番外編9.イヴリンコレクション ハラハラ生活(コミックス5巻発売記念SS)
コミックス5巻発売を記念して限定SSを書きました。
念のため補足しておきますと、作者は今、トモ〇レにハマっています。
その日、私は朝から私室のソファに座り込んでいた。
「えっと、次はチチロパ様にごはんをあげて、と。……あら、チチロパ様は「ヨーグルトとグラノーラのパフェ」が大好物なのね。ちょっと意外だわ」
独り言を漏らしながら熱中していると、ドアが軽くノックされる。
「はぁい」と返事をすると、姿を見せたのはキラだった。
「イヴリン。何やってるの?」
私の手元を見たキラが小首を傾げる。
私は両手に握っていたそれを、キラのほうに差しだしてみせた。
「ゲームよ。古代の技術力で作られた魔法道具なんだけど」
「魔法道具って?」
「スナジル聖国のあちこちに遺跡があるでしょう。そこで発掘されることがあるの。これは使用者の魔力を補充することで動くのよ」
古代の魔法道具は、発掘されるたびに大神殿に届けられる。
というのも魔法道具の特性や仕組みを理解するには、聖女のように大量の魔力を持つ人材の協力が必要不可欠だからだ。
なので今回の魔法道具も、本来ならエウロパ様のもとに届けられていただろうが……持続的に魔力補充の必要がある魔法道具となると、瘴気を祓う役目を持つエウロパ様が受け持つのは難しい。
そこで、先代聖女である私にお鉢が回ってきたというわけである。
「へぇ。本体にはいくつも操作用のボタンがついていて、ゲームが表示される画面は水晶みたいな素材でできてるんだ。すごい……」
キラは興味深そうにゲーム画面を見やっている。
「しかも……なんか、ゲームの中にオレみたいなやつがいない?」
「そうなの! 私の知り合いによく似た人物がゲーム内に次々と現れるから、とっても面白いの。どうやら使用者の魔力から記憶を読み取っているみたいね」
(私の『アナリシス』みたいな感じかしら。やっぱり古代の魔法ってすごいわ)
感心しつつ、私はソファからすっくと立ち上がる。
「これから、大神殿にゲームについて報告に行くところなの。みんなで一緒に行きましょう!」
◇◇◇
キラ、セオドア様、カリンちゃん、ジャクソン様を連れて、私は王都にある大神殿へとやって来た。
というのも魔法道具について詳細な報告をするため、ゲームに登場している人物は全員大神殿に集まってほしいと通達があったのだ。
「イヴリン様。お待ちしておりましたですじゃ」
慇懃な態度で出迎えてくれたのは神官長と大量の神官たち。
彼らと共に広間に向かうと、そこには旧知の人々――スナジル聖国の三人の王子、カテ公爵家の親子、そして私の腹違いの妹であるメアリの姿があった。
「メアリおねえさん!」
たっと駆けだしたカリンちゃんが、メアリの服の裾を掴む。
「『指のささくれを治す旅』はどうしたんですか?」
「スナジル聖国を一周したから、いったん戻ってきたところなの」
どうやらメアリは、あれからも真面目に活動していたようだ。
いつまで経っても『ツーショしてくれる人を捜す旅』に出ないアレックス殿下は、気まずげに視線を逸らして唇を吹いていたが、今日は彼に小言を言うための集まりではない。
「それではイヴリン様。さっそく見せていただけますかの」
「はい。任せてください」
席についた私は、持参してきた魔法道具を取りだす。
みんなに周りを囲まれて少し緊張しつつも、ゲームの操作をすると……。
「まぁ、ゲームの中にイヴリン様がいらっしゃいますわ! なんてお可愛らしい!」
隣から覗き込んでいたエウロパ様が歓声を上げる。
私によく似た姿をしたキャラクターは、ふわふわした足取りでどこかに向かっていた。
「誰かと待ち合わせをしているみたいです。……あっ、キラとセオドア様ですね」
「本当だ。ゲームの中の俺も、イヴリンたちと親しくしているんだな」
微笑むセオドア様。
私はこほんと咳払いをしてから、事実を告げる。
「親しく、というか。実は私たち……結婚しているんです」
「………………え?」
セオドア様の呼吸が止まった。
ついでにエウロパ様の呼吸も止まっていた。
「お、俺とイヴリンが結婚を!? まだ現実の俺たちもしていないのに!?」
「ゆッ、ゆゆゆゆ許せませんわ! イヴリン様のベーゼのみならず、初婚まで奪うだなんて! これではわたくしとイヴリン様の結婚は再婚になるではありませんか!」
「まぁ、ゲームの話ですから……」
大騒ぎする二人を流して、私は画面に視線を戻す。
そこで再びセオドア様が口を開いた。
「……いや、やっぱりおかしくないかな?」
「セオドア様?」
まだ何かあるのだろうか。
私が名前を呼ぶと、セオドア様は苦しそうに顔を歪めていた。
「ゲームの中とはいえ、俺とイヴリンが結婚しているのは嬉しいよ。最高といっていい。でも……!」
バッ! とセオドア様が勢いよく画面を指さす。
そこには、ゲーム内の私たちの関係値が表示されていた!
