片想いの幼馴染に彼氏が出来たのでマッチングアプリ始めてみたら謎の女性(幼馴染と境遇が一致)が絡んで来るんだけど!?
勘違いモノ☓マッチングアプリ的な何かです。
片想いの幼馴染に振られた。本当は振られてすらいないけど。
「由真さあ。久世さんの彼氏について何か知ってるか?」
今朝、大学の学友の畠山と世間話をしていたときだった。
「待て待て。沙羅に彼氏?詳しく」
「俺も知らんけどさ。こないだ大学の近くで彼氏ぽい男と二人きりだったんだよ」
「マジ、かよ……」
久世沙羅。文武両道にして美少女。
大学でも同じサークルの野郎に言い寄られること数知れず。
幼馴染である俺も絶賛片想い中だ。
いつか、恋人になればと思ってここまでやってきた。
でも……三年にもなると彼氏も出来るか。
(片想いはどこまで行っても片想いか)
どよんとした気持ちが胸に広がる。
「勘違いって線はないか?」
「歳上っぽかったけど、夜道を仲良く帰ってたしな。露骨に彼氏っぽかった」
「そうか……凹むわぁ」
「お前、久世さん狙いだったもんな。ま、元気出せや」
「しばらく俺は抜け殻になる」
「今度奢ってやるから」
「あんがと」
思えば長い初恋だった。中学に上がったときに意識したんだったか。
昔から世話焼きだった沙羅は俺にとって安心できる場所で。
いつしか好きになっていた。
ただ、同い歳なのに年上目線が気に入らなかった。
男として認められたいと中高と必死に頑張った。
大学だってアイツのレベルに合わせて無理をした。
なのに。
「由真、どうしたの?何かあった?」
見覚えのある声に振り向けば噂をすれば、まさに当人のご登場。
シミ一つ無い肌。贅肉の一つもない引き締まった身体。
クリっとした可愛らしい瞳に程よく出た膨らみ。
自慢の肩まで流した黒い綺麗な髪。
やっぱり綺麗だな。
「なんでもない。畠山の姉に彼氏が出来たってだけ。だよな?」
話を合わせろと目線で語りかける。
「そうそう。うちの姉貴も春が来たなーって騒いでただけだよ」
「畠山君のお姉さんかー。今度会ってみたいわね」
「久世さんみたいなのとは比較にならないガサツな姉だって」
「そんなこと言って畠山君もお姉さんが心配なのね」
「さすがにそれはないって」
「どうかしらね」
こういう人当たりの良さは沙羅の美点の一つだ。
沙羅と畠山は数度話したくらいだけど、こういう接し方ができるのは凄い。
「由真。隣いい?」
「ああ。別にいいぞ」
「それじゃお邪魔してっと」
少し最近元気がない気がする、憂いを帯びた顔。
(沙羅を独り占めしている彼氏がいるんだよな)
ドス黒い思いが広がってくのを止められない。
「ちょっと吐き気がしてきた。講義は休むから先生への連絡は頼む」
「大丈夫?顔色悪いけど」
仮病を真剣に心配してくれる。それが今は辛い。
「大丈夫。気にするなって」
「連絡はしとくから、帰ったらしっかり寝なさいよ」
「お母さんかよ」
昔から沙羅はこうだった。
「お母さんね。似たようなものよ」
「気持ちはありがたく受け取っておくよ」
これからどんな顔をして沙羅に会えばいいんだか。
(ともかく)
俺も正式に失恋だ。当分、沙羅のことは考えたくない。
「何か時間潰せるもんでもないかな」
午後7時。夕ご飯を食べる気分にもならない。
ぽっかり空いた穴が埋まるにはきっと長い時間がかかるだろう。
何か現実から逃げられるものが欲しかった。
スマホ片手に調べてみればマッチングアプリの広告が目についた。
「マッチングアプリか。一ヶ月だけやってみるかな」
トゥゲザー。国内最大手のマッチングアプリで大学生でも一部の奴がやってる。
身元保証もあるし月額2000円と出せなくもない価格設定が特徴。
「いい人、見つかるかな」
心に嘘をついているのはわかっている。
そんな切り替えが早い性格なら長年片想いしていない。
ただ失恋で傷ついた心を紛らわしたいだけ。
とにかくマッチングアプリとやらを始めてみたのだけど。
「プロフィールってこんなのまで書くのか?」
身長、体重、学歴。顔写真。
実家暮らしか一人暮らしか。同居人がいるか居ないか。
色々埋めないといけないらしい。
