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転生勇者の三軒隣んちの俺  作者: @aozora
こんにちは、転生勇者様
14/48

第14話 転生勇者、森の悪魔との戦い

冒険者に成り立ての若者がその道を諦める一番の原因とは何であろう。

薬草の採取が上手くいかない、それもあるだろう、ゴブリン退治でへまをした、それもあるだろう。だが、最も多くの若者の心を砕き、その命を奪ったモノ、それこそが“森の悪魔”ホーンラビットである。

奴らは一匹一匹であれば注意してさえいれば問題ない。奴らの恐ろしさ、それは数の暴力。薄暗い森の中、何処から襲って来るのか分からない野生の弾丸、一匹、また一匹、止まることの無い無数の殺意。

ボロボロになりながらも命からがら逃げ出した初心者冒険者は、そのままギルドを後にする。一生消えない心の傷を抱えながらも、命を拾った幸運を女神様に感謝して。


「この様に、ホーンラビットは初心者冒険者が一人前になれるかどうかの試金石とも言われておる。日頃の食卓に上がるあ奴らも、村の男衆が細心の注意を払い命を掛けて討伐した獲物、見慣れておるからと言って決して油断をしてはいかん、良いな。」


「「「分かりました、ボビー師匠!」」」

子供達は元気な声で返事をする。その弾ける様な声音は、初めての本格的な魔物との戦闘に期待と不安でソワソワしているからであろう。ボビー老人は子供らしいその反応に何処かほっこりするものの、自身がこの弟子達を守らねばならないと自らに気合いを入れ直すのであった。


「前方、敵影三体。エミリーは右に展開しつつ周辺の警戒。ジミーは左の二体、俺は右の一体を仕留める。敵の意識を奥に引く、囮が落下し次第突入。」


「「了解。」」


ジェイクがエミリーに目配せをし、彼女がそっと姿を消す。ジェイクは(あらかじ)め用意した木の枝を掴み獲物の遥か先に投擲(とうてき)

“ガサッ”

「「「!?」」」

三体の獲物が己の武器を物音がした森の奥に向け、警戒を強める。まさにそのタイミングであった。

“ザザッ、ドカッ、スパンスパンッ”


一瞬の攻防、ホーンラビット達が自分達が襲われた事にも気付かなかったであろう流れるような手並み。ジェイクとジミーが仕留めた獲物に残心の構えを取る中、エミリーが周辺に警戒の目を向ける。


「状況終了、エミリーは引き続き警戒、ジミーと俺でホーンラビットの回収を行う。」


「「了解。」」

ジェイクが三体のホーンラビットを集め、ジミーがそれを縛り上げ麻袋に回収、ロープを器用に編み上げ背負子(しょいこ)の様に背中に背負う。


「警戒しつつ集合。」

ジェイクの合図で三人はボビー老人の前に集まった。


「「「ボビー師匠、如何だったでしょうか?」」」

戦闘が終わった後でも周囲への警戒を怠らない幼い弟子達。こやつら何者!?えっ、どこぞの組織が育成した少年兵!?お前らまだ八歳だよね!?今日が初めての狩りじゃ無かったっけ?

困惑、驚愕、混乱が心を支配する。だが自分は幼子達の師匠、どれ程優れていようとも彼らは村の幼い子供、彼らを不安にさせる様な弱気な態度は見せられない。


「うむ、危なげない戦闘であった。初めての狩りとしては十分な成果であろう。これはお主らよりも森を知る者として述べるが、警戒のし過ぎ、緊張のし過ぎは精神を削り体力を(いちじる)しく低下させる。その影響は森におる時間が長くなればなるほど大きくなる。適度な緊張、適度な弛緩は森に生きる者にとっての必須技術と言える。こればかりは経験により身に付けるしかあるまい。この事を心の隅に留めて置くが良い。」


「「「ありがとうございます、ボビー師匠。」」」


「うむ、しかしお主らがここまでのモノであったとはの。これではホーンラビットの本当の恐ろしさを上手く伝える事が難しいの。」

暫し瞑目しつつ考え込むボビー老人。再び目を開いた後、ボビー老人は子供達に木の上に登る様に指示を出した。


「これより行う事はあくまでもホーンラビットの恐ろしさを教える為の行為、決して真似はしない様に。」

ボビー老人は弟子達にそう告げるとやや開けた場所へ移動し、あるスキルを発動する。


「挑発、誘引。」

ボビー師匠を中心に森へ広がるスキルの気配、子供達の見守る中、それは始まった。


「ギュギュッ、ギュー」

「「「ギュギュギュギュー」」」

“バッバッ、ババババボバババッ”


