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1 雨の日の大惨事


午前と午後にエルディとゆっくり散歩をするのが私の日課かつ楽しみである。


今日は朝方強い雨が降っていたので、雨が止むまで待ってから散歩にでかけた。


うちの本邸から伸びている道は大きく分けると中央が商業地区。右が住宅街。左が農地になっている。


歩くコースは緑や雨の匂いが素敵な農地の方にした。パンが焼ける匂いの漂う商業地区も捨てがたかったが。


領地は小麦や豆の他にブドウの生産が盛んで邸からしばらく歩くとブドウ畑がある。農園で働いているマーシャがちょうど休んでいる所だったので声をかける。


「おはよう、マーシャ。今日はすごい雨だったわね」


「おはようございます、お嬢様!と、エルディちゃん。いやぁ、水やりがなくなったのはいいんですけどねぇ。水が畑にたまっても良くないですから。もうちょっと良いあんばいで降ってくれませんかねぇ」


「去年のブドウはすごくいい出来だったものね。たくさん採れていたし」


「ワインにする種は特に豊作でしたねぇ。旦那様もそろそろ販路を拡大するつもりとおっしゃってましたので、私らも今年の収穫が去年に負けない出来になるようにブドウのお世話をさせていただきますよ」


フォレットは領地がなかなか良い位置にあるので商業、農業はともに良好な収益をあげている。その中でもフォレット産のワインは名産品と言ってもいい人気で、生産量が需要に追いつかずに長年領内と王都の一部にしか出回らずにプレミアがつくほどだった。


長らくお父様が農業研究に力を入れてきたのが実を結んだのか、ここ数年一気に水周りや植物の病害への対処が整えられて、農産物の生産量が安定した増加を見せている。


近隣の他の領地とも取引が出てきて、最近は邸に商談に来るお客様も多いようだ。


「しかしお嬢様。こんな道の悪い日にこんな所を散歩していてよろしいんですか? お嬢様もエルディちゃんも足がどろんこになっちまってますよ」


「あら、本当」


真下に視線を落とすと、ぬかるみがひどい泥道も所々歩いてきたので私たちの靴と足は泥まみれだった。


「たしかにこれはひどいわ。乾き切る前に洗った方が良さそう。ありがとうマーシャ、またね」


「はい、お嬢様。お気をつけてお帰りくださいね」


邸の門につく頃、大通りの向こうに立派な馬車が見えたが、うちに来るお客様だろうか? 


泥だらけの姿で正門の近くにいるのはよろしくないだろうから、馬屋の横でエルディの足と靴を洗って少し待ってから戻ろう。


馬を拭く時に使う水が桶に張ってあるので、そこから水をすくい、足を拭く布を用意してエルディを呼ぶ。


いつもエルディは私が呼べば静かにそばに来てくれる。ただ今日は私の所へ来る途中でなぜか立ち止まって後ろを向いた。


「エルディ? どうしたの?」


声をかけるとエルディはワオンッ!と大きい声で吠えて今来た方へ走っていく。矢のように走るエルディを見てびっくりした。


落ち着いた性格のエルディには普段みられない行動だったが、一体どうしたのか。


「エルディ!」 


大声で呼んでもエルディは止まらない。私も走ってエルディを追いかけた。


本気で走る犬に鈍足の私が追いつけるわけはないが見失うことはなかった。


玄関の横に停められた立派な馬車から降りる客人に、エルディが減速なしに飛びついてそこで止まったからだ。


明らかに高位貴族な見た目をした客人は地面に尻餅をついて呆然としている。私は両手で頭を押さえて声にならない悲鳴をあげた。


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