第3話 言葉通じねーのかよっ!!
弦人はなんとかゴブリンから逃げきった。
「はぁーっ、はぁーっ、はぁーっ……」
息も絶え絶えに次のことを考える。
チートなスキルとかは、期待できなさそうだ……
とりあえず、この世界での生活を安定させないと……
となると、考えるべきは衣食住……
森で自給自足とかは勘弁だな……
町か、村か、人間の集落を探そう……
弦人は、周囲を見回す。
そして、小高い山を見つけ、そちらに向かって歩き始めた。
山の頂上に着き、そこから360°周囲を観察する。
あった……
10kmほど離れたところに、遠目ではっきりしないが、人工物と思しきものの集まりがあった。
おそらく、人間の町だ。
別の方角で5kmほど離れたところに一軒家らしきものが見えた。
さて、どちらにするか……
一軒家の方は空き家の可能性もあるし、町の方にするか……
色々必要なものも揃いやすいだろうし……
弦人は町の方に向かった。
町に向かう途中、弦人は考えていた。
そうか...
現代知識チートってパターンもあるな……
現代知識を使って、内政チートとか、産業チートとか、軍事チートとか、農業チートとか、交易チートとか……
よし、その路線で、この世界で成功してやろう!!
しばらくして、町に着いた。
町は石造りの外壁で守られていた。
しかし、出入口に関所などはなく、すんなり入れた。
入ってすぐ視界に入った中年の男性に声をかける。
背中に大荷物を背負っており、行商人か何かのようだ。
「あのー、すみません」
弦人は男に声をかけた。
男は振り返り、声を発した。
「クイッド、ファチームス」
「え……」
男の言葉に、弦人は凍りつく。
まさか……
男は言葉を続ける。
「イーズ、ボルトス、ノービス。ウンデ、ベニスティス?」
まさか……
弦人は、その男との会話(会話になっていないが)を切り上げ、町中で人に声をかけまくった。
食べ物屋(らしき店)
「すみません、何か食べさせて下さい!!」
「ノン、ビーデオ。クイッド、エスト。エステナ、プランデュウム?」
まさか……
宿屋(らしき店)
「すみません、泊めてください!!」
「エステナ、アコモデイショ。ヴィ、デスナリオス、ペル、ノークテム」
まさか……
武器屋(らしき店)
「すみません、剣ください!!」
「グラータ。クイッド、クエリス?」
まさか……
防具屋(らしき店)
「すみません、鎧ください!!」
「グラータ。クイッド、クエリス?」
まさか……
道具屋(らしき店)
「すみません、薬草ください!!」
「ノンク、ヘルベイ、ビリシマエ、ソント」
まさか……
「言葉通じねーじゃねーかーっ!?」
弦人は町の中央の広場で絶叫した。
「どうなってんだよ!? だいたい、異世界転移つったら、〈なぜか言葉が通じる〉が標準装備じゃねーのか!?」
弦人は、現代知識チートで、この世界で一山当てようと考えていたが、言葉が通じないのでは、手も足もでない。
「こんなん、無理ゲー過ぎんだろーっ!?」