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18 嫌になるよな

「サイラス、私の命はもう保ちそうにありません。しかし既に教えられることは全て教えました。学んだことを胸に、国と領民の為に最善を尽くしなさい。それが私達の義務です」


「はい。心得ています」


常にそう聞かされてきたから。


「私がいなくなれば公爵達が戻ってくるでしょう。彼らが領民にとって有害であると判断すれば、彼らを排除してあなたが立ちなさい」


「見極めて善処します」


危篤とは思えない程にしっかりした声で話す。

死ぬその日まで仕事に追われているこの女性らしい。


「ふう、それでは後を頼みます。邸のことに関してはポールによく確認しなさい」


「はい。お疲れのところ、ありがとうございました」


これが母親との最期の会話だった。

悲しいは悲しいが、親との死別というよりは、一番付き合いの長い教師が亡くなったような感覚だったと思う。


部屋のベッドに座ってヴァルゴを抱きしめる。これからのことを思うと気が滅入ったが、腕の中にヴァルゴの体温を感じてすこし心が落ち着いた。


「ヴァルゴ、これから面倒なことになる。嫌になるよな」


ほとんど会ったこともない父親と、その愛人と自分と同い年の息子。

全員が放蕩者らしいのでお近づきになりたくないが、そのうち一人は名前だけなら現行当主で、これからは名実ともにそうなる。そして母の遺言に従うなら、場合によってはその椅子を奪わなければいけない。


「せいぜいあと数ヶ月。いい顔ができればいいんだが」


アカデミーに行ってしまえば家との接点は大幅に減らせる。どうせ成年してアカデミーを出るまでは爵位は継げないのだから5年は様子見だ。その後どうするか考えればいい。


そう思っていたが、やってきたのは予想よりだいぶ酷い連中だった。


母の葬式から一週間後。あの女がやっと死んでくれてめでたいだの、遺骨は公爵家の墓に入れずに実家に戻せだの、愛人の女が入ってくるなり騒ぎ立てていた。

一週間も遅れて来て何を言ってるやら。もうとっくに墓に入れられてるよ。


父親の方はたいした主張も無さそうな、馬鹿な女の腰巾着といった印象だった。

さすがにこいつの方は母の有難味を多少は理解しているみたいだったが、隣の女に説明するのも面倒でしていないのだろう。


この女とその息子を邸から追い出すために母はかなり莫大な費用を公爵に払っていたはずだ。母は稀代の才媛との評価に加えて、なにより仕事人間だった。

金を稼ぐことに関しては右に出るものはいなかったので、この三人は今まで湯水の如く浪費できたのだが、それが絶たれたのをこのバカ女は気がついていない。

領地さえあれば管理などしなくても金がどんどん入ってくるとでも思っているのだろう。


後ろにいるのは息子だろうが、髪の色くらいは同じだが俺と全然似てないな。母親そっくりで頭が悪そう、かつ性格も悪そうだ。


しかしとりあえず公爵に挨拶はしておくか。

今の俺はこいつの許可がないと別居もできないから、できれば関係性を最悪まで落としたくない。


「公爵。お戻りいただきありがとうございます」


公爵とはさすがに面識があるから自己紹介はいらない。今更父親と呼ぶような関係でもないからこれでいいだろう。


「ああ、これからよろしく。サイラス」


「ディー、ネル。この子がサイラスだ。サイラス、この女性はミディー。私の次の妻になる。後ろの子はネルソンで、君の弟だ」


「ご結婚なさるのですね、それはおめでとうございます。次期公爵夫人とネルソン君もこれからよろしくお願いします」


「まぁ。お人形みたいな子ね。親が死んだってのに平然として、気味が悪い」


表面上だけでもまともな挨拶ができないのか? この女。


「へー、あんたがガリ勉の兄貴かぁ。よろしくー」


気のない声でニヤニヤ笑いを浮かべながら返してくるアホ。

ミディーだのネルソンだのという名前がもったいない、今日から俺の中でおまえらはバカ女とアホだ。

公爵も女の趣味の悪いのは仕方がないにしても、この常識知らずの馬鹿どもをうちの邸に引き入れたのは大罪だな。



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