0 犬と令嬢
私の名前はマリエラ・フォレット。一応フォレット伯爵家の次女である。
そこそこの身分ではあるものの、若くして社交界の華と名高い姉や、アカデミーの成績が優秀で文官として有望視される弟と違い、取り立ててなんのとりえもない。
見た目も兄弟はきれいなハニーブロンドの髪に湖のような濃いブルーの瞳でキリッとした顔立ちだが、私は髪はライトブラウンで瞳はダークブラウン。顔立ちもどこかぬけた感じで、色と相まって全体的に地味である。
性格も思い込みの激しいおっちょこちょいと評されているし、女学校の成績は中の中で卒業。
散歩と縫い物が趣味で、運動神経が良いわけでもなく足も遅い。おしゃれへの興味も薄く流行にも疎い。政治にも詳しく無いし、感情がストレートに顔に出るので腹の探り合いなどはできるできないの前によくわからない。
ないない尽くしで自分で言っててむなしくなってきたが、幸いにも家族関係は良好でみんな仲良しである。
両親は
「マリーは小難しいことと縁が薄そうなのんびりしたおうちにお嫁にいけばいいよ。お父様がいい人を見つけてくるから」
と言ってくれているので、まだ嫁ぎ先は見つかっていないが、お先真っ暗ということもないだろう。多分。
うちの家族の特徴が一つあり、皆動物好きである。
姉様は猫たちを、弟は鳥を飼っているが、私のみそっかすな立場を彼らは空気で感じているのか、私は猫と鳥には大変なめられている。
猫たちは餌をあげようと呼んでも出てこずに、高いところに潜んでいて私の頭にジャンピングアタックを仕掛けてくるし、鳥はなぜかいつも私の肩に糞をする。
執事をはじめとする邸の皆も猫と鳥にいつもいいようにされている私を見て苦笑いしている。
そんなこんなで自分のヒエラルキーが不安になることもあるが、この家には私を愛し尊重してくれる最高のパートナーがいる。
私の大好きなエルディ。
私とおそろいのブラウンの毛並みをした中型犬で、優しくて賢くて明るい。理知的なアーモンド型の瞳には慈しみの心が宿っていて、私が何かやらかしても穏やかな表情で見守っていてくれる。少女時代からずっと私に寄り添ってくれている愛犬である。
王都の女学校に通っていた時もエルディと離れるのが嫌だったので寮には入らず馬車通学だった。
うちの領地は横に長くて、右端が王都の近く、左端は田舎である。
本邸は田舎の方にあるが、領地近くの王都にも小さい別邸があるのでそちらから通っていた。
昔、姉が同じ学校に通っていた時も猫と離れられずに別邸を使っていたが、今は弟が使っている。
愛鳥のグリフォンちゃん(小型の鷹)と離れがたいのだ。
弟の通うアカデミーは私の通ってたお嬢様育成学校みたいなのとは全然違う文官・武官を養成するガチな学校なので、最初の二年は全寮制でめちゃくちゃなカリキュラムで勉強させられるらしいが三年次から多少の自由がでてくるとかで私の卒業と入れ替わりに今年の頭から通学にシフトしたらしい。
どちらも15歳入学だが女学校は3年制、アカデミーは5年制である。
本来は卒業してすぐに婚約者のところにお嫁にいくのがうちの卒業生の典型なのだが、私の嫁ぎ先はまだ模索中なので、いまのところ毎日が休息日のような日々だ。
縁談の話も無いではないのだが、姉が華やかな美人で有名なために私にもそれを期待する人からの話が多く、今の所まとまっていない。
父親と弟とうちで働いてる人以外の男性とはとんと縁が無いので、誰が好きとかどんな人が好きとかいうのは自分でも定まっているわけではない。が、姉への憧れをこじらせた男性よりも、私本人のことを好きになってくれそうな人がいい。
「どんな人がいいの?」とお母様には聞かれるので「優しい人」とおぼろげな希望は伝えてある。
たとえば姉の恋人兼婚約者の第三王子アラン様は世間一般的には人気が高いが私は正直苦手である。
同級生には王子のファンが多く、
「イケメンのオレ様で強い! 最っ高じゃない!」
などとよく熱弁されたが同意はしかねた。
姉と長年の付き合いなのでよく家にもいらっしゃるが、よくくだらないことで私をからかってくる。
以前私がエルディのためにチーズクッキーを焼いていたら、それを勝手に食べて
「味が薄いし甘みもゼロでまずい」「堅焼きすぎてまずい」
とまずいまずい言ってそれ以来クッキー作りがド下手認定されてる。
犬用のクッキーが王子の口に合わないのはどうでもいいが、エルディが喜んで食べてくれる物を「まずいまずい」と騒がれると腹が立つ。
私が王子を好きになれない要素のひとつは姉の猫は好きそうなのにエルディには全く興味がなさそうで、犬は好きじゃないと公言しているところだ。
結婚相手に贅沢を言える身分ではないかもしれないが、どんな人がいいかと言われれば、優しくてエルディをかわいがってくれる人が良いかもしれない。