【セオドア ⇒ イヴリン かけがえのない人
イヴリン ⇒ セオドア まぁまぁ愛してる
イヴリン ⇒ キラ かけがえのない人
キラ ⇒ イヴリン かけがえのない人】
「……おかしくないかな……!?」
「セオドア様。ゲームの話ですから」
画面の中では、石に躓いたイヴリンが「キラァ! 助けてキラァ!」と号泣しながら助けを求めている。
素早く駆けつけたキラに助け起こされたイヴリンは、泣きながら彼に抱きついていた。
【イヴリン ⇒ キラ 誰よりも特別な人】
(また表示が変わっているけど……セオドア様には伝えないほうが良さそうね)
私はこれ以上の追及を避けるため、他の住人たちの様子を見に行く。
「えっと……オズ殿下は、アレックス殿下やイグナ殿下と仲良しなんですよ。シェアハウスで同居もしています」
「そうなんですか。まぁ、兄弟ですからね」
セオドア様たちとは打って変わって、オズ殿下は落ち着いた態度だ。
所詮ゲームはゲームの話だと割りきっているのだろう。ホッとしつつ、私は付け加える。
「あと、エウロパ様とカリンちゃんとは絶交しています」
「……ぜ、絶交ですか」
文字通りオズ殿下が絶句する。
私にとっても意外だった。スナジル聖国を代表する常識人であり、何事もそつなくこなすイメージのあるオズ殿下。そんな彼が、わりと人間関係は破綻しがちで、すぐ誰かと喧嘩しては絶交を繰り返すような人だったとは……。
(って、ゲームの話よ。あくまでゲームの話)
現実のオズ殿下と重ねてはいけない、と首を横に振る。
「わたくしとオズ殿下が絶交、ですか。まぁ、現時点で特に親しいわけではないですし……」
「はい。ボクも、まともなおにいさんとはあんまり話したことがありません」
それを聞いたエウロパ様とカリンちゃんは冷めた対応である。
オズ殿下は「はぁ……」と複雑そうな面持ちで黙り込んでしまった。なんだか空気が重いなと思っていると、エウロパ様がそわそわしながら話題を変えた。
「とっ、ところでイヴリン様。ゲームの中のわたくしは、やはりイヴリン様の忠実なる下僕として日々を楽しく豊かに過ごしているのでしょうか? どうか焦らさず教えてくださいましっ」
私はゆっくりと頷いた。
エウロパ様にとっては、残酷なことかもしれない。それでも私には伝える義務があった。
「エウロパ様は、イグナ殿下に恋をしています」
「……はっ……?」
ショックの大きさゆえか、ふらり、と倒れ込むエウロパ様。
そんな彼女を慌ててチチロパ様が受け止めるが、エウロパ様は真っ青な顔色をしていた。
「わ、わたくしが……何をとち狂ったのか、クソゴミ鼻血大根に恋を……?」
「エウロパ、気を確かに」
「そのゲーム、壊してもよろしいでしょうか?」
「エウロパ、貴重な魔法道具だから」
チチロパ様が必死で食い止めている間に、私はちらりとイグナ殿下のほうを見やる。
エウロパ様とは真逆で、さぞ喜ぶことだろうと思ったのだが……イグナ殿下は真顔で言う。
「解釈違いだ」
(解釈、違い……!?)
