第6話 魔女のヒモじゃねーよっ!!
弦人はその後、勢いでフレアの家の居候になった。
最初は、馬小屋で寝泊まりしていたが、しばらくして、小さい離れを作り、そこで生活するようになった。
弦人が森から木を切ってきて、フレアが魔術で組み立てたのである。
フレアは非常に優秀な魔導師であった。
この人里離れた一軒家で、魔術の研究をしている。
その筋では〈白銀の魔女〉と呼ばれているそうだ。
弦人は居候の代価として、農作業や牧畜、炊事、洗濯を一手に引き受けた。
おかげでフレアは魔術の研究や、販売用の魔術用品の作製に専念でき、弦人の滞在を心から喜んでいた。
フレアの魔術用品を求めてやってくる商人や旅人たちの間では、白銀の魔女にヒモができたと噂になったが、それを弦人が知り、「俺は、ヒモじゃねーっ!!」と怒り狂ったのはだいぶあとになってからのことだ。
お互いのそれぞれの仕事が終わったあと、フレアは弦人にこの世界の主流言語、エングリス語を教えた。
まずは、基本文字の形と発音、次に単語。
名詞や動詞は比較的理解しやすかったが、形容詞、副詞は意味を理解するのに苦労した。
弦人は手に入る材料で単語カードのようなものを作った。
夜は必死に単語を覚え、翌朝、早朝に自作のチェックテストを行った。
こうして、弦人は1ヶ月で2000語を覚えた。
2000語の単語の羅列である程度、意思疎通はできたが、フレアは次に文法を教えた。
非常に幸いだったのは、エングリス語の文法が、元の世界の英語に似ているということだった。
大学受験生の弦人にとって、英語に似た文法は非常に受け入れやすかった。
文法の勉強と並行して、弦人は単語の暗記を続け、半年後には、弦人の覚えた単語は1万語を超えた。
発音はたどたどしいが、会話は問題なくできるようになっていた。
そんなある日のことである。
夕食のあと、フレアは弦人にある話を切り出した。
「ゲント」
「ン、ナニ?」
弦人は水場で洗い物を片付けているところだった。
「ゲントも、会話は十分できるようになったし、そろそろ言語以外のことも学んだ方がいいんじゃないかと思うの」
「ホント!? 実ハ、俺モ、ソウ思ッテタンダ!」
弦人は洗い物を大急ぎで片付け、手を拭いた。
「コノ世界ノ歴史ヤ科学、特ニ魔術ノコトナンカヲ、イッパイ学ビタインダ!!」
そう言って、弦人はフレアの座るテーブルに駆け寄ってきた。
「座って」
フレアは弦人にそう促した。
弦人はうきうきしながら、席に着く。
「まずは、この世界のこと……」
フレアはゆっくりと語り始めた。
「この世界の名はアースフィア」
「アースフィア……」
ゲントはその名を繰り返した。
「アースフィアは……」
フレアはそこで言葉を止め、しばらくしたあと、その事実を告げた。
「この世界はもうすぐ滅びる」