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四話 王選開始の宣言

「それは、本当ですか!?」


 ナタンは目を丸くし、一歩前に出た。大神官は満足げに何度か頷き、詳細を語り始めた。


「エタンセル王国はまさに今、変革の渦中におります。先々代、先代の王が続いて身罷られ、民たちの不安も大きい。特に女王は……」


 大神官はちらりとローレンを見やり、言葉を止めた。


「みなが道に迷うとき、神は道をお示しになられました」


 胸の前で両の手を組み、大神官が祈るように述べた。


「しかし、王の素質があるものが三人というのは、どういうことでしょうか?」

「王選をするのです」


 みなが一様に瞠目する。


「民たちは暴君の悪政により、長きにわたって苦しめられてきました」


 また、大神官はローレンに顔を向けた。彼がなにを躊躇っているのか、容易に想像ができる。


「言いにくいことがあるのなら、躊躇する必要はないわ。私は今、王族としてではなく神託の子どもとしてここにいるのだから」

「姫さま……」


 隣から心配そうな呟きが聞こえたが、聞こえなかったふりをする。


「姫さまが即位したとして、平民たちは納得しないでしょう。先代女王の二の舞になるのではないかと不安は募るばかりです」


 だからこそ、ナタンもローレンを立太子させていないのだろう。平民が王族と触れ合う機会などないに等しく、人柄など知りようもない。


 先代女王のイメージが最悪で、ローレンも同様に捉えられている可能性だってあるのだから。


「神は三人の候補を選ばれました。そこからさらに国民に選ばせるのです」

「神はどのようにしてお選びになられたのですか?」

「それは私も気になっていたところです。もし名前をおっしゃられたのなら、同姓同名がいてもおかしくはありませんよね?」

「神を疑っているわけではないの。けれど神が選んだのならなおさら、間違いがあってはいけないでしょう」


 アレクシス、ナタン、ローレンと続くが、ジェシカはだんまりを決めている。それにしても、アレクシスの袖を掴んでいる彼女は本当にちゃっかりしている。


 ――呆れた。神託よりアレクシスってこと? 王はおろか王妃だって、自分のことしか考えていないあなたに務まることじゃない。


「昨夜、夢を見たのです。神のお言葉とともに、こちらの三人の姿が鮮明を浮かびました。過去にも夢という形で神託を授かった大神官もいたため、間違いはありません」


 少しの静寂ののち、ナタンが首を縦に振った。


「王選を、しましょう」

「おぼろげですが、十という数字を覚えています。これは王選の期間が十年ということでしょう」

「……姫さまの年齢が十歳ですが」

「ジェ、ジェシーも十歳よ! ね、アレクさま」

「ええ、そうですね」


 全員の視線が大神官へと向く。


「アレクシスさまはおいくつですか」

「僕は十二歳です」


 若干顔を引きつらせていた大神官は、アレクシスの返答にほっとしたような表情になった。


 ――私が過去に戻らず処刑されていたら、アレクシスが王になるまで十年。だからきっと、大神官の言う「十」は期間で正しいはず。


「年齢は関係ないようですね」

「――王族であるローレン・ルフェーブル殿下、ジラール公爵家のアレクシス・ジラール公子、サンチェス侯爵家のジェシカ・サンチェス令嬢。この三名を次期王の候補とし、エタンセル王国が宰相、ナタン・マシューがここに王選開始の宣言をいたします」


