第4話 門の先は異空間でした
テンポ良く進められない・・・
門を開けたら家があった。
見たところ和風の作りになっており、門の雰囲気と合っている。それに大きく、旅館と言われても信じてしまいそうだ。
正面に玄関があり、玄関を中心左右に拡がっている。奥行きはどうなっているんだろう?。
ってそんなことはどうでもいい、問題はなんで家があるのかだ。
門を開けたら家があるのは普通なんだけどさ、今その常識は当てはまらない。
だって洞窟の中にいるんだから。
一旦門の脇から門の反対側を覗く、そこに家はなく雨が降る洞窟の外が見えていた。
さっきまで見た光景だ。
『なんなんこれ・・・』
「・・・家だな」
「それは見たらわかんねんけどな・・・、ウチが言いたいのはこの空間や!」
「空間?」
家にばっかり気がいっていたが、このツチノコが気にしていたのはそうではないらしいく、家がある空間が気になるようだ。
言われてみると確かに変だ。上には空が見えるし、範囲も広い。明かに洞窟内ではないのが分かる。
『これは別空間と考えた方が良さそうや』
「別空間?」
『せや!、ウチも“収納”って特異性があるんやけど、それは異空間に物を入れとけるんや。これも似たようなもんで異空間に家があるって感じやな』
その例えもよく分からないけど、ようは違う空間に家があってこの門はその入り口になっているってことかな?。
『まぁその認識でええで。正直どうなってるかなんて考えても分からんしな』
「そんなもんか?」
『そんなもんや』とツチノコは言うが、そんなよく分からない空間は大丈夫なのだろうか?。
『分からんけど問題は無いやろ』
そう言うとツチノコは門をくぐって異空間に入って行った。
少し危機感が足りないんじゃないか?、何かあったらどうするんだ?。
『なんかあったら、そんとき考えるわ』
どうやらこのツチノコ、後先考えず動くタイプのらしい。
中に入って周りをぐるりと見渡し、戻ってきた。
『ほらな、全然大丈夫や』
「そう、みたいだな」
とはいえちょっと怖いので、おそるおそる門をくぐる。
くぐり抜けてると周りの景色が一変する。どこでも〇アを通り抜けた気分だ。
周囲を見る限り、洞窟の要素が全くない。やはりここは別空間になるのだろうか。
空は太陽はほぼ沈んだのか周りが徐々に暗くなってきているが、空には雲があるのが見えるし、月が見え始めている。
そして空間の周囲は無限に広がっているわけではなく、少し離れた所に白い靄の壁が存在していた。壁の高さは10mを超えていそうでかなり高く、家をぐるりと囲うように存在していた。
異質に感じるが、不思議と危険を感じない空間だ。
『別空間はこの靄の壁までやな、これ以上は進めんみたいや』
ツチノコは靄の壁を小突いたり、体当たりして確かめている。
体当たりしても壁はびくともしていないので、ツチノコの言う通りだろう。
『ススム、家の周りを回ってきてもええか?』
「まて、俺もいく」
靄の壁から少し離れ、ツチノコは家の裏へと進んでいく。靄の壁に沿ってぐるっと回るみたいなのでその後ろをついていく。
門から玄関までは石畳の立派な通路だったけど、家の周囲は白い砂利が敷き詰められている。
ツチノコはその上を音も鳴らさずに進んでいく。
家の周囲を10分程かけて歩いてみたが、裏庭には家庭菜園用?の畑や、リビング横の縁側傍に観賞用の池があったり、車はないのにカーポートまで用意されている。
カーポートを用意するなら車も欲しいんだがなぁ・・・。
周囲を回った結果、分かったのは家の形だ。
上から見るとアルファベットのEの形をしており、玄関は縦棒の中心にあるイメージだ。
そして玄関の反対側、Eの中横棒先に露天風呂が設置されているのが見えた。
上横棒の部分にはリビングとキッチンが見えていたので下横棒が寝室だと思う。
「しまった、開けっ放しだったわ」
戻ってきて気づいた。
入ってそのまま閉めるのを忘れていた。とりあえず閉めて鍵をかけておく。
これ、外から見たらどうなってるんだろうか?。
門だけポツンとあるのかな・・・。
まあいいや、先に今は家の中を確認する方が重要だ。
インターホンは・・・、ないな。
お邪魔しますと言いつつ、ゆっくりと玄関を開ける。
家の大きさから想像はしていたけど、玄関も広い。しかし、全く人の気配を感じないな・・・。
『ススム、あれなんや?』
「ん?」
ツチノコが備え付けの下駄箱に飛び乗った。そこにはバインダーが無造作に置かれている。
「これはバインダー?。中は・・・リストか?」
置かれていたバインダーには、日本語で自分の名前と“セリ”と書かれていた。
「セリ?」
『なんや?』
書かれているまま読んだだけなんだが隣のツチノコが反応する。
あ、これツチノコの名前か?
「え?、お前セリっていうのか?」
『そやで?、なんやまだ知らんかったんかいな・・・。道理で名前を呼んでくれへん訳や』
そりゃ教えてくれなかったし。
『もしかして、それにウチらの名前が書かれてるんか?』
「ああ。書かれているのは俺とセリだけだな」
リストは5行あるが、俺とセリの名前しか書かれていない。
しかも、誰がいつ書いたのかも分からない。
セリが見たそうにしていたのでバインダーを開いたままセリの前に置く。
セリは少し凝視した後、
『制限かなんかかな?』
「制限?」
『せや、特異性には制限ってもんがあってな、使用頻度や条件を満たすことで解除されるんや。例えば速く走れる特異性やったら、使うたびにスピードが上がるとか、やな。今回の場合やと、一度に入れる人数か・・・、もしくは合計で入れる回数か』
「制限については何となく分かるが、なんでそう思うんだ?」
『このリストや!。このリストには5行しかなく、次のページもない。つまりこのリストが埋まったらそれまで、って思っただけや。・・・言っとくけど確証はないで』
「ふーん・・・」
ならちょっと試してみようか。
門を開け、一度セリに外に出てもらい、その間俺は中でリストを眺めておく。
セリが、門を通過した瞬間、リストからセリの名前が消えた。
「あ、消えたぞ!」
『ほんまか!?』
セリがすぐさま戻ってくる。この空間に入ったら、リストにセリの名前が浮かび上がった。
この様子だと、この空間に入った人の名前が表示されるようだ。
となると、今この空間に居るのは俺とセリの2人だけということか・・・。
『なら制限は数やな。このリストの分やと・・・』
合計5人か。
俺は元々1人旅が殆どだし、問題はなさそうだな。まさかすぐに定員になる事はないだろう。
まだ確認しないといけない事もあるからな。
しかし
「一旦休憩しようか」
慣れない事ばかりで正直疲れた。