくいだろう。


『母さん』『苦しいよ』『なんで』


すぐに上から悲鳴が聞こえて騒がしくなってきた。さっさと撤退しよう。


それを二、三晩繰り返したら邸からクソ女が精神病にかかって幻聴を聞いていると報告があった。夜になるたびに大騒ぎするので邸中の人間が叩き起こされるとのことだ。


明日は晩餐だ。終わりが近づいてきた。


「サイラス、久しぶりだな」


「ええ、公爵。夫人もお久しぶりです。ネルソンのことは心中痛み入ります」


「…………」


二人とも五年ぶりにあったせいか、ネルソンの事件のせいか、人生がうまくいってないせいかは知らないがだいぶ老け込んでいた。クソ女は特に精神が参ってるようだが、それでも俺を殺そうとする元気だけはあることに感心する。


毒が厨房の料理や皿に仕込まれてると面倒だが、まあ変にひねってなければ既にグラスに注がれた状態で置かれてたワインが一番怪しいな。


「もうひとつ、ワインの入ったグラスをくれるかな?」


給仕に尋ねたら急いで持ってきてくれたが、あの女はかなり狼狽していた。


「……なぜもう一杯用意したのかしら?」


「ネルソンに献杯しましょう。痛ましいことでしたから」


元々俺の席に置かれていたワインをネルソンの杯に見立てて掲げた後に、中には入っていたワインを公爵、あの女、俺の三つのグラスに分けて注いだ。行儀はよろしくないがよくある弔いだから許されるだろう。


多分公爵は何も知らされていないのだろう。普通に半分ほど飲んでいた。あの女はガタガタ震えていたが意を決したようにグラスに口をつけた。飲みこんだのを確認して、俺も不自然でない程度に口をつけた。


卒業が近いことへの祝いの言葉、ネルソンを悼む言葉、爵位の継承の話などをしながら食事をして解散になった。泊まっていかないのか聞かれたが、明日もアカデミーですることがあるといって寮へ戻る。それを聞いた時のクソ女は明らかにほっとしていたが。万が一にもここで俺に死なれると自分に容疑がかかるしな。


毒殺するつもりなら重ねて馬車を襲撃したりはしないだろうが一応警戒だけはしておいた。無事に寮の自室に戻ったのでベッドに転がって目を閉じた。




次の日の昼過ぎ、デュラン公爵夫妻の訃報が俺の所に届いた。

管轄の騎士団とそこの調査員によると、俺が帰った後に公爵夫人が公爵の部屋に行き、一緒に毒物をあおって心中したらしい。夫人は息子の死後精神を病んでいて無理心中だった可能性もあるとされてた。


後妻に提供した『毒』は臭いと苦みが強いだけの熱冷ましの薬だ。毒性は無い。ただ万が一誤飲があった時のための『解毒剤』として一緒に渡した薬は本物の即効性の強い毒だからそっちを二人して飲んだのだろう。



これで全てが片付いた。

邸へ帰ろう。


捜査も一段落した後の邸はしんとしていた。久々に落ち着いた心で邸の中に入る。

ここに住んでた連中の名残を目にすると心がざわついたが、嫌な思い出のある物は後で処分すればいい。


この部屋に来るのも五年ぶりだ。


焦げ付いた床はまだそのままになっていた。部屋に光りが差していて変色した床を照らしている。


「ただいま。ヴァルゴ」


次回からマリエラが出てきます!

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