唖然とする私たちに向かって、イグナ殿下はきっぱりと言いきる。
「俺を好いているエウロパなんて、現実味がなさすぎる。それはエウロパの振りをした魔物か妖魔の類いだろう。愛らしい顔をしていても俺は騙されない」
私はその言葉に、こっそりと胸打たれていた。
(こういうところが、男気があるというか……一途な人よね)
ただ歪んでいるだけの気もするが、それは言わない約束だろう。
と思っていると、画面の中では大きな変化が起こっていた。
「あっ。状況が変わりました、イグナ殿下!」
「む? 何が起こった」
「エウロパ様が……エウロパ様が!」
全員の注目を浴びながら。
ゲームの中のエウロパ様は、まっすぐな目をして言い放った!
【エウロパ:
「あのゴミが好きだと思っていましたが、完全に気のせいでしたわ。
わたくし、神官長に乗り換えます」
「ぐっ……! これはこれで!」
怒濤の勢いで鼻血を噴きだしたイグナ殿下が、その場に倒れ込む。
「ようやく正気に戻ったのかと思ったら、友情を恋愛とはき違えておりますわ! このエウロパは間違いなく偽物……! 母の胎内にいた頃からイヴリン様を恋い慕っているのが、本物のエウロパですのに!」
きいいっ、とエウロパ様は血走った目で叫んで髪の毛を振り乱している。
そんなエウロパ様の頭を撫でているハハロパ様を見て、私は「そういえば」と話しだした。
「スナジル聖国でいちばん恋多き人は、ハハロパ様なんです」
「母、ですか?」
そう。ハハロパ様の恋愛遍歴はすごい。
私は今までに起こった出来事をかいつまんで説明することにした。
「ハハロパ様は、この国に現れた初日にアレックス殿下に一目惚れしたんです。でもアレックス殿下はストリートダンスに夢中で、まったく見向きしなくて……そのせいか、次は神官長に心を奪われたんです。でも神官長に振られてしまって、今度はイグナ殿下に惚れ込んで……それも二連続で振られて、とうとう諦めることにしたみたいで……」
そこまで口にした私は、ハッとする。
ぽかんとしていたハハロパ様が、どこか悲しげに眉を寄せていたからだ。
「……母は、子どもたちに恋情を抱いたりはしません」
私は自分のミスに気づく。
当たり前だが、別世界の自分が移り気だと聞けば、あまりいい気はしないだろう。
しかもハハロパ様が三番目に恋した相手は、自分の娘の婚約者であるイグナ殿下。
驚くべきアグレッシブさを発揮しているハハロパ様に、私もドン引……否、大丈夫だろうかと心配になったりしたのだ。
「すっ、すみませんハハロパ様。でも、ゲームの話ですから!」
今日何度目か分からない言葉を口にすると、ハハロパ様がもじもじする。
「それに……それなら母は、イヴリンさんと……」
「えっ……?」
頬を染めたハハロパ様が、ちらっと私を見つめる。
その表情に、ドキッ……と、私の鼓動が高鳴った。
何か、新たな扉を開いてしまいそうな予感がしたとき――とんとん、と誰かが私の肩を叩く。
振り返ると、そこには眉尻を下げたメアリが立っていた。
「イヴリン。あたしは、その……誰か仲のいい人とか、いるの?」
「メアリ。私を引き戻してくれてありがとう」
「は?」
「なんでもないわ」と誤魔化した私は、ゲーム内のメアリのもとに向かう。
「そうね。キラ、メアリ、アレックス殿下の三人の社交性はすごいわ。いろんな人と仲がいいし、喧嘩もしないし、毎日のように誰かと集まって楽しそうに過ごしていて」
「そ、そうなの。あんまり想像つかないけど」
「それにメアリは、カリンちゃんと結婚しているの」
私が補足すると、メアリは大きな目を見開いて硬直してしまった。
「……はぁっ? あ、あたしがカリンと結婚!?」
