くそげーをあいしたおとこ
「今回のクソゲーポイント、その1。同じnpcに100回話を振らなければストーリーが進行しない」
ここにクソゲーを愛する男がいた。
「その2、敵からのバグによる亜空間攻撃。まさか敵から12m程離れている筈のキャラに当ててくるとは…いやいや、全く…最長記録だ」
彼の名は越前隼。身長170cm、フランス人の母親と日本人の父親の間に産まれたハーフで、性格に少々難ありではあるがそれ以外は至って普通の高校生である。クソゲーにだけ見せる彼の異常とも言える程の愛を除けば。
「その3、圧倒的なパラメータ差。敵のレベルがこちらと同じなのに対して、こちらのhpは20。敵は99。恐らくSTRの値もおおよそ3倍程の差がある…。圧倒的ロードの長さ…過去に類を見ない数のバグ。特に女性3dモデルに確定でキャラメイク男性8番の髭が生えるバグは類を見ない面白さと…」
ブツブツとなにやら独り言を言いながら、手袋を付けた手でゲーム機からディスクを慎重に取り外す。勿論、指紋一つ付かないように。そのままそーっとディスクをパッケージに戻し終えた後、ブロアーで埃を掃き、パッケージに残った掃いた埃を一つずつ丁寧にピンセットで取り除き、そーっとパッケージを閉じる。
「ふぅ…実に…実に…良いクソゲーだッ!素晴らしいっ!こんな…!こんなにも!ありがとう…僕を選んでくれて…僕は君を一生大切にするよ…」
そう言いながら世間では100円で売られているこのゲームディスク(タイトル「The Mystery of My Golden Self(直訳:黄金の俺の謎)」)の入ったパッケージをショーケースに大事に仕舞った。
「はぁ…こんな気持ちになったのはいつ以来だ…ポリ子ちゃんに初めて恋をした時以来だよ…全く…」
ちなみにこのポリ子ちゃんとはハーレムモノ恋愛シュミレーション「ドキドキドッキュントキメキメキ学園」に出てくるキャラで、酷い3dテクスチャバグのせいで顔のパーツ全てが前に飛び出ているという酷いバグキャラであった。その後のアップデートで顔のパーツを整えたものの、何世代程前かのポリゴンキャラになったことから古ポリ子(通称ポリ子)とネットで名付けられた。因みにこのゲーム、女の子を落とすには必ずリアル課金アイテムが必要で、隼はポリ子の為に毎月10万以上の課金をした。(何度もニューゲームを繰り返していた)彼曰く、ポリ子の為なら死ねる。
「はぁバイトの時間だ…」
そう言うと、彼は自室の自作ポリ子ポスターに手を振りバイトに向かった。
バイトに向かう途中、彼は車道に捨てられていたゲームのパッケージを偶然見かけた。そのゲームのタイトルは先程までやっていた「黄金の俺の謎」、更にそれと重なるようにして「ドキドキドッキュントキメキメキ学園」この2つが捨てられていた。
隼の体は瞬発的に動いていた。脳内妄想のポリ子が助けてと叫ぶ前に。次の瞬間、大型のトラックに跳ねられた隼の体は空を舞っていた。
「ポ、ポリ子…良かった……無事…だったんだね…」
ゲームのパッケージに傷が無いことを確かめ、この安堵の一言を最後に齢18にして彼はこの世を去った。