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終わりゆく世界で君が笑うまで  作者: 藤ノ瀬みゆり
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第1話 大戦が残したもの

何やら訳ありな様子の少女、アイリスの魔法学園生活が始まります。読んでくださると嬉しいです。

第1話

――星歴31167年


戦火に包まれて、全ては失われた。

何が、正解だったんだろう。

あの時、君の手を取らなければ結末は変わっていたのだろうか。

光の粒となって消えてしまった君に会うことはもう、二度と出来ないかもしれない。


「貴方に神のお怒りがあらんことを。」


無感情な微笑みを浮かべた彼女の手から放たれた黒い光が胸を穿つ。


「やっぱり、間違えてしまったのかな、」


この世界で生きるには、君は優しすぎたのかもしれない。


『……を殺してくれる君だから大好き。』


全てを諦めたあの日の君の記憶が鮮明に思い出される。

そしてそれを最後に、自分の意識が走馬灯のような長い夢の中へと、溺れていくのを感じた。



この世界はまた滅びへと、1歩近づく。

全てが終わるその時まで、誰も真実に気付かない。

気付こうとしない。

❅❅❅❅


――星歴31584年

ヴェルハイム王国、私立シノレヴィア魔法学園入学式。


「我がシノレヴィア魔法学園は、国内最高の魔法教育機関として....」


「.....はぁ。」


あまりにも長く、終わりの見えない校長の話に私は思わずため息をついてしまう。

気を紛らわそうと周りを見回すと、正面の壁に取り付けられた鷹の彫刻が目にはいる。

魔法の杖を鋭い爪で掴み、大きく羽を広げたその姿は凛々しく、この学校のシンボルマークや校章となっている。

左右の壁には、天井まで届きそうな程大きなステンドグラスがあり、それぞれに太陽の女神ファルティアと月の女神ルルーナが描かれていた。

石造りの建物の天井は高く開放的だが、同時に歴史ある重みが感じられ、ステンドグラスから差し込んだ午前10時の暖かな日の光が、講堂内に淡い7色模様を映し出し、荘厳な雰囲気を中和して幻想的な世界を描き出す。

さすが、長い歴史を持つ名門校だ。

雰囲気がある。

……1箇所を覗いて。

私はゆっくりと校長立つ壇上へ目を向ける。

赤やピンクの可愛らしい大きなリボン。

色とりどりの大量の風船。

そして、巨大な熊のぬいぐるみ。

そんな"可愛い過ぎる"空間で話すのは、長く白い髭を垂らし、威厳ある面持ちを浮かべた校長先生。

シノレヴィア魔法学園校長ダンクマール・ディートフリート・ヴェールといえば、誰もが知る大魔法使いだ。

そんな方が、あの可愛らしい空間の中で話していることに、生徒はみんな混乱させられていた。

無論、私もだ。

じーーっと壇上をみつめていると、隣からこっそりと耳打ちされる。


「あれ、校長の趣味らしいですよ?」


「……っふ」


思わず吹き出しそうになる私を見てアキは愉快そうに目を細めた。

彼は、私の側仕えのようなものをしていて、幼い頃からずっと一緒に過ごしてきた。

貧民街出身のアキだが、魔法の才能や剣術の才能に恵まれており、努力家で誠実な彼の人柄を私のお父様が大変に気に入り、我が家の養子として私と一緒にこの学園で学ぶことになったのだ。

