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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora
こんにちは、転生勇者様
43/48

第43話 村人転生者、森の賢者と出会う

「ここだ、入れ。」

案内された建物、それは数軒あるボロい家屋のさらに奥にある小さなボロ小屋。入り口は何かの獣の皮を縫い合わせた様な大きめの覆いで仕切られている。小屋の中は外の明かりが小窓から取り込まれており、それほど薄暗くはない。その中央に囲炉裏に付けた火を囲む様にして一人の老婆が床に座っている。

あ、うん、世界観ギャップが甚だしいがこうした文化もあるのかな?辺境だし?暖炉の無いお宅があってもおかしくない、そう思おう。


「坊やは私に用があるとの事だが、一体何の用なんだい?」

そうしゃがれた声で話し掛けてくれるお婆さん、ザ・村の長老。

ここは辺境の地、食べる物にも苦労し、毎年冬場には餓死や凍死の危険が伴う国の最果て。春の挨拶が”今年も生き残れてよかったね”って言うとっても物騒なセリフになるデンジャーゾーン。そんな場所に声のしゃがれた皺皺のお婆さん、しかも村から弾かれた”よそ者”の住まうスラム地区。嘗めとんのか~、隠す気ゼロか!?それともこれで隠しているつもりなんか!?だったらよく今まで生き残って来れたなおい。

俺は痛む頭を押さえつつ深々と礼をし、挨拶の口上を始めるのでした。


「突然の訪問、大変失礼いたします。僕はマルセル村のケビンと申します。この度この周辺地域五箇村の農業重要地区入りを目指すと言う我が村の村長代理ドレイク・ブラウンの指示の下、我がマルセル村で開発いたしましたビッグワーム農法を広める為、スルベ村・マルガス村の両村を訪れました。こちらの地区の事は先ほどマルガス村村長セージ・マルガス氏よりお伺いいたしました。そこで若輩者ではありますがこのケビンがご挨拶に伺った次第です。」

そう言い頭を下げる俺に、驚きつつも訝しげな眼を向ける老婆。


「そうかい、それはわざわざありがとうよ。しかしケビン君の話し様はとても村の子供のそれとは思えないんだが、それは何処で教わったものなんだい?」


「お褒め頂きありがとうございます。我が村の村長代理ドレイク・ブラウンはかつて行商人として様々な地域を訪れ、その伝手を使い村に年六回の行商を呼び込んだ功労者です。僕はそんな村長代理の姿に憧れ、頼み込んで言葉使いや人との接し方を学んでいる最中の未熟者です。今回の四箇村訪問もそうした経緯で同行を許された次第です。」


「そうかいそうかい、まだ子供だと言うのに丁稚奉公に就いているとは感心じゃないかい。ではそのドレイク村長代理とやらがマルガス村に来ていると言う事かね?」

なんか探りを入れて来たお婆さん、まぁこんな年端も行かない子供がこの冬の季節に一人で村外に訪れる訳無いわな。同行者が件の村長代理かそれともただの村人かで俺がどう言った立場なのかの判断も変わるってもんだしね。


「はい、本来であれば村長代理ドレイクが直接ご挨拶にお伺いしなければ失礼に当たるとは存じますが、大変申し訳ない物言いになりますがこの地区は所謂”よそ者”の集まる集落、事前調査として自分が訪れたと言う訳です。」


「なるほどね、ある程度事情は分かったよ。坊やもそんな堅苦しい物言いは大変だろう、言葉を崩していいからもっと気軽に話でもしようじゃないか。生憎こんな住まいでね、お茶の一つもお出し出来ないのが心苦しいが。」

皺だらけの顔に笑みを浮かべ俺に気楽にする様に促すお婆さん。完全に子供だと思って嘗めてるよな~、どうやって情報を引き出してやろうかって思案しているのがまる分かりじゃん。


「はい、ありがとうございます。ではお言葉に甘えまして言葉使いを崩させて頂きます。あ~、しんど、慣れない話し方は肩がこるわ~。お婆さん気楽にしていいからね。って言うかもうツッコミどころ満載で、お婆さん本当に隠す気あるのって感じだよね。おっとお茶が無かったんだよね、ちょっと作るから、表借りるね。」

俺の突然の豹変に呆気に取られるお婆さん、まぁ態度が変わり過ぎだしそうなるわな。こっちはなんとなく相手の事も分かったしそれほど詳しく聞く気も無いからもういいかな?