「気も紛れるだろうし、埋めてくしかないか」
淡々と作業をしていくだけなので1時間もしない内に作業完了。
「入力完了。今日は待ってみるか」
とにかく女性に対して「いいね」するのがアプリの流儀らしい。
失恋当日にそんなことをする気分でもない。
メッセージのやりとりが気休めにでもなるかという軽い気持ちだ。
(明日から適当にやっていこう)
そう思っていたのに。
【「きさら」さんがあなたに「いいね」しました】
スマホから通知が届く。
「やけに早いな」
「いいね」してくれた女性のプロフィールを見てみる。
なんていうか無難を超えて無機質にも程がある。
いい出会いがあればと思って始めて見ましたの一文。
それと趣味がアニメ鑑賞という情報だけ。
(写真ないじゃん)
チュートリアルには写真推奨だと書いてあった。
出会いを求めているのに写真を隠して何の意味があるのやら。
でも、俺みたいに心の隙間を埋めたい人だっているのだろう。
(年齢は21歳。俺と同じか)
トゥゲザーでは年齢を偽ることはできない。
身分証明書を使った本人確認があるからだ。
(「ありがとう」しとくか)
「いいね」をした相手に「ありがとう」を返す。
これでマッチング成立でようやくスタート地点。
相手とDMできるようになるのだ。
挨拶メッセージは適当でいいか。
どうせ相手も期待してないだろう。
【東京都在住の「ゆま」です。いいね、ありがとうございます。プロフィール見て趣味があうなと思ったので「ありがとう」してみました。よろしくお願いします】
送信してみる。
よし、寝よう。と思ったら早速通知。
【由真さんは返信早くてマメですね。好感持ちました」
はやっ。しかし、俺は本名書いてないはずなんだけど。
あ。ゆまと書いて変換したってオチか。納得だ。
【いやいや。マメって程でも】
どうせ社交辞令ってやつだ。
【ゆまさんのプロフに散歩が趣味ってありましたけど】
同年代で散歩が趣味なんて奴はあんまり居ないからだろうか。
きさらさんはそんなことを聞いてきた。
【散歩好きなんですよ。特に普段行かない道とかワクワクしますよ】
沙羅とも時々一緒に大学周辺を探検したっけ。
【実は私も好きなんですよ。ワクワクするのわかります!】
(本当かぁ?)
心の声が出た。
話合わせるために無理してるんじゃないだろうな。
最初のメッセージ交換は相手に合わせるのが重要らしい。
女性の側だって嘘をついてでも相手に合わせることだってあるだろう。
(嘘か本当か見極めてやろう)
なんで見ず知らずの相手にそんなことを考えているのだろうと自嘲したくなる。
心がやられると思考がとことんネガティブになるな。
【きさらさんは東京にお住まいなんですよね。お好きな散歩道とかありますか?】
答えを聞けば嘘か本当かわかる自信があった。
【墨田区の南北に流れる川あるの知ってます?公園周辺を散歩するのが好きです】
墨田区。東京23区の一つにして俺の住まいでもある。
南北を流れる川に公園。ひょっとして結構ご近所さんなのか?
【ひょっとしてですけど。某親水公園であってます?】
こういうとき、不思議と俺の予感は当たる。
墨田区内の川沿いの公園って時点で相当場所が絞られるんだけど。
【やっぱりご近所さんでしたか。じゃあ、ゆまさんも某親水公園で?】
ご近所さんだと思うと親近感が湧いてくるのがちょっと複雑だ。
どうせなら、もっと縁がない相手の方が良かった。
【ええ。片想いしていた相手と一緒に散歩したこともありましたよ】
始めた経緯が経緯だ。
片想いの相手に振られたと正直に書いたのだ。
【ちょっと辛いですよね。私本来ならここで書くべきじゃないのかもしれませんが、失恋してしまいましたから気持ちはよくわかります】
そうだったのか。なら、やたら適当なプロフにも説明がつく。
【振られた者同士ってわけですか。辛いですよね】
でも。お互い見ず知らずの相手ではあるけど。
胸襟開いてくれたのだから誠意は見せよう。
【すいません。実はアプリ始めたのも恋人が欲しいわけではなくて、失恋の寂しさを紛らわしたいだけなんです。きさらさんが真剣に相手を探していたなら申し訳ないなって思ったので、言っておきますね】
