表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モブから悪役令嬢転生・・・からの即退場  作者: 佐藤なつ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/10

新天地


到着すると、ついてきた二人が荷物を降ろしてくれた。

最初は私が逃げたりしないか緊張して見ていたようだけど、そんな気配が無いのを感じてか、今は一定の距離を取られている。

今もチラチラ見られながら荷物を降ろしている。

その間に周りを見渡す。

救護院は思っていたよりも立派だった。

まず、大きな門。

3階建てで、見張りの為みたいな塔がくっついている。

いや、立派じゃない。

良く見ると所々崩れている。

なんていうか寂れた廃墟ホテルみたいだった。

馬車から降りて、見張りの二人が私の荷物を持ってくれて、ついて来いと言うから従う。

途中、途中で

「ここは正門。今日は使うけど、普段は開いてない。」

「ここが詰め所。」

「この人は門番長。」

などと、ぶっきらぼうながら解説をしてくれる。

人を紹介されると、反射的に淑女の礼を取る。

「イザベラと申します。これから宜しくお願いします。」

家名はもう名乗れないので、名前のみ告げる。

続けて何と言っていいのかわからないので前世と同じような挨拶になってしまった。

相手は私の行動に一瞬ハッとした顔をしたけれど、すぐに顔をしかめ、

「ここでは、そんな作法は何の役にも立たない。こちらに迷惑をかけないよう大人しくしてくれ。逃亡とか見張っている時間はないし、逃げて野垂れ死にしても回収に割く人出もない。」

ブツブツと文句を言われて、荷物を持った二人が

「おい。下手に言って臍曲げられたら面倒だろ。」

とか言っているのを横目に

「わかりましたわ。」

と、答えた。

そう、私も別に逃げたりするつもりはない。

そんな元気も無いし。

私の態度に毒気を抜かれたのか、門番長と見張りだった二人が一瞬ぽかんとしてそれから咳払いして、

「責任者に挨拶に行く。」

と、言った。

そうね。普通は最初にそこに真っ直ぐに行くと思うのだけども、態々、説明してくれるなんて根は親切なんだと思う。

そこから直行するかと思いきや、私の部屋に案内して荷物を置いてくれたり、厨房や食堂を案内してくれて辿り着いたのが三階。

扉をノックして入室する。

「誰だ?」

書類や物がぐちゃぐちゃに積まれた中に、髭もじゃの男が立っていた。

案内してくれた見張り役二人の内の一人が

「連れてきました。」

と、私を紹介してくれた。

「先ほどこちらに到着しましたイザベラですわ。」

軽く膝を折り挨拶をする。

今までの礼儀作法は役に立たないと言われた通りにする。

折角の助言だからすぐ活かさないと。

男は鼻を鳴らしてせせら笑った。

「あぁ、お前が噂の我が儘お嬢様か。俺はファセットだ。ここの隊長を務めている。俺はお前に関わっている暇は無い。」

そう言うと私の手をひねり上げた。

痛くて悲鳴を上げそうになるが、イザベラの気性のせいか声が漏れることはなかった。

こんな時もやせ我慢できるなんて相当な気位の高さだな。

なんて何処か他人事のように思っていると、そのまま何か手枷のような物をつけられて離された。

「お前が一人で何かできるわけじゃないだろうが、逃亡でもされたら事だからな。」

吐き捨てるように言われる。

しかも、手を乱暴に持ったのに汚い物を触ったかのような態度。

全く失礼してしまう。

前世でもこういう人はいた。


女なんて役立たず。

みたいな態度の男の人。

その癖、奥さんに全部やってもらっているの。

やってもらった事に文句つけているの。

そういう人っていた。

ボンヤリ前世を思っていると、

「ボンヤリするな。この部屋から出て行け!」

突然、怒鳴られた。

きっと何か話したら、「余計な事言うな!」とか言ったと思うんだけど。

困ったことに、この人が責任者らしいのよね。

今後が問題だわ。

呟きは心中のみ。

見張り役の二人に部屋から出ようと囁かれて、一緒に出て行く。

部屋から出る時に

「後はオービットに任せて、お前らは使用人部屋に連れていったら非番に入れ。」

と、言われそのまま退室を促された。

見張り役の二人は、私を下働きの人たちが集まる部屋に案内してくれた。

「俺たちはここまでだ。」

と、言う。


「ここまでありがとうございました。お名前を伺いたいのですが、今まで名乗られなかったということは、きっと許されていないのでしょうね。急ぎの旅ながら乗り心地に配慮頂き、車酔いすることなく快適に過ごせました。感謝していますわ。」

そして、礼をすると、彼らは戸惑ったような顔をした。

「オイ、話と全然違っ。」

一人が話すがもう一人が脇腹を小突いて黙らせた。

「もう、いくぞ。」

その言葉に二人で頷き合ってそのまま背を向けられてしまう。

「どうぞ、ゆっくりお休みくださいね。お疲れでしょう?」

思わず労ってしまった。

夜勤明けの人に“お疲れ様~”って言うノリで口を開いてしまったけど、出た言葉はイザベラ風だ。イザベラ風で良いけど、イザベラはお疲れなんて言わないんじゃないかな。それに私の部下でも無いのに“お疲れ”なんて言われても困ってしまうよね。

