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17 初めての友達

「坊ちゃんは何か好きな物とか趣味とかあるんですか? あるいは、切磋琢磨する友人とかかわいいと思うお嬢さんとか?」


なんでそんなことを聞くのかはわからないが自分とは無縁の物ばかりだ。

大抵のことはすぐ理解できるので学問は苦痛ではないが、別に楽しいとも思わない。他人との関わりも希薄で親しい人も特にいない。


毎日家庭教師やら何かの専門家が来て、カリキュラムが終わればまた別の者がやってくる代わり映えのしない日々。目の前のこの人もその一人だが。こんな無駄話をしてくる先生は珍しい。


「僕も母に似て感情の波があまりない人間なのかもしれません」


実際自分でそういったものを感じることはほとんどない。


「うーん、私の見立てですと坊ちゃんは奥様みたいな本当に冷静な方とはちょっと違うというか、根は熱い男だと思いますよ。多分想いが乗ってる時の方が力が出るタイプです。まぁ、今のところ熱の行き場が無さそうですけどね」


そんなことは初めて言われた。嘘くさいなとも思ったが。




すっかり忘れていたその言葉を思い出したのは、庭で拾った仔犬を誰にも告げずにそっと部屋に連れ帰った時だった。


厨房から山羊のミルクをくすねて来たかったのだが、厨房など入ったことがないので何が何やらさっぱりわからない。結局下準備をしていた見習いの料理人に取ってもらった。突然の奇行に驚かれてしまったが理由は聞かれなかった。


リネン室に行って布を物色する。一番触り心地の良さそうなタオルを選んで数枚持っていった。

タオルでベッドを作ってあげてミルクをあげると口の周りを真っ白にしながら飲んでくれた。手足の生えた丸パンみたいな形の仔犬はお腹がふくれるとタオルに包まって眠っていた。


感じたことのない高揚感に戸惑いながらも、名前は何にしようかと寝ずに考えた。

由来だとか音だとか綴りだとかを考えながら紙一杯に思いつく名前を書きまくって、それが三枚目になった朝。


「ヴァルゴ」


自分と違ってぐっすり寝て起きた仔犬に呼びかける。まだ短い尻尾をパタパタさせて飛びついてくるヴァルゴに胸が熱くなる。


隠しておけるものでもないので犬の存在はすぐに母の知るところとなったが、日々の学問や鍛錬に問題がなければ、という条件付きで飼育はあっさり許された。


その後は代わり映えしない日々にも笑顔が増えた。年々学問も専門的で高度になっていったがヴァルゴが隣にいるだけで全てがすこぶる捗った。せっかくできた友達を成績不振などというくだらない理由で失うわけにはいかない。


意味もなく呼びかけたり抱きしめたりする。一日の終わりに目を合わせてから眠りにつく。ヴァルゴとの生活が始まって、今までの自分がいかに孤独だったのか初めて知った気がした。




13歳の頃に、母から経営に関する早めの実践として小さな商会の運営を任された。さすがに机上の学問とは違い難しいことも多かったが、周りから助言をもらい試行錯誤しながら一年も経てばそれなりにうまくまわせるようになった。


14歳の時に母がもうすぐ死ぬと本人から聞かされた時は衝撃を受けた。二年前に一度体調を崩したとは聞いていたが、それから母の生活に大きな変化が見られたわけではなかったから。後にして思うと、去年から始まった実践は母なりの最後の教えだったんだろう。



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