くそげーにでてくるおうさまのはなしはながい
「なるほど…ここがスタート地点というわけか…」
ヘレナの転生魔法によって光となった隼が飛ばされてきたのは、王が居座る玉座の間であった。しかし、そこは誰もが想像するような華やかな雰囲気は無い。部屋全体は小さめで、周りに見える窓や石柱や石床にはひびが入っており、石段の上にある小さめの古びた玉座も今にも損壊しそうな程に痛んでいる様子だった。
「待っていたぞ…勇者よ…」
オンボロの玉座に腰を掛けている老人が口を開く。身なりは西洋中世期頃の王といった感じで、髪は長く、また、その立派な髭が王の風格を醸し出していた。
「私はこの国の王。アリック=レオポルドだ…まぁ国といっても今はしがない村程度の大きさしか無いが…昔はこの国も大きく栄えていた。長き安寧と繁栄がそこにはあったのだ。奴が現れるまでは…そう…そやつの名は闇皇帝サロス…奴は突然現れ、虐殺と破壊の限りを繰り返した…この世界にいる他の国々も奴にそのほとんどが破壊されてしまったのだ…」
レオポルドが涙を流すと傍にいた女の従者らしき人物がその涙をハンカチのようなものでふき取った。
「なるほど…それを僕に倒して欲しいというわけかな」
「奴の力は強大過ぎた…この国の英雄をもってしても奴を倒すことは不可能だった。そして奴は我が国の民を恐怖により支配したのだ……私は奴に抵抗するべく、反乱軍を指揮し昔からこの地に伝わる”異世界より来たりし勇者、この闇を晴らさん”という言い伝えを信じ、異世界勇者召喚の義をするため、”闇皇帝サロスを倒した後の永続の安寧と平和”を条件に暁の女神と契約を結んだのだ…」
まるでそこに隼の姿が見えていないかのようにアリックの話は続く。この間、アリックの表情は涙を見せながらも虚ろで、どこか夢見心地な雰囲気だった。また、後ろの二人組の従者や、周りにいた衛兵のような人物達もそんな雰囲気を醸し出していた。
「君はこの国のこの世界の希望だ…必ずや闇皇帝サロスを倒し、この国に、この世界に今一度平和の光を届けてくれ…」
異常に長い王の話が終わっても特に何もそれ以上は起こらず、アリックはどこかを見つめながらただ静かにそこに座り続けるだけであった。
「…王よ…」
何かを確かめるかのように隼が王に話掛ける。すると王は「待っていたぞ…勇者よ…私はこの国の王。………」といったように同じことを繰り返した。
「なるほど…同じことしか言わないか…ハーッハッハッハ!面白い!それでこそクソゲーだ!」
そう言いながら勇者隼は勢いよく踵を返した。
「さぁ!クソゲー攻略を始めようじゃないか!」
ここから地獄(彼にとっては天国かもしれないが…)とも言える攻略の日々が始まった。