養子とはいっても、私のお父様もお母様も彼を本当の子供のように愛しており、アキは我が家とって家族同然の存在だ。

紫がかった黒い髪の毛は少しカールしていて、瞳は海のように深い碧色。

鼻筋も通っていて端正な顔立ちをしており、スラリとした手足に高い身長。

紛うことなき美少年だ。

うっかりしたら恋していたなあ。

「……なーんて。」

と、自分に冗談を言ってみる。

……私は彼を利用しようとしているのに。

罪の意識だろうか、胸のあたりがズキンと傷んだ。


アイリス・ウィスタリア。

それが、私の名前。

ここ、人類族最大の国ウェルハイム王国では、国王に次ぐ権力を持つ四大家門がある。

北のウィスタリア。

南のユースティティア。

東のウィルトゥス。

西のベルトンチェリ。


これらの家門は守護者一族と呼ばれ、国王への絶対服従と引替えに絶大な権力を与えられる。

そして、その中でも最も広大な領地を持ち、且つ国政にも深く関わっているのがウィスタリア家であり、事実上の国No.2。

そんなウィスタリア家の「出来損ないの公爵令嬢」が私、アイリス・ウィスタリアなのだ。


「……以上を以て入学式を終了とする。」


どうやら、校長の話がようやく終わったようで、周囲からは疲れと安堵感が混ざったような拍手が聞こえた。

「やっと終わった…」

「あ゛じがじぬぅ……」

などといった声も次々と周りから聞こえてくる。

しかし、そんな時間も束の間で


「静粛に!!」


講堂に響き渡った鋭い声で、私は再び壇上に目を向ける。

すると先程まで校長が立っていた所に、長い黒髪を1つに縛った女性が立っていた。


「私はビオランテ・ビルクナーだ。お前たちの指導教官だ。よろしく。」


射るような視線で彼女は講堂を見渡す。

一瞬目があったような気がした。


「お前たちのこれからの動きを説明する。2度は言わないからよく聞け。」


彼女によると、どうやら私たちはこれから寮の鍵や教科書などの配布物を受け取った後、寮に向かう。

そして、寮のメンバーと共に昼食をとった後、これから共に学校生活を送る班員との顔合わせが行われるらしい。


「行動はテキパキと行うように!以上!」


生徒たちがぞろぞろと動き出す。


「…こっわー」


「ビルクナー教官って見事にアイの苦手なタイプの方ですよね。」


「そうだね、なるべく関わりたくないなあ。」


公の場などではしっかり私を"お嬢様"と呼ぶアキだが、普段は親しみを込めて"アイ"と呼んでくれている。

そして、私自身もこれを気に入っている。


「俺達も早く行きましょう。遅れたらそれこそ……」


「そこどいてくれる?邪魔よ。」


背後からつんとした声が聞こえた。

振り向くと、明るい金髪をツインテールに結んだ翠色の瞳の少女かむすっとした顔で立っていた。


「……申し訳ありません。」


「ふんっ」


やや不服そうにアキが謝るが、少女は機嫌を直すことなく、そのまま行ってしまった。


「……なんなんですか、あの人。」


つられたのかアキも大分イラついている。

まあ、通路にたっていた訳でも無いのに変な言いがかりを付けられれば多少苛立ちを感じるのも無理は無いかもしれない。


「いいんじゃない?子供らしくて可愛いとおもうよ。」


「それ、褒めてるんですか?」


「あはは、どうだろ。とにかく私たちも行こ。」


アキの手をつかんで講堂から出ようとしたその時だった。


「ウィスタリア嬢。少し待ってもらおうか。」


突然肩に手をかけられ、私はおそるおそる振り向く。

するとそこには先程まで舞台上にたっていた教官がいた。


「少し話がある。こちらに来てもらおうか。」


「…アイ、入学早々何をやらかしたんですか。」


アキが"こいつマジか"とでも言いたげな表情でこっちを見る。


「…私に何か用ですか?ビ()()()ー教官。」


アキの頬をつまみながら、私は教官に向き直る。


「私の名はビルクナーだ。」


「…ごめんなさい。人の名前を覚えるのは苦手なんです。」


私は、無意識のうちに人の顔や名前を忘れようと"努力"してしまう。

…覚えない方が幸せだから。


「はあ…。とにかくここで出来る話では無い。少し来てもらおうか。」


「俺もいひまふ」


私に頬をつねられたままのアキが同行しようと主張するが、ビルクナー教官はそれを断る。

そして心配そうな顔をしたアキを残したまま、私は教官と共に講堂を出た。


「どこまで行くんですか、教官。」


「いいから黙って着いてこい。」


「……。」


教官は私を連れたまま、渡り廊下を進んでいく。

私は、周りの景色に目を向けた。

元来、シノレヴィア魔法学園は400年前に起きた世界大戦(ファータ・ロヴィーナ)の少し前に、戦力としての優秀な魔法士を育成するための軍事学校のようなものとして設立された。

