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12 ヴァルゴさん?

最初の乾杯の時しかアルコールは飲んでないのだが、普段飲み慣れないせいか時間差で少しお酒が回ってきた気がする。


サイラス様が心配してくれたが、私を一人残すのも不安だと言う所にロイ君がちょうど居合わせたので、今は果実水を取りに行ってくれたサイラス様をロイ君と二人で壁際のソファに座って待っている。


「来る前は不安しか無かったけど、楽しそうだね」


「うん、すっごく楽しい」


私が行きつけない夜会なんていうものを楽しめているのは、ひとえにサイラス様がめちゃくちゃ気を配ってくれているからなんだろうが。


そう思っているとあちらからよく知る令嬢が歩いてきた。


「ごきげんようマリー。あんた今日大注目じゃない!」


「カリナ! 久しぶり。元気にしてた?」


羊をたくさん飼っている友達のカリナだった。侯爵家のお嬢さんだが全く気取らない性格で、私の仲良しな友達である。横にいる男性はカリナの家で見たような……

おぼろげな記憶だが、カリナのお兄さんだったと思う。なんか元気が無いようだが。


「あー、うちの兄はいましがた失恋したのよ」


なんと! いい人だったと思うのだがお気の毒に。


「いや、マリエラさんがまさか。サイラスとだなんて……あんな偏屈野郎と」


「カリナのお兄様はサイラス様とお知り合いでしたか?」


「ああ、アカデミーで部屋が隣だったんだ」


「じゃあ、サイラス様のお友達?」


この人がヴァルゴさんだろうか?


「あー、俺とは比較的喋る方だったから周りにはそう思われてたかも。サイラス本人は否定しそうだけど」


客観的に友達なのに友達ではない? 難しい。


「それで、マリエラさんはサイラスと、あー、オツキアイシテイルンデショウカ?」


「そういう訳ではないんですが」


「えっ!?」


「でもマリーは公爵のこと好きみたいじゃない。見てればわかるわよ」


図星をつかれて、顔が真っ赤になる。


「ぐぅっ!」


さっきからカリナのお兄さんはお腹でも痛いのだろうか?


「うーん、でもサイラスって表面上は行儀良くしてても、気性の荒い所があるし、頭は良いけど冷徹だし、人間不信で他人に全く心開かないし。マリエラさんにはもっと穏やかな人がよくない?」


「見苦しい兄ね」


「いや、だって七年前なんて鬼みたいになってたし。『俺からヴァルゴを奪った女を許さない』みたいなすごい剣幕だったからさ。マリエラさんと相性悪くない?」


ヴァルゴを奪った女? 恋愛絡みの問題でサイラス様を裏切ったりしたんだろうか?


「カリナのお兄様はヴァルゴさんではないの?」


「うちのバカ兄はヘンリーよ。名前も知られてなかった時点で脈は無しね」


「あーサイラスがね、友達は一人だけって言ってたのが俺だと勘違いされてることが多かったんだけど」


お兄さんが涙声になってきているが風邪でもひいているんだろうか。


「あいつ人間苦手だから。友達のヴァルゴっていうのは犬だよ、犬。愛犬だったらしいけど、よく犬のことでそこまで熱くなれるよな。なんか事情があって会えなくなったとか言ってたけど」


「犬……」


隣で聞いてたロイ君がぼそっとつぶやいた。


七年前に会えなくなった犬?


ヴァルゴを奪った女を許さない?


まさかとは思うが、エルディの姿が脳裏をよぎる。エルディと私が出会ったのもちょうどそのくらい前だ。


思い返してみればエルディが知らない人に飛びつくなんてことは今まで一度もなかったし、最初から親しげにしていたと思う。


もしエルディがサイラス様が大切にしてたヴァルゴなら、最初邸に来た時エルディを見つけて私に近づこうとしたんだろうか。


思いもよらない話に心拍数が上がってしまった。

今、いつもの顔でいられてるだろうか?


「マリー、大丈夫? 顔色ひどいよ」


ロイ君が心配してくれるが、ごめん、ちょっと自分でもなんともできない。


「マリエラさん、大丈夫? ヒッ!」


「ほら、兄さん。馬に蹴られる前にさっさと退散しないと、公爵から蹴られるわよ」


カリナが、じゃあね、マリー。と言ってお兄さんをどこかへ連れて行くと、別の方向からグラスを持ったサイラス様が早足で戻ってくるのが見えた。久々にあの目つきの悪いサイラス様を見た気がする。


「遅くなってすみません、知り合いにつかまってしまって。変な男につきまとわれたりしていませんでしたか?」


「……いえ、お友達に偶然お会いして。ご兄弟の方と少しお話しただけです」


「あの、マリー。さっきよりだいぶ顔色が悪い。水を飲んだら今日はもう帰りませんか?」


「ええ、そうします。じゃあ、ロイ君また後でね」


「マリー、俺も適当なところで帰るから。気をつけてな」


帰り道は頭がぐるぐるしてほとんどしゃべれなかった。余程具合が悪そうに見えたのか、心配そうにこちらを見る薄い色の瞳と目が合った。ただ今はそれも辛くて目を閉じてしまった。


邸について体調が良くなるまでそばにいたいと粘るサイラス様にお帰りいただいて、出迎えてくれたエルディに呼びかけてみた。


「……ヴァルゴ」


一瞬エルディはあれっ? という顔をしてからいつも通りにワンッと返事をしてくれた。


サイラス様が一緒にいたいのは私じゃなくてエルディ。

涙が止まらなかった。



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