表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

塩対応が辛い

そこでは男性が一人待ち構えていた。

顔を見て執事長だとわかった。

長年ここに務めている執事長だ。

こんな風に思い出せるのなら何とか生活できるかも。

と、思ったが執事長は、微かに頭を下げ

「旦那様がお待ちです。」

と、出迎えの挨拶もせず目を伏せたまま用件を告げてきた。

執事長も既に私、イザベラをお嬢様扱いしないと態度で示してくる。

「執務室でお待ちかしら?」

私も用件のみの返答をした。

込み入った話の時は執務室という考えが浮かんだが確証は無い。

聞いた方がいいだろう。

「ご案内します。」

「いいえ、一人で・・・。えぇ、お願いするわ。」

勝手知ったる執務室。

当然一人で行けるとも思えるがどうにも心許ない。

それに、もうイザベラはこの家の一員としての扱いは受けていないようだから勝手に屋敷内を歩き回らせたくないのだろう。だったら案内してもらった方がお互いにいいだろう。

もちろん心の中のイザベラの感情は”お父様の執務室くらい一人で行けるわ!私にそんな態度を取るなんて!”だったが、心の片隅に追いやる。

すんなり受け入れた私の言葉に執事長は一瞬、痛ましい物を見るような表情を見せた気がした。でもさすがの執事長はぐさま無表情に戻ってしまったから気のせいかもしれない。

「どうぞ、こちらです。」

と、背を向けられ、まるで初めて屋敷に迎えた人に対するように余所余所しい態度を見せられる。

ノックをし、「お連れしました。」と、のみ伝える執事長の後ろ姿を私は感慨深く見ていた。

イザベラの色々な我が儘に振り回され、この屋敷で一番イザベラの被害を被っていたはずの執事長は、先ほどの御者のように私情をぶつけてこない。さすが執事長だ。人の上に立つ器とはこういう物なんだろう。

扉を開け、軽く頭を下げて去る姿は職業人として尊敬の気持ちが湧き上がった。

「手を煩わせたわ。ありがとう。」

言葉短かに礼を言う。

この後の展開ではもう会うこともないかもしれない、今までの感謝の気持ちを込めて、でも案内への礼だと思えるくらい軽く礼を言った。

この家と関係無いという態度を取ってる相手に長々礼を言われても困ってしまうでしょうから、これは私の自己満足だった。

けど、執事長は明らかに目を見開いた。

そして、何も言わずに、改めてイザベラの方に向き合い深くお辞儀をすると去って行った。

あれだけの事に私の意図を悟ったのだろう。やはり素晴らしい執事だと彼の背を見送る。

執事長は一度もこちらを見ず、一番近い角を曲がって姿を消した。

それじゃあ、次だな。

私は覚悟して父であるヴァーテブラ公爵の執務室に入り頭を下げた。

「お待たせいたしました。」

それだけ言ってゆっくりと頭を上げる。

厳しい顔の父が執務机に両手を組んで座っていた。

「イザベラ、今回の事で何か言いたいことはあるか?」

”お父様!酷いの!皆私をよってたかって・・・・”