俺はそんなお婆さんを一人残し小屋を出ると、近くの地面の土を基礎魔力の腕で掘り起こしてそこにウォーターをザバザバ。そのまま捏ねて粘土状にしたら基礎魔力ボールの中に突っ込んで形状変化、魔力の形を変形させるのは得意でござる。出来たら”ブロック”を掛けてあっと言う間に足付き土鍋の出来上がり。ついでに大きなお玉もサクッと形成、これで基礎準備完了。後は火元なんだけど薪なんてなさそうなんですぐそばの枯れ草の草原にGO。その辺の小枝に魔力を纏わせて即席の鎌を作って草刈り開始。ある程度刈ったら束ねて枯草でクルリと縛る、これを上下に施せばなんちゃって藁束になるんですね~。で、この作業にちんたら時間を掛けてられないんで頭に光属性、身体に風属性の魔力を纏って”疑似加速装置”開始。サイボーグ人間じゃないからそこまで速くは動けないんですけどね、海外ドラマのバイオニック○ェミー並には動けます。(1976年SF作品)

で、集めたなんちゃって藁束を基礎魔力の腕でごっそり搬出、足付き土鍋の下にポポポポ~ン。土鍋にウォーターをドバドバ入れたらブチファイアーで燃えろや燃えろ、いい感じに沸騰したところに持ち込んだ乾燥野菜とビッグワーム干し肉を細切れにした物を投入。どうやって細切れにしたのか?魔力の腕に持たせた状態で魔力を纏った小枝でスパスパと。”魔力を纏った”って言葉がゲシュタルト崩壊しそうなほどに”魔力纏い”全開使用です。

そんなに手の内晒しちゃっていいのかって?良いの良いの、どうせここの連中他所でしゃべったりしないし。最後に岩塩を振り掛けて全体に馴染ませてお味の調整、う~ん、良いお味。スルベ村での研修会の後干し肉の炙り焼きしか食べてなかったからお腹空いてたんですよね。基本村の住民に渡していたから大して食べれなかったし。

お椀によそって、さて頂きま~す。

”パクパクパク”

あ~美味しい、寒い時期はやっぱり温かいスープだわ。ビッグワーム肉の旨味が身体に染み渡る~♪


で、皆さんどうしました?なんかさっきからお口あんぐりで固まっていらっしゃいますけど?

俺は周りで俺の様子を窺いながらも身動き一つせずポカ~ンとしている住民に話しを振ってみた。


「なぁ、ケビン君や、お主ビッグワーム農法とやらをスルベ村とマルガス村に伝えに来たマルセル村の村人ではなかったのか?」

そう聞いて来たのは先ほどのお婆さん。まぁ驚くのは分かりますが俺がただの村人って言うのは本当の事ですよ?実際ビッグワーム農法を伝える為に来ている訳ですし。

ドレイク村長代理も今頃マルガス村でこのビッグワームの肉入りスープを作っているんじゃないんですか?最もあちらは鍋窯が揃ってるから一々作ったりはしないでしょうが。

”ズズズズズズッ”

やっぱ働いた後は温かい物を取らないと駄目なんですよ、肉もいいけど肉だけじゃ満足できない、俺も随分贅沢になったもんだ。”今度村長に岩塩を売って貰おう、香草類はかなり手に入ったからね~”と今後の食生活に思いを馳せる少年ケビン。

だがそんな彼に住人全員からツッコミが入る。


「「「イヤイヤイヤ、そんな村人いないから、こんな魔法見たこと無いから!」」」

うん、やっぱりこの人たち隙だらけ、って言うか皆さん血色がとってもよろしくてよ?この鍋を前にして元気に魔法についてツッコミを入れてる時点でおかしいからね?

