第174話 どうなったの?②
ヘイゼルについて行き、チョコが暴れているだろう庭に到着。アレ? 庭だよな・・・荒れすぎてて何処が庭で何処が通路か分からんぞ。これもチョコが・・・な訳ないか。これはセリのせいだな。
庭では一ヶ所で大きな風が渦を巻く様に吹き荒れており、中に人が閉じ込められている。服装から見て、パゥワー邸の人間達の様だ。少し離れたところでおっさんが倒れており、その横にセリやリン・・・何でリースレットまでいるんだ?
まぁいいや、それよりチョコは・・あれか?
おっさんの隣にもう1人倒れている人影を見てそれがチョコだと気付く。
「チョコさん!」
『ナギか? 何やススムも来たんか』
「ススムだと!?」
ナギが急いでチョコに駆け寄って様子を確認する。俺も寄って確認すると気絶しているだけの様なので一安心
ヘイゼルは倒れているおっさんの方に駆け寄り介抱し始める。どうやらこのおっさんがチョコの親父らしいな。生きているみたいだし、チョコは殺していないようだ。というかこのおっさん、さっきから俺をガン見してくるんだが何故だ?
とまあ、それは置いといて、セリ達が側に寄ってきたので状況を聞いた。
「よく分からないのだが、チョコがこのおっさんを殺そうとしてたって?」
『うん・・・。でも直前でセリが気絶させて止めたんだ』
『ススムが殺すな言うとったし、ウチの絶妙な力加減で止めてたったで!』
『僕が結界の強度上げて調整したんだけどね・・・。あのまま叩いてたらチョコの首飛んでたよ?』
『ほんまか? それはすまんな』
細かく聞くのは後にして、話を聞かなくなったチョコを気絶させて止めたらしい。もうちょっといいやり方あったんじゃないかと思うけど、とりあえずグッジョブだ、後でお菓子でもあげよう。
『ほんまか!? やったで!!』
「ああ、帰ったらな。ナギさん、チョコのことお願い」
ナギさんに寝ている気絶したチョコを任せ、ガン見しているおっさんの方に移動する。片足切り飛ばされてるけど大丈夫か?
「応急処置はした、それに他の者が医者を手配しているし大丈夫だ」
「足は?」
「それも治る。その医者は特異性でどんな怪我でも治せるからな」
“癒しの手”でも持ってるのかな? どうでもいいけど治るなら放っといてもいいかな。じゃあチョコ連れて一旦帰ろう。
・・・一応聞くけど、これ弁償とか慰謝料請求とか無いよね?
「この程度ならお前のようなぽっと出の冒険者に請求するまでもないわ。丁度執事への給料が浮いたところだからな」
「なら良かった」
執事云々はよく分からないが、チョコの親父はこっちを睨みつつ答える。ずっと見られてるのも居心地が悪いのでさっさと立ち去ろう。あ、リースレットも付いてくるのね。
「待て・・」
「ん?」
ナギの視線を感じながらチョコを背負うと、チョコの親父から呼び止められる。話をするのはいいが、先に医者行ったほうがいいんじゃないか?
「構わん。それよりもお前はチョコの何だ?」
「俺? チョコが居候してる家の家主だけど。それが?」
「居候だと?」
「今はね。最初は一緒に旅する仲間って感じだったけど、今は家で好きなことしてるしさ」
と言っても採掘や鍛治を頑張ってるので文句とかは何もないし、フウたちの面倒も見てくれているのでナギも助かっていると言っていた。
「好きにさせていると言う事は、お前はチョコの娶る気なのか?」
「いや。チョコはそんな気無いし、こっちもそのつもりは無い」
このおっさんはどうやら俺がチョコを狙っていると思っているようだ。確かにチョコは可愛いが、本人にそんな気が無いし、俺もそんな事したらナギから何言われるか分からないしな。チョコを背負ってる今ですら嫉妬してる奥さんだ、そんなこと言ったらどんな行動に出るか・・・。
「ならさっさとチョコをワシに返せ。今なら何も言わん」
「それは無理だな、チョコは俺の物じゃ無いからな。帰ってきて欲しいならチョコに直接言え」
まぁ言ったところで無理だろうけどな。離縁の話はチョコに何度か考え直したほうがいいと提案したけど、一度も首を縦に振らなかった。その時はそこまで嫌う理由が分からなかったけど、今話して何となく理解する。
このおっさん、なんかチョコを物扱いしてるよな。
『ずっとあんな感じやで。チョコもそれにキレて殺そうとしとったし』
『殺される直前でもあの調子だったし、あれは言って直るもんじゃないね』
「そうなのか・・・」
予想以上に面倒な人のようだな。たまに聞く、子供は親の言う通りにしろ!! 的な人なんだろう。
どうしたら納得するんだろう・・・。考えても分からないし聞いてみよう。
「アンタさぁ、どうしたらチョコの要求を呑むんだ?」
「ふん、あんな要求なぞ呑まん。大体娘が親元を離れるのは嫁ぐ時のみだ。好きに行きたいから出て行くなんぞ認めるわけがない」
「何故だ?」
「当然だろう、ワシの言うこと通りに生きれば幸せに過ごせるのだぞ。苦労もないし、危険もない。お前のような冒険者の家で暮らすよりずっと幸せにさせてやれる」
「あっそう・・・」
何を持ってそう自信満々に言ってるのかねぇ・・・。大体そうならチョコが家出なんかするわけないだろ。
セリもそう思ったのか、チョコの親父に向かって同じことを疑問としてぶつけた。
『幸せやないからチョコ家出したんやろ? アンタ全然幸せに出来てへんやん』
「それはチョコがワシの親心を分からんだけだ!」
『チョコの心も分からんくせに何言うとるんや』
「何だと!?」
「セリ、その辺にしとけ。言うだけ無駄だ」
止めようとするがセリは止まらずに続ける。どうやらコイツもヒートアップしてきたらしい。そこまではいいが、キレるなよ? いいな、絶対にキレるなよ?
『ならチョコのやりたい事とか知っとるんか? 何が好きとか将来の夢とか知っとるんか?』
「そんな事は知らなくてもいい。チョコの将来はワシが決めるし、何をするかもワシが決める!」
『そんなんやから家出するんやろが!!』
「ぐはぁ!?」
「旦那様!!」
セリはキレた。あれだけ言ったのに・・・
セリは回転し尻尾を頭に叩きつけた。叩きつけられたチョコの親父は一撃で気を失いぐったりとしてしまう。おい、死んでないだろうな!
「セリ・・・」
『死んどらん。リンが結界張っとったしな』
『ほぼ最大強度で張ったんだけどねぇ・・・。一撃で破られたよ』
「殺す気じゃねーか!」
取り敢えずリンにはご褒美追加しておこう。セリのお菓子は没収・・・しないでおくか。俺もイライラしてたし。人をイライラさせるのが上手いおっさんだ。
「しかし・・・これからどうするんですか?」
「・・・帰ろっか」
居てもする事ないし。
ヘイゼルに後日来るとだけ伝えて、俺たちは入ってきた所からパゥワー邸を後にする。すると塀の中から叫び声が聞こえてきた。
「おい! この風なんとかしてから帰れぇ!!」
『あ、忘れてたわ。・・・まぁあんな奴らやし、そのままでもええか』
「よくないし解除しとけ。頼むから」
ちょっとイライラするセリを宥めながら帰る。
結局何も解決しなかった。




