前世も辛い
くらり。
と、足下が揺らいだ。
いつの間にか会場を出て、正面玄関の階段にさしかかっていたらしい。
バランスを崩しかけるが、必死に体を修正する。
車止めに我が公爵家の馬車と、御者が待っているのが見えて、今のを見られたかと焦りつつ平静を装う。
御者は何も言わずに扉を開け、私を中へ押し込むようにして入れた。
無礼な!
と、怒るべき所だが、殿下の不興を買った私の立場は思ったよりも悪くなっているのだろう。ついてくるべき侍女もいない。
馬車のグレードも、私が普段使っている物ではない。数段落ちる物だ。
動き出した馬車は、いつもでは考えられない程荒い動きをした。
乗り心地を優先しない、スピード優先の物。
本来ならとても居心地悪い物だが、その居心地の悪さが逆に私の心を冷静にした。
私、イザベラ・ヴァーテブラ。
公爵令嬢。
16歳。
リング王国、リング王立学園高等部2年生。
レオンハルト・フィブラス・リング第二王子殿下婚約者として高等部の女王として君臨。
欲しい物は何でも手に入る生活を小さい頃から送っていたため我が儘。
半年前に現れた特待生シンリーに殿下とその取り巻きを籠絡されて辱めを受ける・・・が、今の私。
そのイザベラの意識に混じってきた私が
鈴宮紗菜。
享年25歳。
いわゆる放置子・搾取子としてどうでもいい存在として生き、欲しい物を欲しいと認識できないまま生きた。
一人暮らしのアパートで風邪をこじらせ孤独死。
が前世の私。
前世のがマシ。
そんな結論に至った私に訪れたのは何ともいえない無力感だった。
前世では、何も持たない自分が嫌になって、逆の生活が送りたいと思いながら最後を迎えたというのに。
今世では、何でも持っている自分も嫌になって、結局、前の方が良かったなんて思うなんて。
なんて、なんて、私の人生はこんなのなんだろう。
悲しくて、誰も見ていないのを良いことに、泣いた。
本当に誰もいなくて良かった。
前のイザベラなら涙を晒すなんてことプライドが許さなかっただろう。
だけど、今は鈴宮紗菜としての私が泣くことを許した。
感情を出すことが許せること。
それだけは、紗菜で良かったと思う。
紗菜は、不幸な子だったから。