「みんな言ってる」
ある社員総数100人規模の会社で社員食堂の椅子を更新することになりました
その椅子の色を黒色にするか白色にするかで社長とその息子である専務の意見が食い違い二人は通常業務をほったらかしての揉めごとになっています
部外者からすると正直そんなたいそうなこととは思えないのですが、どちらも意固地になって一歩も引きません
社長は黒色を専務は白色をおしています
値段は同じだけれどそう頻繁に更新するものではないためお互いが意固地になっているようです
専務「社長!室内が明るく広く感じますし、日々の拭き掃除で綺麗になったのが解りやすく清潔感がある白色じゃないですか?」
社長「経営者はもっと先まで見通さないと駄目だ!白色は劣化で汚れが目立ってきた時は買い換える以外に手のうちようもなく出費が嵩むではないかね?それにご飯粒がこぼれた時に黒色のほうが解りやすいだろ?」
専務「社長!せっかく社員がくつろぎたい憩いの場所の社員食堂が黒い椅子だなんて、仕事の延長線上の気分になりリフレッシュできないのでは?それでは社員の福利厚生にも寄与しているとは思えませんが」
社長「トータルで考えてみたまえ!社員食堂の天井も壁もテーブルの天板も白色なんだよ?そこに白い椅子までなんて締まりがないとは思わないかね?」
ほんと社長と専務が揉めるような案件ではないと思うのですがねぇ・・・
専務には同期入社した年齢も近い者が3人います
とはいえ専務は社長の子息であり将来の社長となる者なので立場はぜんぜん違います
ただ、同期入社した者同士なので一旦会社を離れれば、同僚として気を使わずに呑み会なども普通にします
ある日社会を相当騒がせていた感染症も落ち着いてきたということもあり久しぶりに同期入社組4人で呑み会をしました
最初は久しぶりの呑み会なので他愛もない話で盛り上がっていましたが、酔いもまわり始めると専務は今回の件での愚痴をこぼしだしました
専務「社長は解ってないよな!黒い椅子なんて全然気分転換にならないじゃないか、食事ぐらい柔らかな雰囲気で食べたいよな?みんなどう思う?」
同期A「俺もそう思うな」
同期B「僕はそんなことはあまり気にならないよ」
同期C「私は黒い椅子だと例えばソースなんかが付いていても解らずに座ってしまい服を汚してしまうこともあるかも知れないから黒色は嫌だわ」
専務「ということは白色で良いということ?」
同期B「僕は何でもいいということ・・・なのでまあ・・・白色でも良いかな・・・」
同期C「私は黒色が嫌だということ・・・なのでまあ・・・白色は選択肢の一つね」
専務「やっぱりこの呑み会議場では全会一致で白色ということだな」
この専務の強引な意見集約は親父である社長譲りだなぁとその場の同期3人組は思ったのでした
ただ、専務はいずれ社長となる者だし、そんな大した事でもないのでその場は同意しました
後日、また椅子の更新の話で社長と専務が揉めていました
社長「お前も将来は社長になるんだぞ、もっと先々の効率を考えて無駄使いしないように考えるんだ」
専務「社長!社員が気持ちよく働けてこそ会社の発展があるのではないでしょうか?」
どこまでも平行線をたどる社長と専務なのでした
ついに
社長「もう今回のことは私の独断で決める!黒色にする!それでいいな?」
専務「社長ちょっと待って下さい!社員はみんな白色が良いと言っています」
社長「何?みんなだと?」
これは何かを決める時に本当によくある話なのですが「みんな言ってる」と誰かが言う時はさも多くの人が言っているように聞こえます
でも、実際は仲のいい数人、つまり仲間内でそう言っているだけということが多いのです
テレビのニュースで国会中継の時なんかに「国民の大多数はそう思っている」なんて堂々と言う人がおられますが、どこの国の民なんだろう?と思うことが最近多いのは何故なんでしょうね?
そうかぁ・・・私は聞かれてないからですね
大人になってもごまめな私でした
※ごまめ:大阪の方言で鬼ごっこなどの遊びの時に小さい子供は鬼にならないとか捕まらないとかの特別な緩いルールを適用すること及びその適用された小さい子供のこと。その時は特別扱いされて嬉しいのだが、要するに対等な立場として相手にされていないことだったと大人になってから知る