 この事実は瞬く間に王国中に広まるだろう。


「ジェシーが王さまになれるなんて!」

「あくまで候補です。口を慎むように」


 頬に手を当てて喜ぶジェシカをアレクシスが咎める。そんな二人を横目にローレンはナタンとともに帰ろうとしたのだが、大神官に呼び止められた。


「お渡ししたいものがございますので、もう少しお時間をいただきたくございます」

「マシュー卿は大丈夫かしら?」

「予定をずらしておりますので問題ありません」

「あまり眠れていないのでしょう。先に馬車へ戻って仮眠をとったらどう?」


 ナタンにかかる重責、仕事量は途方もないはずだ。


「ですが……」

「王城に着いたら起こしてあげるから」


 目を泳がせたナタンは早々に抵抗をやめ、提案に乗った。


「では、言葉に甘えて」

「そういうことだから、大神官さま。時間は存分にかけて大丈夫よ」


 ナタンと大神官がいなくなり、子どもたちだけの空間となる。それはそれでいかがなものかと思うが、話をするにはちょうどいい。


「アレクシス、私に話があるのよね? 時間もちょうどできたから、今なら聞けるけれど」

「え!?」


 相変わらず、アレクシスの頭上にはハートのマークがある。ただあるだけで気が散るからどうにかして消すことはできないのだろうか。


 ついでにアレクシスの腕にしがみついているジェシカも一緒に。


「ずっと見ていたじゃない。それとも私の勘違いだった?」

「みっ……はい。姫さまの勘違いではありません。僭越ながら、お願いがあるのです」


 アレクシスはやんわりとジェシカの腕を解き、その手を自身の胸の前へと持ってくる。


『【アレクシス】ストーリー【公子の希求】が解放されます。受注しますか? はい・いいえ』


 ローレンは目の前に現れた枠への反応をなんとか抑えた。


 今までは読むだけでよかったのに、今回は選択肢がある。しかもアレクシスの名前入りだ。


『【アレクシス】ストーリー【公子の希求】を受注しました』


 ――え!? まだ答えていないじゃない!


 まさか、枠が消える前にどちらかを選ばなければ自動的に『はい』を選択したことになるのだろうか。


 ――五秒で文章を読んで決断しろってこと!?


「お願いって?」


 アレクシスは視線を彷徨わせ、ぎゅっと目を瞑ったかと思えば一息に言った。


「僕のことをアレクと呼んでくださいませんか?」


 ローレンはきょとんとしてしまう。過去ではこのようなお願いをされることはなかった。


「どうして?」

「僕が、姫さまにそう呼んでほしいからです」


 気恥しそうにするアレクシスは心なしか色っぽい。普段とは違う雰囲気にこちらまでむずがゆくなってくる。


「ジェシーも、姫さまのことをお姉さまとお呼びしてもよろしいですか? 王選に参加するもの同士、仲よくしたいです」


 ――私がアレクシスを愛称で呼ぶのがいやなのね。


 ジェシカは表情を御しきれていない。じっとこちらを見据える金色の目には明らかに不満が滲んでいる。


「それはいけません。姫さまを呼称するには相応しくありません」


 ローレンが答えを出す前に、アレクシスが断った。


 ――どういうこと?


 ローレンの記憶では、アレクシスは間に入ってくるような積極性は持っていなかったはずだ。意見するとしたら、確実に会話がひと段落ついてからだった。


「じゃ、じゃあ! 姫さまが許可をしてくださればいいですよね?」


 公爵家嫡男であるアレクシスを愛称で呼べる人物は限られている。異性だったらなおさらだ。


 別にアレクシスを愛称で呼ぶつもりなどなかったが、ジェシカがそこまで必死になるのなら邪魔しなくてあげなくてはならない。


「そうね。アレクの言う通り、私のことを姉と呼んだら貴族たちが混乱してしまうでしょうから、ごめんなさい」


 アレクシスの目が輝き、反対にジェシカの目は鋭くなる。


「睨まれても、無理なものは無理なの。貴族であるあなたも、わかるでしょう?」


 しゅん、と顔を伏せてみると、ジェシカはさあっと顔を青くした。


 ――アレクシスに悪く見られると思ったのね。でも、もう遅いのよ。


「姫さまが謝ることではありません。ジェシー、あとで少し話をしよう」

「は、はい。アレクさま……」

「それじゃあ、大神官さまが来たようだから、私は失礼するわね」


 タイミングよく戻ってきた大神官の元へ向かい、流れで祭壇をあとにする。


『【アレクシス】ストーリー【公子の希求】 クリア(報酬・アレクシスの好感度プラス一%)』

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