The Queen of Kabuki-cho (4)
「救援に向かう。あなたもついてきて、レイラ」
カリンの襲撃作戦が失敗し、退避した場所で孤立しているという知らせは、すぐにレイラとマホにも伝わった。
「嫌」
「何言ってるの」
レイラは至って落ち着いていたが、しかし頑迷であった。
「救援に行きたい気持ちはわかるけど、それは『歓楽街の女王』の所在を突き止める、という仕事から逸脱している」
レイラにとっては、カリンが自分をここに連れてきた日に言ったことが全てであった。歓楽街の女王の特定。これが自分に与えられた仕事である。カリンの身に何かあったとしても仕事を優先することが使命だと思っていた。
しばらくの間、議論は平行線を辿った。ついに、マホはレイラを救援に連れていくことを諦めたようだった。
「じゃああなたはここに残っていて。歓楽街の女王の居所を引き続き探してくれればいい。私は行くわ」
「仕事を忘れたの、マホ」
「忘れるわけない。ただ、なぜ仕事が存在するのか考えなさい。その先の目的があるのよ」
マホは闇夜に消えた。
レイラは部屋を出て、店の仕事に戻った。あと少しで退勤となり、朝方に帰る。
一人、こちらに視線を向けてくる人物がいた。ユメという先輩で、この店で最も多くの売上を出している。普段なら自分などには目もくれないのに。
嫌な予感がした。
***
この店は、歌舞伎町の中でも最も平穏な場所である。
最近店で働き始めた小娘が「組織」の一員であることがわかっても、ユメは至って冷静であった。それにしても、さすがに脇が甘すぎる。ぺちゃくちゃと喋っていて、誰かに聞かれるということを考えないのか。
「組織」の諜報員は少なくともこの店に二人いるようである。
レイラとマホ。そう呼び合っていた。会話を聞いていた限りだと、レイラという少女はどうも自分で考える力に欠けているようだ。過去に言い渡された仕事に固執し、状況の変化を顧みようとしない。ああいう人間が、この歌舞伎町で生き残るのは難しい。
一方、マホという少女には、なかなかの手強さを感じた。歌舞伎町第一勢力の拠点の襲撃に失敗した「組織」の救援に向かったようである。ああいう人間が、戦場で大きな力を発揮したりする。
ユメはすぐに、各勢力に情報を流した。
「『組織』の一員が救援に向かっている。挟撃に注意」
これを送信しておけば、マホを逆に待ち伏せしておいて捕捉することも難しくない。
戦況は、直属の配下から刻々と伝わってきていた。深夜、「組織」の首領が率いる20名が第一勢力の拠点を襲撃。この拠点は歌舞伎町内の11階建てビルの10階にあるが、ビル全体が第一勢力の支配下である。「組織」は三手に分かれ、うち2部隊が10階に到達して乱戦となった。
そこに、第二勢力と第三勢力の連合が援軍として到着。1階部分にとどまっていた「組織」の別働隊を掃討し、10階にいた部隊を屋上に追いやった。今もその部隊が抵抗を続けているが、虫の息であるようだ。
このままいけば、「組織」によって乱されかけた歌舞伎町の秩序は維持されるであろう。ユメはほくそ笑んだ。自分が作り上げたこの秩序が守られればそれでいい。そうすれば、この「歌舞伎町」は文字通りそこにあり続けるのだ。
ユメは今回の抗争の重要性を痛いほどに理解していた。「組織」は、渋谷周辺を押さえる500人規模の組織だという話である。ここで敵の首領を逃せば、次は部隊を増員して歌舞伎町攻略に乗り出してくる可能性もある。ここで確実に息の根を止めておかなければならなかった。
そのためにも、マホという少女が厄介な動きをすることを未然に防いでおく必要があった。
ユメは、レイラという少女の姿を探した。まだ店を閉める時間ではない。
レイラは、いない。
レイラ自身は恐れるに足らない人物だが、少しだけ不吉に感じた。いつもなら自分が戦線に出ることはないが、念には念を入れておきたい。手荷物を片付け、店を出る。
レイラがどの経路で向かっているかは知る由もないが、ユメは一番あり得そうな経路を選択した。
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