心のイザベラが叫び出す。

だけど私には余り気にならなかった。

なぜなら父はイケオジ!だったのだ。

実は私は妙齢の男性に弱い。

多分、生育環境のせいで家族コンプレックスをこじらせているんだろう。

年配の人、父親・母親世代に異様に好意を持ってしまう。

こっちを見て、私を見て。

そして認めて!と、思ってしまう。

対して同年代は嫉妬を感じてしまう。

多分、自分の得られなかった恩恵・愛情を無条件に受けていたと思い込んでしまっているからだと思う。皆が皆そうじゃないとわかっているのだが修正できない。

すると、それが又コンプレックスに拍車をかけ、上手く異性と付き合えなかったのだ。

そのフラストレーションが乙女ゲーに走らせたとも言えるかもしれない。

何しろ、現実にいないイケメンが、画面の向こうから愛をささやいてくれるのだ。

画面越しなら紗菜は傷つくことも無い。

現実では上手く返事ができなくても、ゲームなら返答は選択肢が出る。

俺様王子様に塩対応をされても、そういう仕様だとわかっているのだから平気だ。そもそもゲームや、小説ならこういう人だと言うヒントや描写がある。

対して、現実世界の自己紹介に”俺様王子様”や”過去に何かがあり人間不信”なんてする人はいないのだ。

ゲームで経験値を積んでしまった私は余計現実男性が苦手になってしまっていた。

だから、生身の紗菜にとって同世代の男性は緊張する相手なのだ。

そう考えるとイケメン王子様達の壁に阻まれていたのは恐怖以外の何物でも無い。あの時はイザベラの意識が強かったから”無礼者!”と、怒りの感情にとりつかれていたが紗菜なら震えてしまっただろう。

考えてみると、ぶるりと体が震えた。

その震えをどう受け取ったのかヴァーテブラ公爵・・父は顔を歪ませた。

「父親としてはお前の感情を優先したい気持ちもある。

・・・だが、殿下の心を繋ぎ止めれなかったこと、その前に打てる手があっただろうにしなかった怠慢などを考えると、お前には妃になる度量が足らなかったと言わざるを得ない。そして、何よりも平民身分でありながら聖女としての片鱗を見せていたシンリー嬢を害そうとした事は国への反逆と取られても仕方が無い。」

苦渋の父の言葉は続く。

ごめんね。心労が増しちゃうわね。

イケオジの悲しい顔は私も辛い。

けど、解説ありがとう。本当助かります。

だって、主人公、平民からの聖女コースなんて誰も教えてくれないし肝心の自分が思い出せないから仕方がない。

だから、このまま公爵にはしゃべり続けてもらうしかないのだ。

でも、公爵家のおかれた難しい立場に話が変わってしまったわ。

困る。

どのゲームか本当に思い出せないんだもの。

結構テンプレ設定で良かったけど、もう断罪されたからゲーム的には終わってるのよね。

思い出してももう取り返しはつかないからどうしようもないし、

それより、癒やしの力が使えるってことは、ここは魔法が使える世界かしら。

やだ、私は何が使えるのかしら。いや、悪女あるあるで何も使えないかも。


ぐるぐる考えている間に唐突にお話は終わりを迎えた。

「・・・お前が公爵家から籍を抜き、奉仕活動をすることで、それ以上の罪には問わないという温情を与えられた。まず、奉仕活動だが、ラミナの救護院での下働きを指示された。その後はその都度指示が出る。」

「ラミナ・・・ですか。」

言われても地理が浮かばない。

「知っての通りラミナは今緊張状態にある。隣国イスキアとの小競り合いも頻発している。開戦も時間の問題とも言われている。いずれ聖女候補であるシンリー嬢がそこを慰問に訪れる予定だ。イスキアへの牽制も含まれるが、それまでにラミナの環境を少しでも整えろと言われている。」

へぇ~。

と、頭の中が解説に対する相槌を打っている。

偉い人が視察するとなったら突然道がきれいになったとか、前世でもあったな。

「今から向かえ、籍を抜いた以上、今日からお前と公爵家は何の繋がりもない。・・・とは言え、整備命令は公爵家にも出ている。整備に関する資金援助はする。視察もする可能性もあるが、いいか。無関係と言うことを忘れるな。以上だ。」

公爵の言葉と共に執務室の扉が開いた。

メイドが私の手を掴み引っ張る。

やっぱり無礼だなぁ。

とは思うが成すがままに歩いた。

たどり着いた部屋は豪奢で、多分イザベラの部屋なんだと思うがこれに関しては記憶は戻らなかった。

置いてあるノートなどに目を通したかったがそんな時間は無いと突っぱねられてしまい、”今更勉強したいのならどうぞ。”などと言って教科書類を荷物に詰めてくれた。

それを横目に簡易な服に着替えさせられる。

既に荷物は纏められており追いやられるように、裏口から出された。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