13 傷心の痛み分け
「実は私ちょっとうぬぼれてたの。サイラス様も私といるのが楽しくて私のことを好きになってくれてるんじゃないかって。ひどい勘違いで私はむしろエルディに付いてきたお邪魔虫だったんだわ。カリナのお兄さんによれば憎しみまで抱かれてるし」
「そんなことないと思うけどなぁ」
「こっちはとっくにサイラス様のこと好きになっちゃってるのにひどいと思わない? 正直最初の結婚話の時、理由は自分の犬を取り戻したいからって言われてたら納得してたわよ。でももうこっちの心情的にそれが無理になっちゃってるの! それなら私抜きでエルディだけ要求してほしかったわ。それはそれで私は困っただろうけど!」
「なんで公爵も早く言わないかね」
「でも私の失恋は置いておくとして、問題はエルディよ」
「もし公爵がエルディを要求してきたらマリーはどうすんの? エルディを渡すの?」
一夜明け、うちの領地へ向かう馬車の中。エルディは今私の隣に座っているが今後どうなるのだろうか。
「悔しいけどサイラス様のエルディに対する愛は本物だわ。私のエルディに対する愛も本物なんだけど。本物と本物のせめぎ合いなんだけど」
「うん、わかる。わかる」
「だからエルディの幸せを考えてこれからを決めなきゃいけないんだけど、とてもじゃないけど今はサイラス様と顔を合わせられない」
「付き合ってもいないのに離婚調停の親権問題みたいな話になるとはね」
「エルディ。あなたの幸せってどこにあるのかしら」
「まぁ邸に着いたらゆっくり考えればいいよ」
おそらくエルディの元飼い主がサイラス様で、エルディの為だけに私に近づいて来て、全く好きでもない私と結婚してまでエルディを取り戻そうとした。
というのがサイラス様の目論みだろうから、それが明らかになった今、私は完全に失恋した。
「私とエルディが同じくらい好き」とかなら嬉しいが100:0でエルディにしか愛が無いというのは、サイラス様のことが好きな私にとって悲しすぎる。
ちょうど友達の約束も昨日で終わったことだし、事情を説明して実家に帰る旨を手紙に書いた。セバスにサイラス様に渡すようお願いしたので、少し心が落ち着くまでサイラス様とは距離を置けるだろう。
もし今日もいつものようにジェムさんが迎えに来てくれたら行かない訳にもいかないので、逃げるように朝早く実家に出発した。愚痴を聞いてもらう要員としてロイ君を連れて。
真相が判明した以上エルディをお返しした方が良いのかとも一瞬考えたが、こちらもエルディとは深い絆で結ばれた仲である。7年前ならいざ知らず、今現在、サイラス様と私なら正直私の方がエルディに好かれていると思う。多分。
そろそろ本邸に着きそうだ。一昨日までこのくらいの時間はいつもサイラス様と一緒にいた時間だった。淡いライトグレーの生地で作った犬のぬいぐるみをプレゼントした時は、その犬をぎゅっと抱きしめて子どものように喜んでくれていたのを思い出して胸が痛い。
「マリー! ありがとう! 私の目のような冷たい色でできてるのになんだか温かみがある。こんな優しそうな犬を作れるなんてマリーは天才だ」
その日からライトグレーのフワフワの犬が執務机の一角に座っていた。
「この子がいると仕事を頑張ろうという気持ちになるんです」
なんで私にあんなに優しくしてくれたのか。あの笑顔が記憶から離れずにまた涙が出てくる。
あの優しさが演技ならサイラス様は役者か何かになった方がいいわね。
感傷に浸りながら門をくぐって馬車を降りると、なんだか騒がしい。
聞き慣れた声が聞き慣れないトーンで言い合いをしている。すぐに誰かはわかったが、なんで? という感じだ。
ここにいるはずのない人達が揃っている。
いつ帰ってきたの? お姉様
どうやってか実家に先回りしていたサイラス様
多分お姉様に連れてこられただけのアラン王子
アラン王子が私達を見てやっと来た、という顔をした。
「お前が原因でエレノアとサイラスが馬車の中でずっと言い合ってたんだが。なんとかしろ」
何故そうなった?