マッチングアプリは本来は恋人を探す場だ。
きさらさんの時間を無駄にするのも申し訳ない。
【プロフ見てそうなのかなって思ってました。私もちゃんとした目的があって始めたわけじゃないんですよ。同じように片想いの相手に振られたからヤケになって始めたようなものですから、気にしなくていいですよ】
いい加減なプロフに訝しんだものだけど、いい人なのかもしれない。
【せっかくなんで墨田区住まい同士、ご近所話でもしますか】
【いいですね。スカイツリーって行ったことありますか?】
スカイツリー。思い出の場所である意味思い出したくない場所だ。
沙羅といいムードになれないかとお昼に誘ったことがある。
天望デッキから景色をぼーっと眺めただけで終わった不発デート。
【ありますよ。天望デッキからの眺め綺麗ですよね。きさらさんは?】
とはいえそこまで話す必要はないだろう。
あの時にもう少し踏み込めたら違う未来もあったのだろうか。
【私も天望デッキまでなら。景色、綺麗でしたよね。その内、天望回廊の方も行ってみようかと思ってますけど】
スカイツリーの観光には二種類ある。
天望デッキまでと、最上階の天望回廊までの二種類。
沙羅とデートしたときは結局天望デッキまでだったっけ。
【情けないきっかけなんですけど、きさらさんとは仲良くできそうです】
言ってしまえば傷の舐め合いだけど、共通の話題があるので少し気が楽だ。
【私も真剣に相手を探してるわけじゃないですし。丁度いいですね】
【文通友達くらいのノリでいいですか?】
【私もそんな感じですね】
【じゃあそれで。きさらさんはアニメも見るらしいですけど、オススメのってあったりしますか?】
沙羅もアニメ好きだったっけ。
深夜アニメを毎シーズンチェックするくらいなのが沙羅だ。
そういう部分も俺しか知らない……彼氏ならきっと知ってるか。
【今季ですか?色々ありますけど、ゆりキャンはぼーっと見るのにいいですね】
ゆりキャン。キャンプをテーマにしたアニメで映画化もされたやつだ。
俺は興味ないけど沙羅は好きだったっけ。
映画にも行ってきたとか、限定グッズを自慢してきたっけ。
【俺はそこまでなんですけど、友達でゆりキャン好きな奴いますよ】
友達と誤魔化す。
【そういえば、友達に映画のゆりキャン行って来たこと自慢してみたことあるんですけど、ふーんって感じでした。なんだか、ゆまさんと似てる気がします】
似てる、か。確かに沙羅ときさらさんは驚く程似通っている。
住まいもそうだし、散歩が趣味で同じところを散歩道にしているところも。
推しのアニメまで同じと来た。
【奇遇ですね。俺もその友達ときさらさんが似てるなって思ってました】
世の中、偶然ってのはあるもんなんだな。
失恋相手を思い出させる偶然なんてのも勘弁して欲しいけど。
【あの。突っ込んだ話で気分を害したらすいません。友達って、もしかして片想いをされていた相手だったり?別に失恋の話をどうこう言うわけではないのですが、ちょっと気になってしまいまして】
ぼかしたけど書きようでわかるか。
【実は恥ずかしながら。もうこの際書いちゃいますけど、いわゆる幼馴染の仲って奴でして。小中高大とずっと一緒だったんですよ。大学もそいつに合わせて選んだくらいなんで。スカイツリーの話も実はそういうことです】
俺も一体何書いてるんだろうな。まだマッチングして一日も経っていないのに。
こんな個人的な事情を打ち明けてしまうなんて。
【実は私もなんですよ。片想いの相手は小中高大とずっと一緒なんです。ちょっと前に彼が同じサークルの子と仲良さそうにキャンパスを歩いてるのを見て諦めたんですけどね。大学は新宿区の戸塚町方面にある某私立大学です】
思い当たるのは一つしかない。まさかそこまで一致するとは。
(待てよ)
いくら何でもここまで沙羅と情報が一致することなんてあるのか?
思えば「きさら」ていうハンドルネームも沙羅から取ったのではと思える。
小中高大と一緒の間柄って時点でかなり絞られるだろう。
同じ大学に似たような間柄の男女がいるなんて考えられるか?
