第21話 ダイエット
「セリ!少し遅れてるぞー!」
俺は庭を走るセリに向かって声を出す。セリは今、庭の外周を走り続けている。
といってもせりの移動方法は尺取り虫のような感じなので飛び続けてるといったほうがいいかな。
あの後、セリは『もうええ・・』と拗ねてしまったのだが、俺たちがおやつを食べ出した時にまた泣き出した。
流石に泣き続けられるとアレなので条件を出した。渋っていたセリだったが、みんなのが食べてるおやつの誘惑に勝てなかったようだ。
その食べるための条件が今やっている事、つまりダイエットだ。
食べたきゃその分の運動をすれば良い。だからセリには庭の外周を走ってもらう事にした。
庭の外周は一周200mほどあり、10週走ったらどら焼き一個食べていいとセリには言ってある。とはいえちんたら走って回られても困るので、一周の時間を測り10周の目標時間を決めた。
セリは目標時間に反発したが、達成すればおまけでもう一個つけると言ったら喜んだ。セリよそれでいいのか?
そう言うわけで、セリは庭を走り続けている。現在14週を超えたとこで、徐々にペースが落ちてきている。
この分だと20週で限界かもな。
10周の目標時間内はクリアしてるのでこの分だと3つは食べれるだろう。
まぁ頑張れ。
『ハァハァ、アンタ他人事みたいに・・・』
そりゃ他人事だし。
けどあげた俺も悪いので一緒に走ってるだろ?
・・・セリのスピードに合わせると、普通に歩いてるのと同じだし走ってるとは言わないか。
『魔物退治じゃあかんかったんか?』
「それでもいいが、それだと動かんだろう? “風生成”で動かず倒してるの知ってるからな?」
動かなければ戦闘しても意味はない。走るのが辛いのは分かるが・・・
『あかん、もう限界や~』
セリは残り18周目に入ったところでペタリと地面に張り付いた。後2週でどら焼き追加なんだが厳しいか・・・。目標時間もオーバーしてるし。
「セリ、今日はここまでにするか?あと2周で1個追加なんだが・・」
『まだや!まだ終わらんで!』
そう言って動き出すセリ。ん?なんかさっきより速くないか?
一回の飛び跳ねる距離がさっきより倍近く大きいぞ。
そう思いつつセリを追ってるとそよ風が吹いてるのに気付いた。
そよ風?この空間は無風なんだが?
・・・・・
俺は加速するセリを見る。こいつ“風生成”を移動補助に使ってるな。
器用だが、特異性の使用は禁止している。
「セリ・・・、ズルしてないよな?」
俺が聞くとセリはビクゥと震えた。分かりやすい。
『か、“風生成”なんてつこてへんで?』
そしてネタバラシ、嘘つけない奴だな。
俺は判決を下した。
「特異性を利用した悪質な行為、セリの本日のおやつは没収する!!」
まぁ、嘘だが。最初の2個はちゃんとあげるぞ。
『いややぁ〜!!』
セリの絶叫が俺の頭に響く。
うるさいな。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
それから数日経った。
本来なら二人の怪我の手当てをしてすぐチャロアイトを壊す予定だったのに・・・
予定ではサクッとセリが壊す筈だったが、おやつうんぬんでセリが機能しなくなったため予定を変更した。
数日かかるとは思ってなかったが・・・
ダイエットを始めた事でセリの体重も徐々に戻ってきたし、今日からおやつの量もみんなと同だ。
セリは喜んでたが、ダイエットは続けてもらうぞ。
セリのテンションは元に戻ったので明日チャロアイトを壊しに行こう。
そのことを晩ご飯中にみんなに話した。
『ええんちゃうか、ウチはいつでもええで。むしろこの鍛えた体を動かしたいくらいや』
ダイエット=鍛えるは違うからな?
ただ軽くなって動きやすくなっただけだろ。
「私たちはいつでも大丈夫です。そもそもお役に立てませんので」
ナギが了承してくる。役に立たないのは俺も同じなので気にしなくてもいいぞ。
予定外だが数日ここで共に生活したせいか、二人の警戒は大分無くなっていた。寧ろこの生活に馴染みつつある。
ここの生活に慣れると元の生活ができなくなるような気がするが、大丈夫だよな?
二人にはこの数日の間に、俺が異世界から来たことやセリと旅をしている経緯について話しておいた。
異世界について二人は若干戸惑ったが、「この家の設備は俺の世界のもの」だといったらすぐ納得した。
ナギによると、ガスコンロなどがこちらの世界じゃあり得ないらしい。有角族ではかまどが一般的らしい。
となると、現状この世界の文明は俺の世界より技術が進んでないってことになるな。
やはり、あまりおおっぴらにしないほうがよさそうだ。
と、思考が逸れてしまった、話を戻そう。
「そうか、では明日の朝出発しよう。二人とも悪かったな、本当はもっと早く壊す予定だったんだが・・・」
「い、いえ!別に気にしていません! ここではとても良くして頂いたので!」
「だが村の事もあるし、他に逃げた人のことも心配だったのに・・・すまない」
そう言って頭を下げる。本当はもっと早くに言うべきだったのだが言い出せなかった。
「気にしないで下さい、見た範囲だけでも村はもう手遅れでした。他に逃げ出せた人が居たかも分からないので、ススムさんは気にしないで下さい」
ナギは俯いて答える。どうやら彼女は、村から逃げ出した時には全てを諦めていたみたいだ。
つまりそれほどの脅威であったと言う事だ。
しまった、セリのダイエットに精を出してる場合じゃなかった・・・
俯いて泣きそうなナギをフウが心配している。
あまり思い出したくない事だよな。
「嫌なことを思い出させてすまない。ところで二人は今後どうするんだ?」
なので強引に話題を変えた。
後でどの道聞く事になるのだったら今でもいいだろう。
「え、えと、・・・今後、ですか?」
ちょっと強引過ぎたか。
「ああ、ちょっと先かと思うが二人はチャロアイト壊した後どうするのかと思ってな」
「すみません。まだ考えてませんでした」
「フウはココに住みたい!」
「ちょ!?、フウ!何言ってるの!!ススムさん達に迷惑でしょ!」
「え~!?お姉ちゃんだって、ここ住みやすいって!」
「ちょっとフウ!それはーー」
そんな事言ってたのか・・俺は慌てるナギを見る。
視線に気付いたナギは真っ赤になって俯いた。
うん、可愛い。
それはそれとして、まぁ住みやすいのだろうとは二人の様子を見て分かってた。
村の生活水準がどれくらいかは知らないが、この家の物を見た二人の反応からこの家より低いのは明らかだったし。
それに、住みたいのであれば俺は構わない、セリはどうかな?
『ウチはええで。二人ともええ子やし、ナギの料理美味いしなぁ』
ならいいか。
“旅の宿”の定員は5人だし二人増えても大丈夫だ。断る理由もない。
「ここに住みたいんならいいぞ。セリも良いって言ってるし」
俺は未だ真っ赤になって俯いてるナギに向かって伝える。
「い、いいんですか?」
「ああ、とは言っても考える時間も必要だろうし、答えはチャロアイト壊した後とかでもいいぞ」
とは言ったものの、隣で喜んでるフウを見る限り決定したようなものだが。
「ススムさん、ありがとうございます」
ナギは頭を下げてから、少し笑った。




