第132話 セレナとシルヴィア②
「ふふふ、ごめんなさいね。ちょっと急用で出かけてました」
「いえ!、ご多忙の中連絡してしまい、こちらこそ申し訳ありません!」
「フレイ様すみません」
「シルヴィアはもっと反省しなさい!」
「いたた、セレナ痛いよ」
部屋の前で少し待っていると、中からフレイ様が出てきた。そのまま招かれて部屋に入る。
相変わらずのシルヴィアに代わってフレイ様に謝るが、当の本人が余り気にしていない態度なので無理やり頭を下げさせる。
「セレナ、私は気にしてませんよ。私たちの仲じゃないですか」
「いや、フレイ様と私たちの立場でそういうわけには・・・。はっ!、も、申し訳ありません!」
またフレイ様に意見してしまった。
この癖の所為で処罰されかけたのにまだ治らない。フレイ様はそのままでいいと言ってくれるが、もしフレイ様とは別の方に仕える場合になると良くない。
「それは無いですよ。貴方たちは優秀ですから。さて・・・、では報告をお願いしますね」
「「はい」」
フレイ様の雰囲気が優しいお姉さんから上司へと変わったのを合図にシルヴィアの雰囲気も変わる。さっきまでも天真爛漫な雰囲気が一気に消え去った。
普段からそうしてたら、問題児扱いなんてされないのに・・・。
っと、集中しないと。
「ではセレナからお願いしますね。ロスティーナ帝国は戦争を始めてしまったようですが状況はどうでしょうか?」
「は、現在ロスティーナ帝国の兵はティムール王国の国境付近の街を占拠し、本軍が王都に向けて進行中
です。あと、同時進行でレティシア共和国との国境街を襲撃しております」
「思ったより状況が進んでますね。それで帝国はレティシア共和国との分断を行っていると?」
「恐らくは。ティムール王国の交易はレティシア共和国のみであるため、そこを絶たれるとレティシア共和国からの支援が受けれられません」
支援が受けられない状態が続くと王国はもたない。
帝国もそれが分かっているから進軍しているのだろう。
「なるほど・・・。ちなみに二つの国への勇者や聖女には担当神から神託を送るように伝えたはずですが、それは?」
「アレース様、アプロディーテ様はフレイ様の要望通り神託を送りました。が、帝国の勇者はそれを無視し、聖女は所属の教会を通じて王国に伝えようとしましたが何者かに阻止されたようです」
「阻止?」
「どうやら教会上層部に帝国のスパイが居るようです。現在調査中でまだ特定までは至ってません」
「では勇者はどうしてますか?」
「神託を無視した勇者は、現在本軍の前線にて活動中です。帝国の進軍が速いのは彼が居るからです」
どうやら勇者は戦闘が好きなようで、神託を聞いても聞く耳を持たなかったらしい。
今も率先して攻め込んでいる。
「消しましょう。セレナは最優先で彼を消しなさい。アレースには私から伝えておきます」
「はい!、承りました」
フレイ様は勇者を不要と判断したようです。
元々、彼らは担当神の声を伝えるメッセンジャーをするかわりに特別な力を与えています。ですからその役目を無視するのであれば不要と判断されてもおかしく無い。
「消した後はアプロディーテの聖女を救出しなさい。救出したら私に連絡してください。避難先を伝えますので」
「う、承りました」
「その後は観察でいいでしょう。教会に居る帝国のスパイも放っておいて構いません」
え?、放置するんですか?
