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十二話 ロードしますか?

 自室へと戻ったローレンはぼふっとベッドに倒れ込んだ。


 呆然とする頭の中を整理して、枠に書かれていた文章を思い起こす。


 ――失敗……? ペナルティという意味はわからないけれど、よくないことだってわかる。


 以前、神殿でも『アレクシスの好感度』は表示されていた。好感度とはなにを意味するのだろうか。好感度が高くなったり低くなったり、それがなにに影響するというのだろうか。


「オープン」


 システムを表示させ、なにか手がかりがないか一つずつ確認していく。


「セーブとロードは関係ないから、アイテムも増えていない……ストーリー」


 ――どうして今まで確認しなかったのかしら。


 右側に大きく表示された枠には『メインストーリー【神託の子どもたち】 進行中』という文章のほかに、今まで受注してきたストーリーが並んでいた。


「この【公子の希求】で好感度が上昇して、【思い出のお出かけ】では減ったのね。結局は最初と変動はなしということ……?」


 そもそも、アレクシスの好感度など知らないのだから、考えようもない。


「ショップ」


 ショップ機能もまだ開いたことのない機能だ。


 ストーリーの一覧は消え、今度は絵とその下に文章が表示された。


「……これのことね!?」


 鍵の絵の下に名前が連なっている。


「アレクシスの好感度の鍵、ジェシカの好感度の鍵、アルシバルドの好感度の鍵……アルシバルド? バルド……? の、本名かしら」


 『アル』と『バルド』は本名からとったものだと言っていた。


「ジェシカの鍵はまずいらないとして……」


 確認したところで低いことなどわかりきっている。


「アレクとバルド、どちらを優先すべきか」


 一番気になるのはやはりアレクシスだ。


 ストーリーで確認した『魔法使いの忠誠』を考えると、不確定要素が多いアレクシスの好感度をある程度把握できていたほうがいいだろう。


「触れても反応しない。所持金が足りないのかしら……そんなことある?」


 仮にも王族だ。国庫が寂しくとも自由に使えるお金くらいある。母のように散財してきたわけではないのだから。


「王族としてもらったお金ではなく、自分自身で稼いだお金……あ!」


 ローレンは忙しなく体を起こし、クローゼットに駆け寄った。半ば入るようにして奥へと手を伸ばし、ビスケットボックスを引っ張り出す。


「そうよ、バルドはショップを見越してこれをくれたのね! やっぱり、意中というのは――」


 途中まで喉から出かかり、はっと口を噤む。


 ――そればっかり気にして、まるで私がバルドを意識しているみたいじゃない!


 ローレンはぶんぶんと首を横に振った。


「とにかく、今ある宝石をすべて換金して……いえ、待って」


 ビスケットボックスによって増えた宝石をほかの宝石箱へ移動させようとし、思いとどまる。


 ――ロードするべき?


 幸い、セーブ地点はアレクシスのストーリーを受注した直後だ。


 アレクシスの好感度が減少した要因として考えられるのは、騎士としての行動を咎めたこと以外に思いつかない。


 ――ジェシカの思い通りにさせないためには、アレクシスに好かれていたほうがいい。


 ロードしても記憶は保持される。バルドの所在は知っているから、会いにいこうと思えばいつでも行ける。


 ローレンは自分に言い聞かせる。優先すべきは、アレクシスだと。


「ロード」


『ロードしますか? はい・いいえ』


 選択した瞬間にぐにゃりと視界が歪み、真っ暗になる。そして景色が自室から渡り廊下へと切り替わった。


 気持ち悪さは健在で、この違和感と不快感だけはどうも慣れる気がしない。


「アレクシスのストーリーなのだから、アレクシスを優先しなくちゃいけなかったのよ」


 ローレンはぼそりと呟き、振り返った。小走りのアレクシスが遠くなっていく。


 ――まずは、ビスケットボックスから宝石を取りに戻らないと。


 宝石を移した宝石箱を持ち、馬車へと向かう。


「宰相殿からは街へと伺っていますが、どちらまで行かれますか?」


 馬車の傍で馬の機嫌を取っていた御者が、ローレンの姿を捉えるなり帽子を外して背筋を伸ばした。


 壮年の金髪の男で、鼻先で突いてくる馬に気まずそうにしている。


「そうね……宝石商へ向かってくれるかしら?」

「承知いたしました!」


 御者は声を大きくした。


「ありがとう。外では『姫さま』と呼ばず、『お嬢さま』と呼んでくれると助かるわ」


 ――あのパンはもう食べられないけれど、味も、あのときの感情も、私は覚えている。


「姫さま、お待たせしました」


 腰に帯剣し、純白の騎士服に身を包んだアレクシスと合流し、馬車は出発した。


「神殿で会って以来だったけれど、息災だったかしら?」

「はい。最近は調子がよく感じます。姫さまは……少し元気がないように見えますが、なにかございましたか?」

「え?」


 てっきりジェシカの話をされると思っていた。ローレンは目を見張り、頬に手を当てる。


「私はなんともないけれど……元気がないように見える?」

「僕の思い違いならいいのです」


 そのあと、過去と同じようにジェシカの話が切り出された。


 叱ったのか諭したのか、あるいは慰めたのか。今回も聞くことはできず、こんなことならロードする前に聞いておけばよかったと思ってしまう。


「到着したようですね」


 馬車を降りようとしたアレクシスを呼び止める。


「騎士服のままだと目立つでしょう? だからこのローブを着ましょう」


 前回と同じく、用意していた灰色のローブを渡す。


「それと、私のことは『レン』と呼んで。私もあなたのことをアレクと呼ぶから」

「お名前だけではなく、愛称で……?」


 アレクシスは目を瞬かせ、視線をあちらこちらへと忙しなく動かした。


「呼びにくかったら別の名前でも大丈夫よ」

「いえっ……レンさまと、呼ばせてください」

「よろしくね、アレク。それじゃあ行きましょう」


 宝石商はパン屋や魔道具の店とはそれなりに距離があるようだ。見覚えのない風景が広がっていた。


「いらっしゃいませ」


 店内に入った瞬間、華やかなドレスを身にまとった女性が笑顔で迎えてくれた。赤色のドレスの胸元には大きなピンク色の宝石が輝いている。


 女性はローレンとアレクシスの二人を見たあと、誰かを探すかのように目線を後ろに向けた。


 ――私たちは今、十歳と十二歳の子どもだということをすっかり忘れてしまうわね。


「宝石を買い取ってほしいのですが、査定していただけますか?」

「はい?」


 女性はすっとんきょうな声を出し、頬を引きつらせた。


 まさか子どもが宝石を売りにくるとは夢にも思っていなかっただろう。


「五つほど持ってきたのですが、どれくらいで確認していただけますか?」


 ローレンは懐から宝石箱を取り出し、蓋を開いてみせた。


「しょ、少々お待ちください!」


 女性は声を上ずらせ、店の奥へと消えてしまった。


「レンさま……」


 なぜか隣から哀れむような、不安げな声が聞こえたが、ローレンは聞こえないふりをした。

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