現実はより辛い
この調子でこの世界の事も思い出せるかな。
さっきは、国名と王子の名前は、はっきり思い出せたけど、壁王子様達が思い出せない。
乙女ゲーセオリーで行くと攻略対象者なんだろうけど、あの状態だと全員落としたのかしら。
わぁ、今、私語尾が”かしら?”なんて言ってる。
ちょっとイザベラと混じってきたのかしら。
悪役転生物でいくと、
1.完全に前世の人格。今世の記憶が無い。
2.前世の記憶が覚醒、今世の人格のまま。
3.前世と、今世の人格が融合。
あれ?3項目しか出ないわ。
何か他にもあった気がするけど、まだ頭がぼんやりして考えが纏まらない。
今のイザベラは3に近い、融合中だから前世、今世の記憶が曖昧だ。
思い出せたり、思い出せなかったりするのだ。
つまり、前世の知識チートもなければ、今世の基本知識も乏しい。
今の御者の名前すら思い出せないし、今から戻るであろう家の記憶もぼんやりだ。
窓の外に視線をやると家の近くまで来ているのはわかった。
こんな感じに見てみて初めて何となくそうじゃないかと感じる程度。
これは、中々厳しい状況ではないだろうか。
悩んでいると正門を通り過ぎてしまった。
おや?と、思っていると裏門と思われる所をくぐり、乱暴に馬車が駐まった。
外を見ていて良かった。
停車の衝撃で危うく座席から落ちる所だった。
なるほど。もう正門からも入る価値のない人間だということだろう。
御者は何も言わずにドアを開け、きちんと座っている私、イザベラを見るとフンと、鼻を鳴らした。
どうも降りろということらしい。
以前はこうじゃなかったと思う。イザベラの立場が変わったことで掌を返したような尊大な態度を取りだす。
時勢を見る能力はあるようだが、他の人にもそのようにしているのであれば公爵家の恥だろう。
しかし、イザベラには人事権はないし、御者の振る舞いを宥めても聞く耳を持たないだろう。足台を用意してくれるなど最低限の仕事はしているし、無駄な労力は割く気力も無く黙って馬車を降りた。
御者はさっさと足台を片付け馬車を動かし始める。
私も、何も言わず裏口を自分で開け屋敷内に入った。