The Queen of Kabuki-cho (7)
カリンは屋上で善戦していた。退路は塞がれているものの態勢を整えて迎撃しており、敵を寄せつけていない。周囲にはもっと高いビルがあるが、構造物を利用して上手く死角を作っているため狙撃されることもなかった。
徐々に勢いを失っていった敵の銃撃が、とうとうぴたりと止んだ。ようやく諦めて撤退したのか。その場合、敵はまた新たな拠点を見つけて再起することになるだろう。
「カリン様、ただいまお迎えに上がりました」
マホの声である。女王を特定するために、レイラとともに歌舞伎町内のキャバクラに潜入させていた。敵の撤退に乗じて、屋上までたどり着いたのだろう。
「礼を言う。下はいま、どういう状況?」
「敵勢力の連合はこのビルからみな退却し、武器や弾薬も全て引き払っています。自分は下の階で進路を阻まれていましたが、急に退却が始まったので、一度やり過ごしてから屋上まで上がりました。代々木からの部隊はすでに到着し、戦況をみていったん散らばっております」
「承知した。武器や弾薬も奪えないとなると、今回の作戦で大きな成果は何一つ上げられなかったことになる。ひとえに各勢力同士の連携を予見できていなかった私の責任だ、早急に次の作戦へ移りましょう」
「今回の戦いとは関係ありませんが一つ成果がございます、カリン様」
マホがにこりと笑った。
「私たちが潜入していた店で最も業績優秀だった女がいます。名前はユメ。それが」
「まさか、歓楽街の女王か」
「はい、間違いありません」
思わぬ収穫である。いつまでも馬脚を現さなかった歓楽街の女王が、ついに特定できたとは。このために何十もの店に諜報員を置いていたが、その甲斐があったと言うものだ。
歓楽街の女王ユメは、この数年間歌舞伎町を完全に掌握していた。その手法は非常に独特であった。まず、直属の戦闘人員がほとんどいない。自らの組織で歌舞伎町を支配しているわけではないのだ。それではどのようにしているかというと、歌舞伎町内に林立していた武装勢力、いわゆるマフィアやギャングの集団を間接的に操り、突出した勢力が現れないよう力の均衡をとっていたのである。つまり、ある程度力を持った勢力が下手に拡大を図ると、彼らは力を削がれてしまう。だからと言ってユメに逆らうと、他の全ての武装勢力を敵に回すことになってしまうため、どの勢力もユメに歯向かおうとはしなかったのだった。
我々「組織」だけは違う。武力によって維持されているまやかしの秩序を、武力によって破壊する。
「マホ、よくやった」
「お言葉ですが、実はこれは私の手柄ではないのです」
「じゃあ、誰が見つけたの?」
「レイラです」
レイラは、自分が新宿で数ヶ月前に拾った新入りである。なので当然、「組織」にずっといるマホがユメを特定したものと早合点していた。
思わぬ掘り出し物かもしれない。カリンはそう思った。
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