これをどう取り繕っていいのか判らず言葉に詰まっていると、二人ともこちらを向きピシッと音がするかのように直立になって正しい礼を返してくれた。

そのまま小走りに去って行くのを見送ってから扉をノックする。


三階の隊長がいた部屋よりもこぢんまりとしているけども、負けずに書類でびっちりの部屋だった。

そこで、白髪のがっちりした体つきの男の人が埋もれるように仕事をしている。

「なんだ?」

疲れ果てたような声。

「あの、わたくし、イザベラと申します。今日からこちらでお世話になります。」

そう言うと、初めて顔をあげてこちらを見た。

「あぁ、あんたか。俺はオービット、ここの使用人まとめ役をしている。取りあえず、その服を着替えて、仕事をしてもらおうか。おぉいマーサ。」

次から次へと人が入れ替わり立ち替わり現れる。

オービットが呼ぶと、がっちりとした体つきの年配の女性が現れた。

「あんたが我が儘お嬢様かい。全く余計な手間を増やしてくれたね。」

なんて言いながら部屋につれていってくれる。

しかも、部屋に着くと、

「なんだい。荷物を置いていっただけかい?あいつらは全く。」

とか、言って、荷物を解くのを手伝ってくれる。

しかも、隊長に手枷を着けられたのを見て、

「こりゃ、犯罪者の証じゃないか。こんなの着けて。しかも手が腫れている。あいつは!」

なんて、ブツブツ言っている。

そう言って手当までしてくれた。

簡易の湿布まで用意してくれて。

厭味を言うけども、優しそうな感じ。

テキパキと荷物をより分け、少ない収納に入れてくれたり教科書を並べたりしてくれて、

一々

「こんな本、ここじゃ役にたたないよ。」

とか、

「あんた、こんな服ばっかりじゃここじゃやっていけないよ。」

なんて言いながら。

結局、私の服は使えないとわかって、作業着を貸してくれる事になった。

だったらと、私は我が儘を言う。

男性の衣服、つまりズボンを借りた。

スカートの方が良いとはわかっているけど、作業をする時はズボンの方が楽。

前世ではずっとジャージを愛用していたし、スカートを捌くのはストレスだった。

マーサは驚いていたけど、

止めはしなかった。


それで、着替えてから作業を一緒にやった。

まずは掃除。

ハタキでホコリを叩いたり、箒で床を掃いたり、雑巾で拭いたり。

私が何を言われても、


「えぇ、わかりましたわ。」

と、言ってやるのにマーサは一々驚いた顔をする。

「あんた、お嬢さんなんだろ。」

「えぇ、“でした”ですわ。今はここの居候です。」

そんな会話を何度も繰り返した。

掃除は良い。

単純作業で、何も考えなくて良くて。

特に、階段とか、廊下とか、何も考えずに拭くだけで良い作業は一心に出来るから良い。

綺麗になっていくのを見て、自分の気持ちもさっぱりとした気持ちになっていく。


「今は、こういう所だけど、慣れたら病室とかやってもらうから。汚いもんとかも触ることになるからね。」

「わかりました。」

「・・・・・。」


私が、答える度にマーサは口を尖らせる。

黙り込む。

睨むように私を見る。

でも、目の奥は戸惑っているのがわかった。


私も、私の心の中のイザベラが凄く叫んでいるのがわかった。

「汚い。」

「こんな下働きのするような事!」

「私はこんな事するような人間ではないわ!」

「爪が痛んじゃう。」

「ずっと手入れしてたのに。」

ずっとずっと叫んでいる。

イザベラが美を保つ為に頑張っていたこと。

手の形を綺麗にする為に、重たい物を持たない。

爪も。

姿勢だって、美しくあるために常に気遣っていた。

そんな気持ちが、考えが流れ込んでくる。


皆、皆、努力して、皆、皆それぞれの方向で頑張っていた。

でも、今は、もうイザベラの努力は求められていないのだ。


残念だけど。

私は心の中のイザベラをなだめた。

現状を受け入れられるように。

それでも、悲しくて虚しい感情が胸の中を吹き荒れる。

それを消すかのように掃除に集中した。

「あんた。その手じゃ雑巾絞れないだろう。貸しなさい。全く、ちんたら絞っていたら終わらないよ。」

時々、マーサがそんな事を言ってくれて、私は何とか此所でやっていけそうだと思ったのだった。

すごい久しぶりに書いてみました。

ちょっと書きかけで残っていたのですけれども、あんまり書く気持ちになれず、この後どうするんだったかなぁっていうのもちょっと曖昧ですが、薄ぼんやりと覚えている範囲で書きました。

というのも、結構この話最近ランキングに上がってくるよと言うお知らせが来て、実際何位なのかはちょっとチェックしていないんですが、見てくださっている方がいらっしゃるようなので本当にちょっとなんですけども書いてみようかなぁと思った次第です。

全然話としては進まないし、逆にがっかりさせちゃったかもしれません。

読んでくださっている方に感謝を込めて

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
続編期待
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