第142話 動揺
道が開けたと思ったら凄く広い場所に出た。広場の真ん中には湖があり、かなり広い。広場の9割は湖が占めているようで、今いる所と同じように湖の岸から2~3m程で木が生茂っている。
あれ?、ここの木って普通の木だな。入口のようなヒョロヒョロ毒木のではない。それに霧も無く湖の反対側までよく見える
「途中から普通の木に変わってましたよ?。あのヒョロヒョロな木は入口だけでしたね」
「あ、そうなんだ・・・」
どうやら入口入ってすぐ景色は普通の森に変わったらしい。
全く気付かなかった・・・。つまりその時点で幻覚が見えてたってことか・・・。
あれ?、でも今普通の森に見えてるってことは・・・
「幻覚解けたのか?」
『どうなんだろうね・・・。ナギもあそこには湖が見えるかい?』
「見えますね。セリさんは?」
『ウチにも見えとる。色は・・・毒っぽいけどな』
「毒っぽい・・・ねぇ」
確かに濁ってて底が見えないし、毒っぽい色をしていると言えばしてるけど・・・。
リンもバッグから出て覗いて見てるが、顔からして入るのは嫌そうだ。
でもナギと同じ湖が見えているってことは幻覚が解けたとみて間違いなさそうだ。
「え?、底まで良く見える綺麗なみずうむぅ!?」
「ナギさん?」
ナギの変な声に振り向くとナギの姿が見えない。
あれ?、さっきまでそこに居たはず・・・
「!!、セリ、リン!。すぐナギを探せ!」
一瞬状況がついてこなくてぼうっとしてしまった。気付いたと同時に傍にいるセリとリンに慌てて指示を出した。
くそっ!、この森では魔物が出てきてなかったから油断した。ここで襲われると思ってなかった。普通に考えたら何処で襲われても不思議じゃないのに!。
襲った相手が何を考えて今襲ってきたか知らないけど、恐らくリンがナギのバックから出たからだろうか。
しかしよりによってこの森でか・・・。
このままナギを探しに森へ戻るとまた幻覚を見るだろう。敵がどうかは知らないがこの森で暮らしているのであれば効かないと考えた方がいい。
となると探すのはほぼ困難になる。そうだとすればナギは・・・
もう会えなくなる?。
話すことも、触れることも?。
冗談じゃない!
すぐにでも探し出してーー
(大丈夫ですよ。少し落ち着いてください)
『ススム慌てんでもええ』
『そうだよ。多分ナギはまだそこに居るから』
「え?」
セリとリンに言われ、2匹を見る。2匹とも指示したのにも拘らずまだ動いていない。その上ずっと一方向を見ている。
さっきまでナギが居た所を。
いやいや、そこにナギが居ないから探してと・・
『だからそこに居るで。見えへんだけでな』
「見えない?」
『幻覚だよ。僕らの幻覚はまだ解けてないだけさ。実際僕たちにも見えてないけど、ナギを見えなくした張本人がそこに居るのは分かるからね』
「張本人・・・って魔物がそこに居るのか!?。ナギが危ないじゃないか!!」
『うっさい!!』
騒ぎ過ぎたのかセリに腹パン・・じゃない腹頭突きされる。痛みは殆どないが反動であの濁った湖に落ちた。良いのか悪いのか岸付近だったため湖が浅く、溺れることは無かったが着地時に腰を強打する。
セリの頭突き以上のダメージが腰に入った。
そして
「あれ?、ナギ・・さん?」
落ちた拍子に濡れた顔を拭うと、目の前にナギが立っていた。セリ達の言う通りナギはさっきと同じ場所にいるし、見た感じ怪我も何もしていない。
しかしナギが見えるってことは・・・幻覚解けた?。
湖の水もさっきと違ってかなり綺麗だし、湖に水が目に入ったことで森幻覚が消えたのかもしれない。
いきなり頭突きしてきたセリには腹立つが、幻覚が解けたのは良かった。ナギの無事も確認でき・・・、
いや、口になんか付いてるな・・・あれが魔物か?。
後ろを向いてナギの口を塞いでいる。蝶のような羽が背中に生えており本体が見えないが、羽入れても大きさはナギの顔程で魔物にしてはかなり小さい。
見てるとこっちを見たナギと目が合った。こっちの視線に気付いたナギが手で取って欲しいと合図してきた。どうやら自分で取れないらしい。
『ススム大丈夫かいな!。水飲んだらあかんで、腐っとるさかい』
『落としといてよく言うよ・・・』
立ち上がろうとしたらセリが寄ってきた。水が腐ってるって・・・かなり綺麗だぞ?。
どうやらセリはまだ幻覚が見えているらしい。
丁度近寄ってきたし、掴んでセリも湖に落としてやった。
『のぁぁああ!!?』
相当ビビったのか。湖に入れた瞬間軽く溺れるセリ。家の風呂より浅いんだけどな・・・。
ちょっとして、湖の浅さに気付いたセリは無言で大人しくなると、こっちを睨んできた。
『ススム~・・、覚悟は出来てんやろなぁ?』
「これでおあいこだ。目が覚めただろ?」
『はぁ!?、こないな腐った水で・・・綺麗やん!?』
どうやらセリも解けたらしい。湖を見て呆然としている。
「呆然とするのはいいけど、先にナギさんをなんとかしたいんだが?」
『ん?、ああなるほどな。よう分からん状態やけどどないするん?』
「それはナギさんから離してからだ」
後はハエ叩きで叩きまくろうかな。
いまだにナギに張り付いてるのがイライラする。何にしてるか知らないが無性に叩きたくなってきた。
ということで、何故かナギの方を向いて何かしている蝶っぽい魔物に近付く。この魔物全くこっちに気付かないが、ナギの困った顔から何かしているのは間違いない。
羽を閉じたり開いたりしてたので閉じたタイミングでつまみ上げた。
「ぎゃあ!?、何!?、何!!?」
同時に甲高い声を蝶から発せられた。




