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十四話 手紙

 王都では建国祭の開催を知ったものたちが喜びを分かち合う姿が見られるようになった。まだ祭りまで日があるというのに、気が早い。


「姫さま。こちらのお手紙を拝見していただきたいのですが」

「結婚相手が見つかったの?」

「冗談はおやめください」


 手紙の整理をしていたナタンが一通の封筒を差し出した。濃緑色に金色の装飾がされたおしゃれな封筒だ。


「誰から?」

「聞かぬ名です」


 ローレンはくるりと封筒をひっくり返す。


「オーレリアン・リロイ」


 ナタンと声が重なる。


「ご存じですか?」

「知り合いから聞いたことがあるわ」

「姫様にお知り合いですか?」

「失礼ね。私にだって知り合いくらいいるよ」


 訝しげなナタンを睨む。


 ここで友だちではなく知り合いとしか言えないのが悲しいことではあるが。


「知り合いの知り合いとは、他人ではないですか。私が検閲をしてから姫さまに……」

「結構よ。私が手紙を出して、これはその返事だから」


 セーブをロードしたことでオーレリアンとの接点はなかったことになってしまった。だから脈絡もない王族からの手紙をバルドに渡してもらえるか不安だったが、無事に届いたようだ。


 ――バルドの名前にしなかったのは、あくまでお店からの返答ということにしたいのね。


「私が知らない間に交友関係を広げられて……これで安心していつでも職を辞することができます」

「めったなこと言わないで。マシュー卿にはもっと働いてもらわなくちゃならないんだから」

「少しはこの老体めも労わってほしいところです」

「でも、マシュー卿の子ども……と言ってももう成人しているけれど、王城に勤めているのよね?」


 過去、ローレンが十八歳のときに病気を患ったナタンは宰相を辞し、息子に引き継がれたことを覚えている。


「地方を回り、各領地の問題に向き合い……一ヶ月ほど前に王城に勤めることとなりました。ですが、まだまだ私のあとを継ぐには足りません」


 ナタンは得意げで、それでいて意地悪そうな顔をした。宰相ではなく、父の顔だ。


「承知しました。五日後は建国祭のドレスを作りますから、忘れないでくださいね」

「たしか、アレクシスとジェシカも来るのよね?」


 今回の建国祭は暴君からの解放と王選を祝す目的で開かれる。そのため、王選候補者は建国祭の開始を告げる仕事を任されていた。三人で舞台に立ち、花火を打ち上げるのだ。


 候補者が公平であることを示すため、装いは王室の専属デザイナーが担当することが決められた。


「はい。時間はずらしておりますが、顔を合わせることもありましょう」


 自室に戻ろうかと思ったが、せっかくだからここで手紙に目を通すことにする。ローレンは逸る気持ちを抑えて丁寧に封を切った。


 非常に丁寧で綺麗な文字だ。要約すると、会って話したいと書かれていた。


「知り合いを招待したいのだけれど、可能かしら?」

「どちらの家門のご令嬢でしょうか」

「令嬢じゃないわ。魔法使いの男の子よ」

「はい?」


 ナタンは渋い顔をする。


「年齢は十六歳前後だと思うわ。差出人のお店で手伝いとして働いているそうなの」

「どちらで知り合ったか伺っても?」


 システムについて話せるわけがなく、ましてや説明したところで信じてもらえないだろう。


「……恩人なの。詳しくは、言いたくない」


 言葉を濁すと、ナタンはこくりと頷いた。母に関連することだと思ったのかもしれない。


「魔法使いへの救済をお考えになったのも、その知り合いの影響ですか?」

「そうよ」


 ローレンは小さく息を吸う。


「私は、お母さまとは違って国民を慈しむ王になりたいの。そこには魔法使いも含まれているわ。王になるために、これは譲らない」

「……」

「魔法使いとして生きるくらいなら、神に祈ったほうがましだと考えないような国にするつもりよ」

「意識改革はいばらの道ですよ。神殿との関係性も考慮しなければなりません」

「私を王だと認めさせれば、民たちは自然とついてくるわ。そのための王選でしょう?」


 ローレンは口元に笑みを乗せる。


「商人として呼ぶのなら構いません」

「本当?」

「店をやっているとのことですが、なにを売られているのですか?」

「魔道具よ」

「でしたら、姫さまが魔道具に興味を持ったため、私が手配したということにいたします」


 そのほうが体裁がよいだろう。


「ありがとう、マシュー卿。早速、返事を書かなくちゃ」


 ぱたぱたとペンと便箋を取りにいくローレンの背中をナタンは微笑ましそうに見つめ、積みあがっていた求婚状をすべて廃棄へと振りわけた。


「まだまだ、宰相を降りるわけにはいきませんね」


 呟かれた言葉は、ローレンには聞こえなかった。


 それから数日が経ち、建国祭のためのドレスを選ぶ日がやってきた。カタログと何点かの見本を持参したデザイナーの目はなぜか闘志に燃えている。


「姫さまならこちらの型のドレスがお似合いかと思います」


 もう三十分以上、人形のようにドレスを着替えさせられている。まずは型を選び、それから色やデザインを決めるそうだ。


「気に入るドレスはございましたか?」


 鏡に映る自分の顔は疲れが滲み、笑顔を保つのに必死であった。


「あまり派手でなく、シンプルなドレスをお願い。装飾も最低限で構わないわ」

「そんな! せっかく主役である姫さまの美しさを国民たちにお披露目する機会ですのに」

「主役は私だけじゃないのよ。それに、アレクシスやジェシカとの合わせはあなたたちがしてくれるでしょう?」

「いいえ?」


 はっきりとした否定に、思わず聞き返してしまう。


「宰相さまからは候補者たちの要望を重視するように仰せつかっています」


 デザイナーは生地を合わせながらあっけらかんと言う。


 ――比べさせるつもりね。


 装いが伝える印象は強い。真意は伝えずとも、国民たちの心を揺さぶらせるつもりなのだろう。


「だったらなおさら、先ほどの要望を通してくれるかしら?」

「承知いたしました。でしたら型はこちらにして、次は――」


 さらに一時間、ようやくドレスの全体像が定まった。


「お疲れさまでした。姫さまの美しさを最大限に引き出すドレスを作ってみせますから、期待してお待ちくださいませ!」

「ええ、お願いするわ……」


 さすがに疲れた。部屋を出たローレンはぐっと背伸びをし、体をほぐす。


「――オープン、セーブ」


『セーブしますか? はい・いいえ』


 出現した枠に『はい』を選択する。


「散歩がてら、体を動かしましょう」


 肌寒くなってきたとはいえ、今日は比較的暖かい。ローレンは気ままに歩くことにした。

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