声を上擦らせるメアリに、私はほのぼのした気持ちで説明を続ける。
「ええ。指のささくれの話で意気投合してから、ゆっくりと関係を進めていって……最初にメアリのことが好きだと自覚したのはカリンちゃんだった。
でもカリンちゃんは恥ずかしがりやで、なかなか想いを告げることができなかったの。メアリのことを大事にしているからか、同居の申し出も断っちゃうくらいよ」
私は画面の中でデートしている二人を見つめながら、温かな気持ちで微笑む。
「そんなカリンちゃんの恋心に気づいたメアリが、自分から告白して……誰よりも早く結婚して、今の今まで超円満に過ごしているわ」
「…………っっ!」
メアリの顔が、見る見るうちに真っ赤に染まっていく。
それを聞いていたカリンちゃんも、ふんわりと唇を綻ばせていた。
「ボク、嬉しいです。ゲームの中でもボクがいちばん、メアリおねえさんと仲良しってことですよね」
「な、何言ってるのよ、カリンってば……」
たじたじになるメアリの腰あたりに、カリンちゃんがぴとりとくっつく。
うん。仲がいいのって素敵なことだわ。
私はその他の面々についても、簡単に説明していく。
キラとジャクソン様が仲良しで、よく二人でサッカーをやっていたり。
チチロパ様とハハロパ様は友人止まりで、なかなか恋愛に発展しなかったり。
神官長がエウロパ様とイグナ殿下からも告白され、全員を振っていたり……。
「ハハッ。これ、ゲーム内で虫取りとかもできるのかな? キラくんとカブトムシ取りたいなあ!」
「……それは現実でやればいいじゃん」
「ゲームの中の私、『ハハロパは私のことが好きだと思う』とか言っているね」
「ふふ。もともと、わたくしは旦那様一筋ですよ?」
「イ、イグナがワシのことを……? いったいいつから……」
「俺が老いぼれに恋心を抱くはずがないだろう。所詮はゲームの話だ」
「わ、分かっておる! じゃが……嬉しい……♡」
ゲームの話がきっかけで、それぞれ会話も弾んでいる様子だ。
「……でも、おかしいのよね」
「イヴリン、どうしたの?」
私の呟きに気がついたキラが、不思議そうに問うてくる。
私はゲームを操作して、とあるキャラクターを画面に映しだした。
「それがね。ひとりだけ、兎のぬいぐるみの格好をしたキャラクターがいるんだけど……私、こんな知り合いいないもの」
「ふぅん。……忘れてる、とかじゃなくて?」
「でも、ぬいぐるみよ? 喋るぬいぐるみと知り合ったことなんて、一度もないんだけど……」
――そう。
このときの私たちは、まだ知らなかったのだ。
死と絶望が渦巻くゲームに、誘い込まれる未来を――。
本日、「愛されすぎ聖女」コミックス第5巻が発売されました!
https://books.rakuten.co.jp/rk/650981d02f4e323a9de8209257bfe93f/?l-id=search-c-item-text-03
皆様の応援のおかげで【シリーズ累計25万部】突破となりました。
こんな前代未聞のシリーズが……大きくなって……最高の漫画を描いてくださっている柳矢先生、そしてお買い上げくださっている読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございます。
物語はシリーズ最大のカオスに突入!
突然始まるデスゲーム!消えていく仲間!裏切り者は誰だ!?
手に汗握る展開が描かれます、ぜひ楽しんでいただけたら幸いです。
店舗特典はCOMIC ZIN・各電子書店にて展開されます。お好きな書店さんにてお手に取っていただけたら幸いです。
今後とも「愛されすぎ聖女」をどうぞよろしくお願いいたします!!







