The Queen of Kabuki-cho (9)
歌舞伎町に張り巡らされた諜報員たちが成す「人の網」が、予想以上に早く機能した。そのうちの1人がユメの所在を目視で確認した、との報告が入ったのである。レイラは身の毛がよだつ思いであった。
こうなると話は早かった。大きな損害がなかったとはいえ、歌舞伎町の最大勢力は拠点の移転を余儀なくされている真っ最中であり、態勢の立て直しには少々時間がかかるはずである。ユメを叩くにはまたとない機会であった。「歓楽街の女王」の異名をもつユメさえ排除すれば、歌舞伎町の各勢力には「戦略」がなくなる。そうなると大した連携もできなくなり、大幅に弱体化することは明らかだ。所詮は烏合の衆である。
このような理屈をマホに散々聞かされ、うんざりしながら支度をした。ただ、ここで作戦の目的を把握できたのはよかった。目的が判然としないことに対しては、どうも遂行しようという気が起きない。それなのに、何事においても目的を見出だすことが苦手だ。これはレイラ自身も自覚している欠点であった。
「レイラ、行くわよ」
ものの数分で出動準備を済ませようというところだったが、それでもマホに急かされた。促され、外に出る。
現場はレイラらがいた隠れ家から数分の距離であった。道中で、部下が次々と合流してくる。ユメの位置は部下が捕捉し続けているが、あれ以降移動してはいないようだ。
「どうやらここみたいね」
着いたのは、とある雑居ビルであった。見たところ、4階建てだろうか。待機していた部下から報告が入る。入口付近に見張りらしき者が立っていたが、マホが即座に始末した。
「ターゲットはこのビルに入っていきました。それきり出てきておりません。中にはターゲットの手の者が10人以上いると思われます」
「奴らにはまだ気付かれてないよね?」
「抜かりなく慎重に尾行しておりましたので、その心配はないかと」
「わかった、突入」
マホが号令をかけ、選りすぐりの精鋭数名がビルに入っていく。レイラはまだ精鋭とは言えない実力だが、恐る恐る後に続いた。
前回のカリンの失敗を活かし、ビルの周辺に置く見張りの数を大幅に増やしている。敵勢力が救援にきたらいつでも現場から離脱する算段だ。
1階、2階、3階。ユメはいない。4階にも、人っ子一人いない。地下階は、このビルにはない。マホの顔にも焦りが見え始めた。
「どういうこと?もしかして逃げられた?」
「隠し通路か何かで逃げられるようになってでもいない限り、そんなことはございません、マホ様。建物に入って行ったきり、出てきていないのですから」
「うーん。早く見つけないと、敵に位置を捉えられるのも時間の問題ね」
敵に位置を捉えられる。迅速に対応されれば、挟撃されるのも時間の問題だ。レイラはにわかに恐怖を覚え、壁にもたれかかるようにして階段の踊り場に座り込んだ。
「どうせ中にはいないんだから、一旦離脱しましょうよ」
視界が急に暗くなり、背中に鈍い痛みが走った。壁にもたれたはずだったのだが、違ったのか。心なしか、ここ最近の疲れがどっと押し寄せたような気もする。
ゆっくりと起き上がったが、レイラがもたれかかったのは確かに壁だった。つい数秒前までは、である。いま再び見ると、奥行きのある空間が広がっている。いつの間に壁が消滅したのか。
「ふっ、隠し部屋じゃん。そんな小手先の誤魔化しがこの私に通用すると、思うな」
マホが先陣を切って乗り込んでいった。他の味方も続く。レイラも少し逡巡したが、この場所にたった1人で留まり続けるのも怖かった。
2階と3階の、間。そんな場所に隠し部屋を作り潜伏していたユメを、ついに見つけた。
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