全方位からの一斉掃射、右から左から上から下から前から後ろから。止めどないホーンラビットの突進。互いがぶつかろうが関係ない、例え共倒れになろうとも、彼らの目には自分達のテリトリーを侵す外敵の姿しか写ってはいない。

子供達は戦慄した、その光景は自分達の想像を遥かに越えた脅威、ボビー師匠に迫る絶体絶命の危機的状況に、木の枝を掴む手に力が入る。


「”纏い”、旋風領域。」


それは旋風であった。巻き起こる風の柱、いつか聞いた竜巻と言うのはこう言った現象なのであろう。ホーンラビットは突進するも次々に風に巻かれ上空へと吹き上がる。一匹、また一匹、身に宿る殺意のままに果敢に挑み、あえなく吹き飛ばされる。それはただ飛ばされているのではなく、しっかりボビー師匠の一撃が奴らを叩きのめしているのだ。


「喝ー!!」

“ビクンッ”

ボビー師匠から発せられる威圧、未だ飛びかかろうとしていたホーンラビットは身体をビクリと震わせて、一目散に森へと散って行った。

辺りに残るのは数多くのホーンラビットの亡骸。


「お前達にも分かったかの。たかがホーンラビットと侮った際の奴らの恐ろしさを。ホーンラビットに深追いは厳禁、ホーンラビットの恐ろしさを胸に刻み、決して侮るでないぞ。」

ボビー老人は真剣な瞳でこちらを見詰める子供達を見やり、満足気に頷く。そして弟子達にも森の恐ろしさがちゃんと伝わったことに安堵する。

子供達はそんなボビー師匠を見ながら思う、“一番恐ろしいのはボビー師匠、貴方ですから!”と。


この後木の上から降りた弟子達に大量のホーンラビットの始末をどうするのか問われ盛大に顔を引き攣らせる事になるのだが、この時のボビー老人はまだその事には気が付いていないのだった。



――――――――――――


ビッグワームと言う魔物は、スライムと並ぶ魔物の最下層生物である。ボアやビッグボアと言った森の魔獣の餌として、森に落ちた枝葉の分解者として、戦いに敗れ、病気や怪我に侵され森に屍を晒したもの達の送り人として。森の底辺者として森を支え、生態系を底支えしている森の基盤生物である。彼らは基本温厚、というよりは他者に関わると言う知能はなく、生物と言うよりはシステムとしてそこに生息する、そんな存在であると認識されている。それはどんなに体躯が大きくなろうと変わらない、そう思われていた。


“ズルズルズル、キョロキョロ、ズルズルズル”


「緑見っけ!」

“ビクンッ”


「次の鬼は緑ね~、黄色、大福、逃げるよ~♪」

ましてやスライムと一緒になって子供とかくれんぼをするビッグワームなど、想像の埒外以外の何者でもないであろう。


「黄色、地面に潜るのは駄目だからね、木の葉隠れも禁止。大福は水に入ったら即アウトだから!」

魔物の最下層、底辺の生物であるスライムとビッグワーム。


「えー、次は三角ベースがやりたいって?それじゃ黄色がピッチャーね。大福が守備で緑がバッター。俺がキャッチャーって事で。」


“ボフンッ”

口元に魔力を集めストーンボールを撃ち出す黄色。


“カキーン”

尻尾に土魔法で作り出したバットを生やし撃ち返す緑。


“ビヨーン、パシッ”

身体を伸ばし触腕に魔力を纏わせストーンボールを受け止める大福。


魔物の最下層、底辺の生物、スライムとビッグワーム、これが底辺。

・・・冒険者なんかには絶対にならないぞ!!固く心に誓うケビン君なのでありました。



「おや、今帰りかい?緑ちゃんに黄色ちゃんもこんにちは。ちゃんとご挨拶出来てお利口さんだね~。」

畑仕事をしている村のお婆さんに声を掛けられ尻尾をフリフリする二匹。ヘンリーさんちのケビン君<勇者病(仮性)>率いる魔物“スライムとビッグワーム”は、慈愛の籠った温かい視線の元、すっかり村に受け入れられていた。


「そうそう、ホーンラビットの骨が溜まって来たから緑ちゃん達にあげようと思ってたのよ。ちょっと待っててね。」

そう言うとお婆さんは畑の堆肥置き場の隅をほじくり白骨化したホーンラビットを取り出してきた。

尻尾をブンブン振って喜びを表現する二匹、お前らは犬か?この世界の犬は見たこと無いけど!

