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11 三ヶ月の終わり

ついに建国祭当日になった。

サイラス様のお怪我の全治三ヶ月というのも今日でちょうど終わりになる。

正直もう怪我人だったのを忘れるくらい回復しているので「暦の上では」といった感じはするが。


最初、サイラス様は犬への愛を共有できそうな同志を求めるあまり暴走したのだと思っていたけど、出会ってからずっと私に誠実で優しく親切である。

ひょっとしたら私個人のことも好きになってくれているかもしれない。ような気がしている。


今日でサイラス様から頼まれていた友達の期間は終了になるのだけれど、パーティが無事に終わったら勇気を出して告白したい。


いただいたドレスを着て、ローラが複雑に編み込みながら髪をすてきにまとめてくれた。自分史上最高の仕上がりだ。


今日はシャンプーしてふわふわになったところに、新調した首輪をつけてエルディもおしゃれになっている。もちろんパーティには連れて行けないが、サイラス様がお迎えに来てくれた時に披露したい。


エルディを見せたり、サイラス様とパーティに参加したり、告白の予定があったりで普段のゆるい日常と違いすぎて、まだ第一関門にすら到達してないのに緊張がすごい。


「……マリー、ガッチガチじゃない? 大丈夫?」


「ロ、ロイ君。大丈夫よ。行って帰って来るだけなんだし」


幸い私には挨拶しなければいけない偉い知り合いもいなければ、人と交換する情報も無く、働いてないので仕事の話も一切無い。夜会の方からしてみれば何をしに来たの? という感じだろうが。

サイラス様とお出かけ楽しみ! 学生時代の友人と会ったら少しお話できるかなーってくらいの軽さである。


「俺もアカデミーの連中と後で行くけどさ。なんか困ったことあったらすぐ来いよ」


「ありがとう! 会場入りしたら真っ先にロイ君の位置情報を把握しておくわ」


夜会初心者の私はなるべくならサイラス様と離れたくないが、立場が立場だけに私にかまってられない可能性もある。お姉様も王子と一緒だから確実に忙しい。お父様とお母様もたまにしかこういう席に出てこないから多分挨拶回りで忙しい。そうなったらロイ君を全力で頼りにしよう。


他力本願な誓いをたてていると窓からサイラス様の馬車が見えたのでエントランスまでエルディとお出迎えに出る。


「マリー! ああ、本当に似合ってます! なんてすてきなんだ!」


サイラス様が膝から崩れ落ちそうになってたので急いで制止した。サイラス様が大げさなのはいつものことだが衣装に汚れが付いたりしたらまずい。


「お迎えに来ていただいてありがとうございます。サイラス様も今日は一段と凜々しいです」


サイラス様は私が着ているドレスのベースカラーを濃くした感じのタキシードにアンバーのブローチで首を飾っている。髪は普段一つに結んでいる髪をほどいて、片側の前髪を後ろに流している。いつもとは雰囲気が違う格好良さがあり、くらっとする。


「お渡しが直前になって申し訳ありませんが」


サイラス様がビロード張りの小さな箱を取り出して差し出してきたので開けてみると、

アンバーのイヤリングが入っていた。


「きれい」


角度を変えながらイヤリングを見つめていると、サイラス様がそれを取って耳につけてくれた。

顔が真っ赤になるのが自分でもわかって目をそらすと、部屋の片隅でめちゃくちゃ微笑ましそうにしているローラと目が合って気まずい思いになる。


「ありがとうございます。ドレスもアクセサリーもこんなに素敵な物をご用意していただいて」


「お誘いしたのはこちらなんだから当然ですよ。外出がこんなに楽しみなのははじめてですからお礼を言うのは私の方です」


「サイラス様からご用意していただいたドレスがあんまり素敵だったから、今日の思い出にエルディもお揃いにしたんです。エルディ、こっちにおいで」


エルディがとことこ歩いて来てサイラス様の前に座る。


「エルディ! 私を差し置いてマリーと衣装をそろえるとは!」


サイラス様はエルディのほっぺの肉をひっぱってむにむにしている。どうも喜んでくれたらしい。


「しかし、贈ったドレスを気に入っていただけたようで良かったです。今度今日の衣装で二人並んで絵でも描いてもらいましょう。エルディも一緒に」


「嬉しいです! こんなに素敵な衣装、人生で初めてでしたから」


「フフ、これから先いくらでもそんな機会はあると思いますよ」


「でも今日はとりあえず今日を楽しむとして。行きましょうか、マリー」


サイラス様が手を引いてくれ、そのまま馬車に乗り込む。


「じゃあローラ、行ってきます。エルディまた後でね」



王宮に夜入るのは初めてだが、昼とは全然違う趣があって、昼の方が明るいはずなのに夜の方がキラキラしている。


大広間で王族の方の挨拶があるのでそちらに行かなくてはいけないのだが、その道中で着飾った美女達がひっきりなしにサイラス様に話しかけに来る。


サイラス様は軽くあしらっているが、次から次へと様々なタイプの美人がやってきてギラギラした目をこっちに向けてくる。


以前に女性とはとんと縁が無いみたいなこと言ってたので私は勘違いしていたが、やっぱりサイラス様ってすごくもてるのでは?


「マリー、私は家が割と大きいので皆さんご挨拶にはいらっしゃいますけど、お互いに個人的な興味は全く無いので気にしないでくださいね」


最初は身分順に並ぶので会場の一番前の方に到着すると、サイラス様がげんなりした感じで言った。ここに来る間、隙あらば私の場所を取って代わろうとする強者もいたのでサイラス様がかなり強めに手をつないでいてくれた。


始まってもいないのに私も少し疲れたが、ぎゅっとつながれた力強い大きい手が嬉しい。


王族の人たちが登場して(第三王子アラン様の横に美しく着飾ったお姉様がいて内心はしゃいでしまう。お姉様は今日も最高に美人だ)、色々とお祝いの言葉とかを述べられた後、乾杯があり一気に場がにぎやかになる。


どうもサイラス様が女性をエスコートして来るのが珍しかったみたいで周囲からかなり目線を感じたが、サイラス様本人はどこ吹く風だった。


サイラス様に話しかけてくる色々な人にご挨拶していたが、それが一段落したところで音楽が始まった。


「マリー、良かったら一緒に踊ってくれませんか? 怪我もすっかり良くなったというのをお見せしますよ」


「私はあまり慣れてないので、上手ではないと思うんですが。サイラス様が良ければ喜んで」


サイラス様に手を取られて踊りの輪に入る。


ちゃんと動けるか不安だったが、サイラス様が上手なので合わせて動くようにしていたら、それなりに踊れたと思う。


私は途中から緊張も忘れてただただ楽しんでいたが、見上げたサイラス様も楽しそうににこにこしているのでそれが嬉しくて胸が熱くなった。



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