表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

束の間の幸せ

そう気づいたのは中学生。

その頃には家の事は私が全部やっていた。

素敵な上昇スパイラルは天井まで来たみたいで、その頃は褒められることはなくなった。

褒め言葉という餌はなく、それが日常となった。

だから、少しずつ私は不安になっていった。

頑張っても労われない。

けど、足りないと指摘される。

不安と、不満、で胸がいっぱいになった頃、

近所の同級生に指摘された。

「なんで紗菜が町内会の集会出てるの?大人じゃないのに。」

はっ、とした。

改めて言われたことに、目が覚める気持ちだった。

でも私気づいてた。

町内会の集会参加者は、私以外は大人だってことに。

町内会の朝の草刈り参加者も私以外は大人。

定期的な公園掃除も・・・。

しかも、ウチからは大人は出ていない。

私だけが出てた。

何かおかしいな。

って思っては居たけど、その考えに蓋をしてた。

ずっと蓋をしてこのままでいたかった。

指摘されなかったら知らない振りでずっといられたのに、親切で言ってくれたかもしれない言葉を疎ましく感じた。

それに指摘したからって、中学生同士何ができる訳でもない。

言ったからといって何も変わらない。

無責任な言葉だ。

お陰で自覚しなかったら純粋に楽しめた集会が楽しめない。

集会ではたった一人の子供の私を、皆口々に「偉いね。」「頑張ってるね。」って、褒めてくれた。家では誰も言ってくれない褒め言葉を沢山沢山くれた。

田舎の集会だから持ち寄ったおかずなんかも分けてくれてお腹いっぱい食べれて天国だった。お母さんの味っていうのはわからないけど、おばさん達の味っていうのが最高だった。

でも、知ってしまったら同じ気持ちではいられない。

おばさん達が優しいのは私の境遇を何となく知ってて憐れんでいるのかもしれないという疑惑。

おばさん達の味最高って言ったって、おばさんは、おばさん達の家ではお母さんなんだから私の物ではない事実。

レシピを聞いても、そういうのは大体目分量か、カンで作っている人が多いから同じにはならなかった。だけど、味の修正なんてできない。それ以上は聞けないから。

だから私がその味を継ぐことはない。

私の物にならない。

他人の物だ。

他の人が受け継ぐ物なのだ。


そういう目を瞑っていた事実が、私を襲ってくるようになった。

今思って見れば、回覧板だっては私が回してて、持って行くと大抵何かお菓子が貰えた。

順路が変わって、持ってく先が変わっても、貰えることが多かった。

だから、やっぱり、町内会の人は気づいてたんだろう。

中学生が一人鎌持って草刈りする異常さに。

ゴミステーション片付け当番をするおかしさに。


だから、中三の夏休み、私をおいて家族が旅行に行ってしまった時もなるべく隠すようにした。

私をおいてどこかに出かけると言うのはそれまでも頻繁にあったけど、「家を任せられるのはお前しかいない。」とかって言われてて、”私、頑張らないと”なんてすら思ってた。

誇らしくて、町内のおばさんに話したことすらあった。

でも、友達に指摘されて、自覚してからは、やっぱりおかしいことなんだって思って、初めて隠すことにした。

これ以上憐れまれるのは悲しかったから。

でも、町内会の公園清掃をしてる時に、何かお腹痛いなって思ってたら、足に流れる赤い物が目に入って、何だろう。けがしたのかな。でも、こんな事で作業止めたら、ばれちゃったら、ちゃんと家の勤めを果たしてないって怒られちゃうって思ってゴミ拾いを続けてたら町内会のおばさん達に囲まれて、皆すごい顔して円陣組まれて、こんな人の真ん中に立ったことがないから本当居心地悪かったことだけが記憶に残ってる。

「えっ、本当?わかってないの?」

「ここまで面倒見てないんだ・・・。」

「ちょっと見てられないわね。」

「今・・・いないんでしょ?」

「そう、ハワイって言ってた。」

「もう、施設の方が良くない?」

なんて言われたことも、頭の隅にこびりついた。

あの頃の私は中学生でも発育が悪くて小さかったから、おばさん達の方が大きくて、ボソボソ頭上でされる話を聞いてた。

囲まれたままで誰かがバスタオルを私の腰に巻いてくれて、誰かの車に乗せてもらって、そこから知らないスーツ着た人がやってきて家じゃない所につれていかれた。

そこは、施設って呼ばれてて皆共同生活をしてて、ご飯も三食でた。

私は何もしなくても出てきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