【実は俺もその某私立大学の三年なんですけど。もし、人違いなら大変すいません。でもここまで一致すると偶然とは思えないんです。もしかして、きさらさんは沙羅じゃないですか?】
半分以上、確信を持って問いかける。
【やっぱり由真にはわかっちゃうよね。昔から鋭いから】
【沙羅が個人情報出しすぎなんだよ。なんで、彼氏がいるはずの沙羅がアプリやってるかとか色々気になるけど。続きはあそこのガストでやらないか?】
彼氏と幸せそうに歩いていた彼女がなんでアプリをやっているかが気になる。
【それはいいけど彼氏がどうのこうのは誤解よ。私も言いたいんだけど、なんで彼女持ちの由真がアプリやってるの?片想いだの書いてたけど、彼女に振られたから新しい出会いでも求めてたの?】
一体どういうことやら。しかし、お互い何やら誤解があるらしい。
(じっくり話が出来る場所が必要だな)
サクッと予約するか。
【それこそ誤解だ。ちょっとガストだと人に聞かれそうだな。今、個室居酒屋予約したから、1時間後にそこで落ち合わないか?】
しかし、俺も現金なやつだ。
失恋が勘違いかもしれないとわかって途端に希望を持ってしまっっている。
【そうね。お互い、どうも片想いの相手に振られて傷心真っ最中みたいだし?】
沙羅にしては珍しい皮肉だ。この時点で誤解の方向が見えてきたな。
【こっちが言いたいんだけどな。その辺は後で話し合おうぜ】
一体全体どういう勘違いがあったのやら。
◇◇◇◇1時間後◇◇◇◇
「お待たせ、由真。さっさと入っちゃいましょ?」
先に店の前で待っていると御本人の登場。
メイクもばっちりで羽織ったコートもお洒落というかデート向けだ。
「なんでやたらめかしこんで来てるんだよ。化粧もいつもより気合入ってるだろ」
「それはこっちの台詞。なんで由真もやたら気合いれてるのよ。髪がなんか前にデートした時みたいにきっちりセットされてるし」
お互い、店の前でじーっと睨み合う。
「なんか沙羅の考えてることがわかる気がするんだけど」
「奇遇ね。私もよ?」
これは一体全体何のギャグだろうか。
というわけで店内にて。
「失恋を祝してカンパーイ」
「失恋じゃねえだろ。でもカンパーイ」
ビールの入ったグラスをかちんと鳴らす。
「はー。それで、沙羅は一体全体どうしてアプリなんかを?」
「それはこっちの台詞だけど、先に答えるわね。あなたのサークルの子……名前は知らないけど、ちょっと前にキャンパスで仲良く歩いてたでしょ。失恋したってすぐに悟ったから半分ヤケで始めたのよ」
んぐんぐとビールを飲みながら、じっと睨み続ける片想いだった相手。
酒でも飲まないとやってられないのはよくわかる。
「あれはほんと誤解だって。よく絡んでくる後輩なんだけど、あいつ距離感バグってるっていうかさ。結構露骨にスキンシップしてくるんだよ」
なんだか浮気の言い訳みたいだけど本当だ。たぶん、沙羅が見た仲良く一緒にってのも、あいつが肩に手をポンと置いたり、頭を撫でてくる現場を見てたんだろう。
「浮気の言い訳みたいね」
「本当だって」
「由真がそんな器用なことできるわけないから信じるけど。失恋したって思った私がバカみたいじゃない」
言いながら少し涙ぐんでる沙羅だ。
(泣くのはズルい)
俺だって色々言いたいんだけどな。
「だったら、沙羅がこないだ年上の男と歩いてたってのは?同期の畠山から目撃証言もあるんだけど」
まあ、この分だときっと……。
「それは由真の誤解よ。サークルのOBの人なんだけど、送っていくってしつこいから、途中まで二人で歩いてただけ。なんだか私に気がありそうだったけどね」
「そっちも浮気の言い訳みたいだな」
「本当よ」
「まあ信じるけどさ。お互い、とんでもない勘違いをしてたもんだ。あ、すいません。ビールもう一杯お願いします」
どうしようもない結末だからもっと酒でも追加したくなる。
「由真。お酒弱いのに大丈夫?」
そんな気遣いに。
(やっぱり沙羅は沙羅だな)
なんて思う。
「たぶん大丈夫。でさあ。お互いもうわかってると思うからはっきり言うな。沙羅のこと、ずっと好きだった。アプリ始めたのも沙羅と同じく半分以上ヤケだよ、ヤケ」
喜んでいいやら悲しんでいいやら。
「そこのところは全く同じね。由真のことずっと好きだったんだから。でも、彼女が出来たのは仕方ないし、祝福してあげないとって思って。色々言いたかったけど、面倒くさい女だとか思われなくなかったから普通に接してただけ」
はー、と突っ伏す沙羅の長い髪が机の上に広がる。
美人はこんな仕草も絵になる、なんて柄にもなく思う。
「そういえば、さっきスカイツリーのデートの件あっただろ。あれ、本当は最上階の天望回廊のチケットも用意してたんだけど、あんまり興味なさげだから見送ったんだぞ」