俺からのツッコミ返しに何を言われているのか分からないと言った風の自称辺境のスラム住民。あのね、こちとら生粋の辺境育ちよ?辺境の寒村の食糧事情なんざ誰よりも身に染みてるのよ?それがなに、いかにもなボロボロの衣装に身を包みつつも壮健な身体付きって、ありえないでしょうが。どこからやって来るのその食糧、しかもその食糧を手に入れられるだけの狩猟の腕があったらどこの村でも引っ張りだこよ?それだけ冬場の村は逼迫(ひっぱく)してるのよ?売れば衣服なんて簡単に手に入るのよ?もう”隠れ住んでます、ヤバいくらいの訳アリです”って言ってる様なもんでしょうが。

後お婆さん、そんな皺皺のお婆さん辺境の寒村にいないから、いてももっとガリガリだから。何その物語に登場しそうなお婆さん具合、ふっくらし過ぎ。それこそ領都とか王都に行かないと会えないレベルよ?ヨーク村の死にそうなご老人に失礼よ?

辺境のお年寄りはそんな樹齢数百年の老木みたいになる前に亡くなっちゃいますからね?酷い場所(ヨーク村)だとお年寄りなんてほとんど生き残ってないから、それが何でスラムで代表者なんて出来ちゃうかな。変装してますって宣言している様なものよ?

まぁ取り敢えず食え、話しはそれから。

俺はそこまで一気に話すと椀にスープをよそい皆に差し出すのでした。


「旨い、なんて旨いんだ。こんなスープ飲んだ事が無い。」

「うん、スープ全体に肉の旨味が広がって野菜の味を引き立てている。なんと言っても臭みがないのがいい。しいて言えばホーンラビットの干し肉だが引き立て役と言う意味では断然このスープの方が上だろう。脇役に徹する事で主役と共に更なる飛躍を遂げる、まさに理想の主従関係。」

なんか一杯のスープで語りが入り始めていらっしゃるんですけど、新橋の酔っぱらいの名言みたいのが飛び出しそうなんですけど。まあいいや、皆さんがお飲みになったそのスープが今回私たちが広めに来たビッグワーム農法の全てです。その美味しい乾燥野菜も、美味しいお肉も、みんなビッグワーム農法で生まれました。

おや?どうなさいました皆さん、スプーンを動かす手が止まっていらっしゃいますよ?こちらのお肉ですか?気になる様ならお見せいたしますね。

俺はカバンに忍ばせておいたビッグワーム肉(出荷用)を取り出し串枝に刺して鍋の残り火で炙り出す。炙られたビッグワームの干し肉は食欲を誘う旨そうな香りを漂わせながらじっくりと焼けて行く。

ご覧の通りビッグワームの干し肉を使用しておりますが何か?苦労して肉質改善をした逸品、我が村の冬の食糧事情の救世主、素晴らしいお味だったでしょ?

固まるスラム?の住民。その顔は言外に”なんてものを食わせやがる”と言ってますが、あなた達立場分かってます?食べる物に困ってるスラムの住民って設定なんですよ?そんな程度でガタガタ言ってどうしますか。

それとそこのお婆さん、そろそろ変装解きません?さっきから動揺で魔力が駄々洩れですよ?

俺の指摘に何かを諦めたかの様な表情で空に目をやるお婆さん。


「どうして分かりました?と言うのは変ですね。先ほどから随分と駄目出しされていましたから。しかしこんなに年端も行かない子供に見破られるとは、私も随分衰えたものです。」

そう言いスクッと立ち上がったお婆さん。曲がってた腰も真っ直ぐに身長も随分と大きくなられたこと。皺皺の手は艶々に、お顔もスッキリ卵肌、その長い髪の合間を抜けて飛び出すフェネック(狐の一種)みたいな大きな耳。

そりゃ隠れるか~。そこに居られる存在、それはファンタジーの定番、この大陸の遥か東方に住まうと言われている謎多き人々、子供の頃に読んだ勇者物語に登場した伝説の種族。


「エルフ族ですか・・・。」

特級厄介事の発覚に、膝から崩れ落ちそうになるケビン少年なのでありました。

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