大戦が終結したあとは魔法研究に力を入れ、今や王政とも密接な繋がりを持つ国内最高の研究兼教育機関とまで成長したようだ。

しかし、400年がたった今でも、シノレヴィアには大戦の跡が残っている。

壁の傷や、地面に深く突き刺さった旧魔道式火炎放射器の欠片。

それらは、この世界の苦い記憶の一部。


「ここだ。」


教官が足を止める。

そこは、縦長の建物で、真ん中に廊下があり左右に6つずつ扉が着いていた。


「ここは我が校の茶室だ。予約さえすればお前達生徒も自由に使える。主に班員での会議や団欒に使われることが多いな。」


教官はそれらの扉の中で1番手前にあったものを開ける。

"茶室"と呼ばれる部屋の中は思いのほか広く、大きな丸いテーブルと座り心地の良さそうな椅子やソファー、そして茶器一式などが入っている棚があった。


「とりあえず座ってくれ。トラスカ地方の茶葉は口に合うだろうか。」


教官は慣れた手つきで棚の引き出しから茶葉や茶菓子を取り出し、紅茶を淹れはじめる。


「私、長話をするつもりは無いので。」


「お前は、あのアキという少年が傍にいないときは随分と冷めた表情をするんだな。」


「……。」


「彼は随分と優秀な生徒らしいじゃないか。入学試験では筆記試験、実技試験共に非常に良い成績を残し、総合順位は2位。面接でも特に気になる点はなく、むしろ…」


「教官、早く本題に入りませんか?まさか、アキを褒めるためだけに私を呼び出した訳でもないんでしょ。」


教官が私を呼び出した理由、それは最初から分かっていた。


「…そして何より彼の魔力量は230万5600。」


カチャリと軽い音をたてて教官が私の前にティーカップを置く。

私はカップから立ち上る湯気をじっと見つめた。


「魔力量Aランクだ。」


ここウェルハイム王国では、魔力の量を5つのランクに分けて分類している。

Aランクは魔力値150万以上

Bランクは魔力値50万以上

Cランクは魔力値10万以上

Dランクは魔力値1万以上

Eランクは魔力値1万以下を指す。

そして面白いことに人々の魔力量分布はピラミッド型になっており、ランクが上がるごとに人数は少なくなっていく。

さらに、魔力量は生まれ持った量から多少の変動はあれど基本的に変わらないため、魔力量の多さはは1種の才能のようにも扱われる。


「…アキは優秀ですから。」


「それに比べてウィスタリア嬢、お前は随分面白い成績を提出してくれたそうじゃないか。」


「…。」


教官は持っていたファイルの中から1枚の紙を取り出し、それをざっと流し読みする。


「入学筆記試験、実技試験共に出来は悪い。冬魔法を扱える点のみは優れているが、面接試験でも積極性や向上心に欠ける、との評価がなされているようだな。」


「"出来損ない"なりに努力はしたつもりですー。」


「しかし…。」


教官は読んでいた紙を今度は私の前に置いた。

そこには私の入学試験の成績や面接での評価、そして魔力値測定の結果が記載されていた。


「魔力量測定の結果だけは高い評価を与えるべきなのか?」


教官は皮肉そうに言うと、探るように私をじっと見つめ、用紙に記載された私の魔力値を指さした。


「これはどういう事だ。ここに記載されている通りだとすれば、君の魔力量は897万9940。…ありえない数字だ。」


「…どういう事と言われても。」


「…我が校では、最新式の紅水晶による魔力測定機を使っている。測定結果は非常に正確で、魔法による干渉も出来ないため偽装も不可能。当然測定会場でも大量の魔法感知器を使用しているため、測定官への魔法干渉もできない。この測定結果は嘘をつかない、そのはずなんだが?」


「…嘘をつかない、ということはつまりそういうことなんでしょ。」


「ウィスタリア嬢、お前はこの結果が自分の魔力値で間違いないと?」


「さあ。自分の魔力量なんて、大して興味ないので。」


私はティーカップに残ったお茶を一気に飲み干すと、席を立つ。


「お茶、ご馳走様でした。では。」


「待て。話は終わっていない。」


「…これ以上、なにか話すことあります?」


「お前には、魔力量の再測定を行ってもらいたい。」


「お断りします。」


教官が、"何故だ?"とでも言いたげに目を細める。


「何度やっても、結果は変わらないと思いますよ。…だって、測定結果は嘘をつかないのでしょう?」


私は扉の前まで歩き、ドアノブに手をかけながら振り返る。


「それと、生徒の魔力量はプライバシーに関わるものですので、()()()()()、口外しないようくれぐれも注意して頂きたいですね。」


ほぼ家族のような関係だから、良いとでも思ったのだろうか。

アキの魔力量を私に教えることがあっても、私自身の魔力量が彼に教える、などといったことがあってはいけない。


「それでは失礼します。」


私は何か言いたげな教官に軽く頭を下げ、茶室から出た。

そのまま人目につかない所まで足早に歩き、壁に寄りかかる。


「……はぁ、はぁ。」


ずるずると背中が滑っていき、私はそのまま蹲る。

早く、早く"君"に会いたい。

"君"のいない世界なんて、ただの地獄だ。


「これじゃあまた独りぼっち。」


『ずっと傍にいてあげる。だから、君も――』


「……。」

力の入らない足でゆっくりと私は立ち上がる。

あの日、君とした約束。

それを守るためなら、私は自分自身だって欺いてみせる。

ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。

続きも書いていく予定です。

また機会があれば、読んでくださると嬉しいです。

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