あれは一体どういうことだったんだと言いたくなる。
「そんなこと私が知るわけないじゃない。大体、由真はあのとき、妙に口数が少なかったじゃない?ああいう感じのところに誘ってくれたの初めてだから、ひょっとしてとか期待したけど、会話が弾まないとやっぱり気になるでしょ。私が暇してるからなんとなく誘ったのかなーとか思ったのよ」
そこを言われると……。
「悪かった。あの時は良さげな雰囲気になったら夜まで一緒にいられないかとあれこれ考えて緊張してたんだよ。で、普段と違う話題を振ろうと考えたんだけど、何も思い浮かばなくてさ。沙羅も緊張してたんだろうけど、話振ってこなかっただろ?」
ビールもう一杯飲むか。
ごく、ごく。なんだか徐々に気分が高揚してきた。
「ちょっとペース早いけど大丈夫?」
「大丈夫だって。それで沙羅とこれから付き合えると思っていいのか?」
「私の方こそ言いたいけどね。なんだか少し気が抜けちゃった」
真相がわかってみれば本当にしょうもない。
「色気のない告白になっちゃったけど。改めてよろしく」
「そうね。でも、お互いよく知ってるから安心できるとも言えるし」
「物は言い様だな……って、なんだか目の前がぐらついてきた」
頭もなんだかぐわんぐわんと音がする。
「ちょっと。本格的に酔ってるわよ?もう。いっつも仕方ないんだから。すいません、お会計お願いしまーす!」
「面倒見のいいところはやっぱ沙羅だな」
「さっきから大丈夫かなって心配だったのよ。ほんとに手がかかるんだから」
「そのお母さんっぽい物言いもいい加減……ま、いいか。悪い気はしないし」
だんだん眠くなってきた。
「ちょっと、由真。大丈夫?おーい?」
でも良かった。こんな形だけど想いがかなって。
そう思いながら意識が薄れていくのを感じる。
◇◇◇◇
「あ。あれ?ここって沙羅の家……か?」
何度か二人で飲んだこともあったっけ。
最後に二人飲みしたのが半年以上前だから懐かしい。
「酔ってそのまま寝ちゃうんだから。リバースしなかったのはほっとしたけどね」
って、何故か沙羅から見降ろされている。
「悪い。なんか、大学入ってからの色々を思い出すな」
「ほんと鈍感なんだから」
「それはこっちの台詞。ま、膝枕までしてくれたからチャラだけど」
それに、酔いつぶれた俺を家まで運ぶのも苦労しただろう。
「ねえ。一つ聞いていい?」
「なんでも。酔いつぶれたところ介抱してもらってるし」
「それは気にしてないけど。片想いしてたって結局いつから?」
じっと見つめる、少し優しげな双眸。
こういうどこか母性を感じるところも惹かれた理由かもしれないな。
「中学の頃。思えばだけど、世話焼かれてる内になんとなく好きになってたんだろうな。大学も沙羅の志望校に合わせるために必死だったんだぞ?お前、頭いいからさ」
受験のときは本当に苦労した。
「それ、少し勘違い入ってるんだけど。私もあなたに相応しいようにって結構頑張ってたのよ?色々負けてたら偉そうに世話焼くこともできないし」
「ほんと、お母さん気質だな。そんな見栄張ってたのは初めて知ったよ」
「私もそこまで必死だったなんて初めて知ったけどね。でも、そこまで想ってくれてたのは嬉しいかな」
にこりと微笑みかける沙羅は本当に嬉しそうだ。
この雰囲気なら……。
「俺もお前のお母さん気質は悪い気はしてないさ。なあ、キスしていいか?」
「ちょうど私もそう思ってたところ。お互い、長い片想いだったわね」
俺は首を少し持ち上げながら。
沙羅は反対に首を下げながら。
少し酒臭い初めてのキスを交わしたのだった。
「酒臭いファーストキスとかムードの欠片もないな」
「いいじゃない。私達らしくて」
「ま、そうかもな。ところで、一つ気になってたんだけどさ。メッセージのやり取りの最初の方で由真って漢字で書いてただろ。最初から俺だとわかって「いいね」くれたのか?」
「そりゃ、写真見たら一発でわかったもの。なんで?とは思ったけどね」
「実はお前、アプリで既に人と会ったりしたことあるか?」
「嫉妬?」
「ありていに言えば。で、真相は?」
「私も二日前に始めたばかりだし、会ってなんか居ないわよ。アプリの画面見る?」
ぽいと渡されたスマホを見れば確かに登録日は二日前だ。
「疑って悪かった」
「いいわよ。私だって最初色々気になったから」
「だよな。ま、お互い恋人が出来たわけで晴れてアプリ退会か」
「アプリで出会ったわけじゃないから反則だと思うけどね」
お互い顔を見合わせて笑いあった俺たちだった。
マッチングアプリのお話って最近いくつかありますよね。
というわけで書いてみたのがこのお話です。
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