The Queen of Kabuki-cho (2)
歓楽街の女王の正体を暴くために単身で潜入しているキャバクラに、応援が入る。そう聞いた時はほっとしたものだった。しかし、応援はたったの1人で、しかも使えない。1人では何もできない、そんな少女だった。ただの足手まといでしかないが、協力して動けというのがカリンの命令なので、仕方ない。
マホはうんざりしながら、レイラを叱る店主の声を聞いていた。とにかく接客ができないのである。いくら手順を説明されても、その通りに動けない。キャバ嬢としては致命的である。ちなみにこの店主は、マホたちが「組織」の目的で潜入しているのを知らない。そのため目をつけられると都合が悪い。
決して要領が悪いだとか、資質に欠けるというわけではなさそうだが、何か簡単に触れてはいけない過去を抱えていそうだった。その実体が分かれば話は早いのだが、カリンからは新入りだということしか聞いていない。まあ、この「組織」ではよくあることだ。あとは、年が近いということくらいか。社交性に乏しく、刺々しい、というのが現段階での印象である。
「何か変わったことはあった?」
一通り叱られ終わったレイラが部屋に戻ってきたので、周りに聞かれないよう声量を抑えつつ尋ねた。
「特に何も」
「引き続き、怪しい動きをしている奴がいないか目を光らせておいて。いたらすぐに教えて」
「わかった」
この新入りは、仕事に対する態度は至極真面目である。ただし、それは「歓楽街の女王」が店に紛れ込んでいないか調査するという仕事に限っての話であった。他に細かな仕事を頼んでも、だいたいやってこない。おそらく、カリンに命じられた仕事の達成が彼女の中で何よりも優先されるのだろう。マホはそこはかとない違和感を覚えずにはいられなかった。
結局、「歓楽街の女王」を見つけることさえできればいいのだ。小言の一つでも行っておきたい気分だったが、ぐっとこらえ、気持ちを切り替えた。
お互い離れる。あまり長い時間一緒にいるところを見られるのもまずい。情報は自然な動きの中でやり取りしなければならなかった。
***
微睡みから目覚める。
ユメは他人に気付かれないように細心の注意を払いながら自室の窓を開け、街を見下ろした。特に最近は、怪しげな小娘も目に付く。大方どこかの勢力が送り込んでいるのだろうが、大した能力があるようには見えないので今は野放しにしている。だがそろそろ始末すべきか。
今まではそんなことも気にならなかった。「歓楽街の女王」の異名をほしいままにし、歌舞伎町にのさばる6つの勢力を手玉に取り、彼らの力関係を意のままに操っていた今までは、である。
近頃はかなり様相が変わってきているのだ。
7つ目の勢力が相当力をつけ始めている。これまでの歌舞伎町で勃興しては凋落してきた数々の諸勢力とは明らかに違う、なんとも不気味な勢力である。まず、組織に名がない。そのため単に「組織」と呼ばれることが多い。しかもこの「組織」、渋谷・恵比寿・代々木一帯を事実上支配下に収めている。なかなかの規模である。それがこの歌舞伎町にまで侵食してこようものなら、さすがに無視することはできない。
「組織」は、歌舞伎町の経済活動の2割を手中に収めようかという勢いである。これは歌舞伎町に現存する諸勢力の中では2番目に大きい規模になる。いつもならもう少し静観して、最大勢力になったところを他の全勢力と敵対させて叩くのだが、今回ばかりはそのやり方は通用しないだろう。
叩くなら今、である。女王としての勘がそう告げていた。
この街の至る所に直属の部下が散っていて、普段は違和感なく街に溶け込んでいる。その全員に指令を下す。
「『組織』を、我が歌舞伎町から排除せよ」
ユメは窓を閉め、そう送信した。「一掃せよ」というのはすなわち、他の全勢力を扇動して「組織」に完膚なきまでに打撃を与えることを意味する。特に不規則なことが起こらない限り、やつらは少なくともしばらくの間、歌舞伎町では再起不能に陥ることになるだろう。
次にやっておかなければならないのは、起こりうる「不規則なこと」を可能な限り想定するという作業である。
まず考えられるのは、「組織」が全人員を歌舞伎町に差し向けてくることである。こうなると歌舞伎町の各勢力では比肩できないかもしれない。ただ、「組織」の渋谷や恵比寿での支配も決して安定的なものではなく、そこまでの余裕はないはずである。
次に考えられるのは、「組織」による各勢力の懐柔である。仮に他勢力を吸収するような形で勢力を広げられると、これも非常にまずい。これに関しては、自分が目を光らせておくしかない。「歓楽街の女王」としての影響力は衰えているわけでは全くない。
自分の部下に内通者がいるという可能性はあるだろうか。いや、これは考えても仕方がない。もっとも指揮系統は十分すぎるほどに確立しており、1人や2人内通者が出たところで瓦解することはないだろう。
あと困るのは、普段は店のNo.1キャバ嬢として働いている自分の素顔が暴かれることくらいか。この可能性が少しでもあるのなら、早めに芽を摘んでおきたい。
ユメの脳裏をよぎったのは1人の小娘の顔であった。ひと月ほど前からこの店で働いている。目立って怪しい動きというものはないのだが、直感的にわかる。
一刻も早く確証を得て、こっそりと始末しておこう。そう心に決めた。
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