お婆さんの差し出した白骨を嬉しそうに貪る二匹のミミズ。そう、この骨を貪る行為こそが全身外骨格ワームと言う訳の分からない存在を作り出す原因なのであった。

あれは二年前、畑で父親から譲り受けたホーンラビットの角付き頭部の骨を眺めてニヤニヤ妄想を膨らませている時であったか。だって角付きウサギよ?モロファンタジーよ?男の子だったらテンションアゲアゲでしょうが。

そこにやって来たのは畑の主ビッグワームの黄色と緑。彼らは俺が手に持つ骨ラビットを見るや頭を足に擦り付けて媚びを売り始め、“旦那、その骨を譲ってはいただけないでしょうか?”と言った態度をとり始めました。まぁ今後いくらでも手に入る品ですんで。気前よく下げ渡すと二匹は喜んでボリボリ食べてしまいました。


その後俺はビッグワーム肉デチューンバージョンを村長と元冒険者のお爺さんを交えた会議でプレゼンしたり、副次的にワームプールの土が畑の堆肥に使える事を自分の畑で取れた作物を見せながら説明したりと忙しく村の食料事情改善に動いていたのですが、俺の熱意が通じたのかはたまた村長の算盤が働いたのか、村の各家庭の畑でビッグワーム肉の養殖をする事が決まってしまいました。

村の予算でワームプールの作成を行う事が決定したのはいいんですがそれを誰が作るんですか?皆さんお忙しいですよね?えっ、一人遊んでる人間がいる?ほうほう、それは素晴らしい。・・・ちょっと待とう、ケビン君はまだお子様よ?いくら報奨が出ると言ってもそんな事・・・欲しいモノを優先的に買ってやると、木札支払いだけど野菜やビッグワーム肉の売り上げからちゃんと補填すると。僕解体道具のセットが欲しいな~、出来れば大工道具も。それは働き次第だと、畏まりました、村長閣下。

こうして各家の畑の脇にワームプールの作成を行う事になったんですけどね。


“コネコネコネ”

「クリエートブロック」

このレンガ作りがね~。この作業だけでも一ヶ所一月掛かるからな~。ん、緑に黄色どうした。土を集めて“ゴトッ”ってクリエートブロックじゃん、固さも申し分無いじゃん。俺が作ってるのを見て覚えたって俺より優秀じゃん。こうしてブロック作りを二匹に任せ、俺は地面の穴堀りと効率的に作業を進めました。


「ケビン君、ご苦労様。」

作業をしていると、畑の隅にホーンラビットのゴミを捨てに来たおばちゃんに会いまして。

おばちゃんの持つ“極上の餌”に、動きを止めて尻尾をパタパタ振る黄色と緑。二匹の大きさに引きつつも俺に“今度は魔獣使いなのね~”と優しい目を向けホーンラビットの残骸をくれる村のおばちゃん。

“作業に行く、残骸を夢中で貪る二匹”と言う構図がその後全てのワームプールの製作が終わるまで続きましてですね~。

実は身の付着しているものよりも白骨の方が好みとか土に埋まってたものは普通のビッグワームが綺麗に食べた後なのでさらにgoodとか穴から這い出た二匹を見て村人が腰を抜かしたとか色々あったんですけどね、それよりも生えて来ちゃったんですよ、濃紺色の美しい鱗が・・・。しかも外側に開いたり閉じたりと自由自在、そんな特性を生かして二匹で新しく畑を開墾したりとかですね~。


「おや、美味しいかい?こないだ頂いた緑ちゃん所のトメートも瑞々しくて美味しかったよ~。これはほんのお礼だよ。」


俺よりもすっかり村に馴染んだ二匹なのでありました。


「そういえばさっき村長がケビン君を探してたわよ?何でもボビーさんと子供達が沢山ホーンラビットをとってきたんですって。解体が間に合わないから手助けして欲しいみたいだったわよ。」

お、これはまたも木札ゲットのチャンス、お兄ちゃんとしては働かなければなりませんね~。緑、黄色、俺はこれからお仕事だから自分で畑に帰っておいてね、骨も貰って来るから。お婆さんどうもありがとう~♪

俺は夢中で白骨を貪りつつも尻尾を振って見送る二匹に別れを告げ、急ぎ畑の納屋(改装済み)に解体の道具を取りに走るのでした。

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