The Queen of Kabuki-cho (6)
歌舞伎町の街並みは、T字型の交差点が特徴である。もちろん道の両側には繁華街が広がっているが、突き当たりにある建物が一際目立つ。突き当たったところで曲がっても、その奥の突き当たりにはまた別の建物が存在感を放っている。その独特な雰囲気は、ユメが物心ついた時からずっと変わっていなかった。このような区画の妙も、歌舞伎町を誰より愛していたユメにとっては誇りだった。そして歌舞伎町という美しい街は、自分の手によって命脈を保っている。
ユメの予感は的中していた。思った通りマホはかなりの手練れだったらしく、マホを追い詰めるはずだった第三勢力の部隊が壊滅したとの報告が入った。「組織」の首領は依然として包囲できており戦況は芳しいが、マホの動きが気になる。ついでに言うと、レイラの動きも気になっていた。2人が連携して戦ったというのもあり得そうな話ではある。
ユメはとある駐車場に潜み、自分の動き方を考えていた。ひとまず、戦場となっている例のビルがある通りの突き当たりの建物に行くことにした。そこなら、戦況を逐一目で見て把握しながら指示を出せる。
すると、道で一人の少女と目が合った。見覚えのある顔である。レイラだ。すぐにこちらに向けた視線を外し、速度を上げて去っていった。
逃がすものか。
ユメは一旦移動を中止し、レイラに照準を合わせた。観念したのか、レイラがこちらに向かってくる。意外と動きが速い。しかも不規則に動くので、狙いを定めにくい。ユメは銃を使うのを諦め、接近戦に切り替える準備をした。レイラの手には鋭器がある。
ぶつかった。
一撃で仕留める。ユメはレイラを斬り下ろそうとしたが、かわされた。
次はレイラの斬撃が来る。素早いが、弱い。ユメは軽く受け流した。
しばらく、打ち合いになった。大した力はないのだが、見たことがないほどの素早さである。こんな小娘に手こずっているわけにはいかなかった。
相手の間合いを見定め、一撃ずつ強く打ち込んでいく。レイラが少しずつ後ずさりし始めた。この少女は大して能もなく、刻々と変わる現状よりも過去に決めたことや命じられたことを重んじる、歌舞伎町から淘汰されるべき人間だ。
そんなことを考えれば、同情など微塵も湧かない。大きく振りかぶり、再び斬り下ろした。いない。どこに消えたのだ。ユメはレイラの姿を必死に探した。横か。いや、背後か。
***
まずいことになった。代々木から駆けつけてくる増援と合流するつもりだったのに、その前にこんな修羅場を迎えてしまうとは。レイラには短期間の訓練経験はあっても実戦経験はない。
ユメの一撃一撃が、重い。レイラは間一髪のところでユメの斬撃を防ぎながら、打開策を見出そうとしていた。
逃げるという選択肢は取れない。背を向けている間に背後から撃たれたら終わりである。せっかく接近戦に持ち込んだので、このまま勝ち切るしか道はなかった。とにかく速く動く。ここだけは徹底していた。力で勝る相手には、同じ動きをしていても勝てない。 しかし、徐々に疲れも蓄積し、相手の斬撃を避けきれずに数箇所を負傷してしまっていた。
どうにかして、相手の不意を突かなければ斬れない。限界を迎える前に決着をつけなければ、という焦りがあった。
レイラには、一つだけ打開策があった。しかし、なかなか踏ん切りがつかない。難易度が高く、大きな危険もはらむ戦法だった。だが、もう一か八かで実行しなければならないところまで追い詰められている。体力的にも限界だった。
相手の懐に潜り込み、背後に踊り出る。そして、無防備になっている背後から斬る。これしかない。こういう正攻法で向かってくる相手だからこそ、意表を突くことに意味があった。
あとは時機を見定めるだけである。決死の覚悟はできてきた。
これは、という機会が一度あったが、その時は体が反応できなかった。相手の意識が防御に向けられていない時が都合がいい。レイラはほとんど防戦に徹しており一方的な展開になっていたが、その中でも隙を探した。
ユメが鋭器を大きく構え、振り下ろしてきた。ここだ。気づいた時には体が動いていた。相手のいる方向に全速力で駆け、背後に回った瞬間に振り向きざまに斬り上げる。そのまま跳躍し、もう一撃、斬り下ろす。首元をしっかりと目で捉えた。叫びながら、腕に力を込める。ユメの体が、反転する。ユメを刺し抜くはずだったレイラの腕は、次の瞬間壁に叩きつけられていた。どうやら、振り向きざまに蹴り飛ばされたようである。
万事休すか。と思われたが、ユメは西の方へ駆けていった。今なら自分にとどめを刺せたはずだが、なぜそれを諦めたのだろうか。謎はすぐに解けた。
「あなたがレイラね」
そこには金髪と銀髪が半分ずつ、ツートンカラーになっている背の低い少女が立っていた。代々木方面に展開していた味方部隊であった。
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