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Alone  作者: 大藤 匠
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窮地


「ば……、馬鹿な」

裏プロ吉住が喉の奥から絞り出すように呟いた。

まるで、断末魔のように。


「イカサマじゃねえのか!?」

「イカサマに決まっている」

吉住の側近連中が続け様にオレをなじる。


オレはポーカーフェイスで静かに答える。

「格下相手にイカサマをするほど弱くはねえ」

「「格下だとっ!!!」」

側近連中が声を重ねる。


「嗚呼、格下だ。寧ろ、イカサマはそこにいる裏プロ様の十八番じゃないか」

あまりにしつこいので、少しばかりの皮肉を込めて言い放つオレ。

(どう出る?暴力で解決か??(苦笑))


「ふざけるのも大概にしやがれ」

「無事に帰れると思うなよっ」

呼吸も荒く俺に対して恫喝してくるふたり。


「オレは売られた喧嘩を正直に買うほど野蛮じゃない。だが、どうしてもやるというならこちらにも覚悟がある」


この時、オレの視界の端っこで吉住の静かな圧力が込められた座り気味の目が(こいつはヤバい)と警鐘を鳴らしていた。


話にはよく聞くだろうが、チンピラやヤクザの類には2種類存在する。

好戦的な輩と、理知的な輩。

前者は、稀に例外はあるが下っ端に多く見られる。後者は厄介だが「対話(交渉)」が成立し得る。

見た感じや麻雀の打ち回しから想定できる『裏プロ吉住』は『clever』である。

オレひとり殺るのは容易いだろうが、実行すればオレの雇い主を敵に回すと同時に『お得意先』をも失う。

さらに蛇足を重ねると、オレを殺る心算なら、その場に自身がいない機の方を好むだろう。

下っ端の代えは量産できるが、自身が手配されるリスクは避ける。

そういう理屈だ。


『〇〇さんよ』

吉住がどすのきいた重低音でオレの『通り名』を呼ぶ。


さすがのオレも背筋にゾクッとするほどの冷気が走るのを覚えた。(おそらく此奴はガチでヤバい)


(生か死か)


もとよりオレは自分の生命に頓着してはいない。が、この瞬間、この刹那にのみ感じられる『生の実感』とでもいおうか、恐怖より先の『愉悦』にも酷似している不可思議な感覚がオレの脳内を支配下に置いた。


『吉住さんよ、オレを雇わないか??』


オレの口から不意に溢れ出た言葉は、吉住と側近連中の『想定外』だったのだろう。

さすがの百戦錬磨も、その側近連中も次の言葉が見当たらない。


「……」


「代打ち半チャン1回、200万円でいい。ちなみにオレの連帯率は8割を超えている。もちろん常に勝てるわけでもないが、半チャン数回セッティングしてもらえれば高くはつかないはずだ。」


吉住の双眼がオレのそれをじっと見据える。

まるで、値踏みと言おうか頭の中で超高速のそろばんをはじいているようだ。


やがて、算出されたのか。吉住から意外な答えが返ってきた。


『250……否、300で手打ちとしよう』


『交渉成立』

オレはこの時未だ、自分の『生の実感』を愉しんでいた。


吉住の思惑とオレの思惑。

交差するふたつの思惑が狂想曲のように音色を奏でる。

命拾いしたというよりも、必ず訪れる『死』がほんの少しだけ先に延びたというところか……


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