善意の気づき
「えっ?」
今度こそ、えってなった。
「すり替わったりとかさ。」
凄く心配そうに言われて、ますます不思議になってしまう。
私が小首を傾げていると、マーサは口ごもってから、ボソボソ言い出した。
普段、はっきり言うマーサらしくない言い方で。
私が余りにも従順に言うことを聞き、掃除や洗濯、厨房の仕事までこなすからお貴族様に無理矢理に身代わりにされたのではないかとかまくしたてた。
その勢いに圧倒されてしまう。
私のぼんやり顔にマーサはますます顔をしかめて。
「洗濯の手際は悪かったけど、掃除はまぁまぁ、厨房でも同じ。」
あら、そんな風に思ってくれてたんだ。
思いも寄らない評価に嬉しくなってしまう。
「洗い物も、最初は出来なかったけど、覚えたらできるし・・。」
確かに、前世と違って洗剤とか食器洗いスポンジとかないからね。
「何よりもナイフを持って皮むきとかできるなんて、おかしいだろう?」
あら、言い切られてしまった。
「だから、あんたは本物じゃないんじゃないかってね。なんか人に言えない事情があるんじゃないのか?誰かに告げ口することはないよ。ここでイザベラ様として預かっているって事にするけども、本当のあんたは誰なんだい?」
一気に言い切られて、思わず笑ってしまった。
こんなに簡単に見破られてしまうのかと思うと力が抜けてしまう。
よくよく考えて見れば違和感しかないだろう。
お貴族様っていうのは、何にもできない。
しないことがステイタスでもある。
それはわかっていたはずなのだけども。
わかっていなかったのだ。
私は。
頭の中でイザベラがキーキー怒っている。
私の爪が甘いって怒っている。
怒りながら貴族の日常について再度説明してくる。
ちょっとお水を飲みたい時でも、自分で汲むなんて事をしなくって、お水を飲みたいって伝える人と、コップを用意する人、汲んで来る人、運ぶ人、イザベラの前に置く人って沢山の人を使ってようやく届く。
そういうものなのだと。
全く非効率だと思うんだけど。
この時代なら必要なことなのかしら?
必要よ!沢山の人を使ってこそ貴族令嬢よ!
イザベラが叫ぶ。
自分で汲んじゃった方が早いと思うんだけど。
待っている間の時間が勿体ないなんて思っちゃう。
私とイザベラの常識は違うのだから食い違ってしまう。
貴族社会で生きてきたイザベラにしてみたら、高貴な自分の身体を使って働かれるなんて発狂ものなんだろう。
今だって
「こんなに手が荒れてしまって!!」
って、怒っているんだもの。
心の中では怒るイザベラ。
私の面前には、心配顔のマーサ。
二人の差に笑ってしまう。
「あんた、そんな風に笑って・・・まぁ、いいよ。これ以上は聞かないよ。あんたの働きは充分だ。もうしばらくしたら別の仕事を頼むからそのつもりでいるように。」
マーサは何だか勘違いしたままのようで、頷きながら去っていった。
そこからだろうか。
人に何となく、他の人も挨拶とかしてくれるようになって雰囲気が変わっていった。
挨拶程度だけども。
それでも嬉しい。
マーサが言う通りに、別の仕事も割り振られるようになった。
ここの本分。
救護院での仕事を。
さすがに触れるような事は割り振られなかったけど、療養している人のお部屋の掃除。
食事の配膳とか。
前世の仕事に近い感じになってきた。
ここまできて、異世界転生で何か出来るんじゃないかって気持ちが上向いきた。