「良いんです・・・、あ!、申し訳ありません!」
「良いんですよ。放っておいてもどこかで尻尾を出すでしょう。帝国側の勇者が居なくなると形勢が変わるかもしれませんし、動き出す可能性が高いですから」
「は、はい!」
「ではそれでお願いしますね」とフレイ様は私への指示を終えるとシルヴィアに問いかける。
「ではシルヴィアの報告を。レティシア共和国はどうですか?」
「現在戦争の影響で王国との国境街に冒険者と商人が集まっております。皆王国へ行く予定だった者たちばかりですが、先ほどセレナが伝えた通り王国側が戦場の為、国境街又は国境の砦にて足止めされている状態になっております。結果、そこで商売をする者がいるのですが、そこに買いに来る客は皆帝国側の人間です」
「それは・・・、共和国の商人は帝国相手に商売しているということですか?」
「はい。しかし彼らは王国の商人と偽っている為、共和国の商人たちは知らずに売っているようですね」
「確かにそうすれば国境の戦場も近いうちに王国側が不利になるでしょう。それにそのまま続けば王国の資源は枯渇し、帝国側の勝利は確実でしょう」
「帝国の人間は、自分たちを王国民だと共和国民に認識させるため、随分と前から潜入していたようです」
「いかが致しますか?」とシルヴィアはフレイ様の意見を窺う。
「放置しましょう。ですが、共和国の・・・そこも聖女ですね、共和国の聖女に帝国の商人について伝えておきなさい。後は共和国の上層部の判断に任せます」
「は!、承りました!」
「他の街はどうですか?」
「現在戦争の話が話題となっておりますが、大きく変わったことはありません。先ほどお伝えしたように、国境街へと移動する商人、冒険者が増えたくらいです。上層部も現在動きはありません」
「そうですか」
「それと・・・一つ気になる事がります。戦争とは関係ありませんがいかが致しましょう」
あ、どうやらシルヴィアはあの人間のことを伝えるようね。
「お願いします」
「は!、実はレーヴィアの街で、変わった人間を確認しました。外見などは普通の人間ですが気配が他と違っており、あの世界とは別次元から来た者ではないかと思われます」
「それは、もしかして蛇のような魔物を背負った男の人でしょうか?」
「は、はい!。ご存知だと知らず申し訳ありません」
さすがフレイ様です。既に知っておられたとは。
それにシルヴィアもちゃんと謝ることが出来るじゃない。
「良いのですよ。彼については私が対処しますので放置しておいて問題ありません」
「フ、フレイ様がですか?」
え?、フレイ様自身が対応するのですか?
流石のシルヴィアも驚いている。
「そうです。彼は特殊な人間のため、私が直接対応します。そしてこれは他の誰にも話してはいけません。いいですね?」
「「う、承りました!」」
「ではそのように。他には?」
「い、いえ。現状、他に報告する必要はありません」
「そうですか。ではシルヴィアは引き続きレティシア共和国の状況を調査下さい」
「承りました」
「では報告はこれくらいにして・・・・、お菓子にしましょう!」
「やったぁ!。フレイ様大好きー!」
「ちょ!?、シルヴィア!」
嬉しいのか、無礼にもフレイ様に抱きつくシルヴィア。
流石に怒られるのかと思いきや、そこはフレイ様、優しくシルヴィアの頭を撫でて受け入れている。
一瞬、シルヴィアが羨ましく思ってしまった。
「ふふふ、セレナも来て良いのですよ?」
「し、しかし・・・」
立場を考えるとあり得ない。しかしフレイ様の提案を断るのもあり得ない。
「ふふふ、セレナ来なさい」
「!、・・・し、失礼します」
ゆっくりとフレイ様に身を預ける。するとシルヴィアと同じようにフレイ様が頭を撫でてくれた。
私の気持ちを察してくれたフレイ様がわざと命令してくれたので有り難く任務を遂行する。
「これは普段頑張っているご褒美です。これからも頑張ってください」
「「はい・・」」
フレイ様は暖かくて凄く落ち着ちつく。
シルヴィアは・・・既に寝てるわね。
「あらあら・・・。所でセレナ」
「は、はい!。何でしょうか?」
自分も意識が飛びそうになった所で、飛び起きた。
「セレナ、少し臭いますよ?。お風呂、ちゃんと入ってますか?」
「ち、違いますー!!。死霊谷の所為ですー!!!」
泣きながら言ったのが良かったのか、フレイ様から死霊谷も転移で移動していい許可が下りた。
その後、フレイ様から聞いたが他の同僚からも好評だったらしい。
皆口には出さないけどあの谷は嫌だったようね。
いつも読んで頂きありがとうございます。
次話の番外話後から次の目的地に移ります。




