第13話 強欲な女、無欲な女
とある日のセーレの街。そのメインストリートの一画で、俺は情報屋のブレンダと会っていた。
屋敷に来ればいいのにと思うが、情報屋たる者取引は道端でというのは彼女の言だ。変わったポリシーだなと思う。
「……これが有力なソロ探索者のリストか」
「そうだよ。残念ながら“忘れ音”以外に、この近くを拠点にしているカイトの望んだ感じの人材はいないみたいだね」
俺はブレンダから受け取ったリストをパラパラとめくって確認する。
数名はセーレの近くを拠点にしているようだが、ブレンダの言う通り俺の望んでいる人間とは離れている。どれも帝国への忠誠心が高そうだ。
「これはこれで助かる。ありがとう」
「礼は言葉より金額ってね」
「わかっている。ちゃんと用意してるさ」
「にひひ、毎度」
ブレンダは俺から金貨のずしりと入った袋を受け取ると、子悪党っぽい笑みを浮かべる。
最近わかってきたことだが、この女は可愛らしい顔に反して酷い守銭奴だ。自分の得にならないことは何もしない。
だが逆説的に金をしっかり払っている間は信用できるし、初めて俺に会った時に無料で情報をくれたあたり、俺のことを相当買ってくれているということだ。
「ところでブレンダ、もうひと――」
「――待って、道の端に。ご領主様だ」
ブレンダ促されて道の端により、軽く頭を下げると、騎兵に守られた豪華な馬車が通過する。馬車にはこの街を治めるセルべト家の紋章が掲げられている。
「セルべト辺境伯か……、そう言えばよく知らないな」
ずっと田舎で暮らしてきて、探索者になって〈天空の剣〉に所属した後も街から街へ転々としてきた。この地の領主はあまり詳しくない。
「ふーん、なんでも辺境伯様は大変な女好きらしいよ」
「貴族なんてみんなそんなもんだろ」
「まあそうだね。でも辺境伯様の女性の趣味はちょっと特殊なのさ。聞きたい?」
「金取るんだろ? ゴシップに払う金はねえよ」
「ちぇー」
ブレンダはこんな感じで少しでもこちらの興味を掻き立てて金を取ろうとする。油断ならないやつだ。
「それより俺が聞きたいのは、〈天空の剣〉が向かったダンジョンのことだ」
「あー、君の前所属先だってね。気になるの?」
「……一応な」
「ふーん」
ブレンダはニヤリと小憎らしい笑みを浮かべて後、話し始めた。
ほっぺたを思い切りひっぱってやりたい。
☆☆☆☆☆
「おおー! これがお噂に聞く当代の名工カールハインツ・キアマイアーが製造したという〈ルナディウス〉! その月に照らされた剣のようなお美しさはかねがね!」
アンナのマギアギア〈ルナディウス〉を前にはしゃぎちらす一人のエルフ。
ブレンダと分かれた俺は、街でセリーヌを見つけて屋敷へと連れてきた。
「おいセリーヌ、マギアギアに挨拶をする前に人に挨拶をしろ。アンナ、こいつは〈ウィルレイド〉の整備を任せているエルフのセリーヌだ」
「あ、ごめんなさい! “忘れ音”の勇者アンナさんですね。よろしくおねがいします」
「…………!」
ぺこりと丁寧にお辞儀したセリーヌとは対照的に、アンナは真っ赤な顔で柱の陰に隠れて恥ずかしがっているだけだ。
「…………」
「アンナは『これはご丁寧に恐縮です。こちらこそよろしくお願いします』と言っているわ」
リリア、ナイス通訳。
初対面の人と会話するのはアンナにハードル高かったか。斬りつけなかっただけ成長だな。
「ところでカイトさん、今日は〈ウィルレイド〉と〈ルナディウス〉を好き放題いじってい良いって本当ですか!?」
「ああ、整備と強化を頼もうと思っている。アンナはそれでいいか?」
「……カイトの信用しとる人なら、私はそれでいいけん」
おっ! 俺相手とは言えアンナが人前で喋った。成長だな。
「というわけだ、よろしく頼む」
「やった! あの〈ルナディウス〉を思う存分いじれるんですね! あ、バランスなんかはもちろんアンナさんの意見を尊重します」
「よ…………」
「アンナは『よろしくお願いします』って言っているわよ」
「はい、こちらこそ!」
アンナの信頼に元気に応じるセリーヌのアレは今日もあれしてる。アンナのアレもなかなかのものだが、セリーヌはとりわけだ。ちなみにブレンダは並なアレだ。
「……カイト、私はカイトがセリーヌさんの顔より少し下から視線が動いてない方が気になるっちゃけど」
「フハハ、気のせいさアンナ」
今のアンナの声は斬りつけてきた時の冷たい声だ。お、恐ろしいプレッシャー!
「セリーヌ、強化にはここにある魔道具を使ってもらいたい」
「うわー、魔道具がこんなに! しかもどれも強力な魔力を帯びていますよ。これを好き放題……グヘヘ」
さすがはハイエルフ。魔道具から魔力を読み取るか。
というか女子がするにはまずい顔になっているぞ。
ここに並べたのは俺達がダンジョンの奥底から回収してきた物の中から、さらに選りすぐった物だ。ギルドの鑑定の前にリリアに魔力を見てもらっているので、買いたたかれる心配もない。
「それでセリーヌ、報酬のことなんだが……」
「報酬……ですか。私はこれだけの物を好きにいじれるだけで十分なのですが」
「そういうわけにもいかない。素晴らしい仕事には十分な対価が必要だ」
ブレンダは欲がありすぎるが、セリーヌは欲が無さすぎる。強欲と無欲だ。いや、無欲と言うのは少し違うか。セリーヌはマギアギアの知識を欲している。
エルフ種は人間種に比べて知識に対して貪欲だ。ハイエルフが機械に興味を持つのは珍しいが、セリーヌはたまたま興味の対象がそれだったんだろう。
しかし俺は人間種。仕事には金銭などの実のある対価を払いたい。
それがセリーヌにとって当然の権利でもあるし、依頼主である俺の安心でもあるのだ。前回は〈ウィルレイド〉の専属整備士になってもらうということで手を打ったが、次以降を考えると、ここが交渉……いや説得のしどころだ。
「……それなら、少し変わった対価でもいいでしょうか?」
「なんだ、言ってみてくれ」
「私をここに住まわせてはくれませんか?」
「住む?」
「はい、整備の事を考えたら同居する方が都合の良いかと。それと、どうもこの街ではハイエルフは目を引くみたいで……」
確かにこの街ではエルフ種は少ない。それに加えてセリーヌ程の整った容姿ならなおさらだろう。言葉にしないだけで差別を受けたり、何か危険を感じているのかもしれない。
「お願いします! もちろん他の家事もやらせてもらいますから!」
俺は家主であるアンナの方を見る。アンナは赤面しながらも、
「家事はメイドのバネッサがおるけん、あまり気にせんでよかよ」
と、絞り出すように声を発した。つまりオーケーってことだな。
「良いってさ。改めてよろしくな、セリーヌ」
「はい! 不束者ですがよろしくお願いします!」
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