第131話 セレナとシルヴィア①
任務の報告で、狭間の空間に移動する。
戻ったと同時に煩い同僚が声をかけてきた。
「ヤッホー!!。久しぶりー!」
「何が久しぶりよ・・・。散々念話で話してるでしょう」
昨日も話をしたばかりだ。
内容は今日いつ帰るの?、などの大したことのない話が大半で、殆どこの同僚が喋り続けてた。
「セレナ、今日は死霊谷から?」
「そうよ。汚いし、臭いから通りたくないんだけど、他に近い所がないからね」
死霊谷はロスティーナ帝国近くにある大規模な荒野だ。過去に大規模な戦争があったあと、戦死者たちの怨霊が発生し魔物も含む生物がその場に足を踏みいえれると瞬く間に命を取られる危険地帯である。名前は命を取られた生物の死霊がそこらじゅうを彷徨いている所から名付けられた。
私は通っても問題ないけど、見た目も悪いし、臭いもキツいし正直通りたくない。早く移動して違う場所から帰ろうかとも考えたけど、任務時間が減るからやめた。
「シルヴィア、貴方はパルチ山から?」
「そだよー。あ、でもパルチ山は場所がコロコロ変わるから今日は門の前に転移してきたわ」
そういえばパルチ山はそうだったわね。この前見た時はレーヴィア近くに無かったけど、今どこにあるのかしら。
パルチ山のように場所が不定の門へは転移が認められている。けど残念なことに基本最寄の門へと移動する様に言われているため、私は死霊谷を移動するしかない。
むー・・・、今度フレイ様に進言してみよう。
「そういえばパルチ山に行った時、一瞬フレイ様の気を感じたんだけど・・・」
「気のせいじゃない?。フレイ様がそんな所に行く理由なんて無いから」
「そうだよねー」
実際フレイ様が普段何しているか知らないけれど、パルチ山に行くような用は無い筈。フレイ様は門を通らずともこちらに戻って来れる力もある。
多分シルヴィアの勘違いでしょう。
「ねぇねぇ、私が言ったあの人見た?」
「見たわ。でもその話は歩きながらにしましょ。遅れるとフレイ様に迷惑がかかるわ」
明確な時間を指定している訳では無いけど立ち話で遅れるわけには行かない。来たら真っ先に報告するのが普通で、今私たちがしているような私語ですら本来はしない。私も最初はそうだったけどフレイ様に拾われたあとシルヴィアと一緒になってからは話すようになった。
言っとくけど彼女が言っても聞かないので仕方なく付き合っているだけだから。
真っ白で何もない道を歩く。昔は気にしていなかったけどフレイ様の任務で街に行くとこの場所が殺風景すぎる。シルヴィアもそう思ってるのか、さっきからブツブツと文句を言っている。
気持ちは分かるけど思うだけにしてくれない?。すれ違う人たちに睨まれるから。
「ねぇねぇ、それであの人見てどうだった?。蛇背負ってて面白かったでしょ?」
「私が見た時は背負って無かったわよ」
シルヴィアが煩くいうのでわざわざレーヴィアまで見に行った。でもたまたまなのか知らないけど蛇は背負っていなかった。女性と歩いていたし、デートっぽかったから連れてなくても不思議じゃないけどね。
「え~!、勿体ない!。絶対面白いのに~!。あのリュックから顔だけ出てるのとか見たら絶対面白いのに」
「そんなこと言われても」
見れなかったものは仕方ないじゃない。大体シルヴィアがくれた情報は蛇を背負ってるってのと、雰囲気が変ってだけだから探すの大変だったんだから。
「ごめんね~。でも雰囲気が全然違うから、背負ってなくてもすぐ分かったでしょ?」
「それはそうだけど」
シルヴィアの言う通りで、雰囲気というか存在が周囲の人と明らかに違ったので見つけることが出来た。
見た目は普通だがその存在はあの世界の人よりも私たちに近いので、元はあの世界の人間ではないかもしれない。
遠くから観察しただけなので、どんな人なのかは不明だが一応フレイ様には報告しておかないといけない案件ではある。
「面白そうだから、私今度一緒に行動してみようと思うんだけどどうかな?」
「彼について今後どうするかはフレイ様に報告してから!。貴方も任務があるでしょ」
「え~!?」と同僚が不満を出すが当たり前でしょ。
自分の任務が終わっているのならいいけど、まだ終わってないじゃない。
そんな話をしていると、真っ白な道を抜けて広い空間が一面に広がる。何処からか光が差し込む風景には、私たちが居る所も含め12本の白い塔が円を描くように等間隔に並んでおり、中心にひと際高い塔が立っていた。塔の下は白い靄のようで隠れており、塔の全高は全く分からない。
この景色を見た瞬間いつものようにシルヴィアが嫌な顔をする。
「またあそこまで行くのね・・・。遠い~・・」
「毎回の事だから慣れなさいよ」
「無理!。大体フレイ様の部屋が何であの真ん中の一番上辺りなの!?」
「それはフレイ様が最高神だからでしょうが!。そんなに文句ばかり言ってると今度こそ罰せられて消されるわよ!!」
「消されません~。フレイ様も同意してました~」
「フレイ様にも言ったの!?」
こいつマジか!?。
フレイ様じゃなかったら今頃存在消されてるわよ。
「でも、我慢しなさいって言われた。私も我慢してたって」
「当たり前でしょ・・・」
全くこの同僚は・・・。気付いたら居なくなってたりしそうで怖いわね。
別れたらもう二度と会えない気が会うたびにする。
同僚の発言にひやひやしながら、長い階段を登りきると目的地であるフレイ様の部屋に着いた。この塔内は基本フレイ様の部下しかいないけれど、誰も私たちと目を合わせない。すれ違っても完全に無視されている。
理由は単純で、一つは処罰の対象になった私たちが問題児扱いされているのと、もう一つは私たちがフレイ様に直接面会できる権利を与えられているからだ。
フレイ様に面会できるのは、数百は居る部下の中でもたった数人の決められた者だけと決まっているのに、私たちは特殊部下として個々に面会できる。
周囲に馴染めない私たちに配慮したとフレイ様は説明してたけど、それで周囲の対応が変わることはなかった。
シルヴィアは全く気にしてないけど、私は時々寂しく感じる気がある。
「まぁまぁ!。私が居るから気にしちゃ駄目だよ」
「き、気にしてないから!」
どうやら顔に出てしまったようね。
ごほん!、すぐに気を取り直さないと、フレイ様への報告に支障が出る。
さて、失礼の無いようノックをーー
「フレイ様!!、たっだいまもどりましたぁー!!」
「いい加減、ノック覚えなさい!!。フレイ様申し訳ありま・・・あれ?」
いつもの調子で突撃していったシルヴィアを押さえるように同時に入る。いつもの流れで反射的に謝ったのだが、フレイ様は不在だった。
「え?、フレイ様居ない?」
「い、居ないわね」
フレイ様が居ないことはたまにある。
定期的に行われるフレイ様と以下12神との会合や、その他の行事の時だ。それ以外はほぼ居るはずなのに今日は居ない。
今日は会合や行事も無いはず・・・。
「フレイ様に報告するって伝えた?」
「伝えたよ!。その時フレイ様にお菓子も出して欲しいってちゃんと言ったし」
何要求してんの!?
・・・・まあ、いいわ。
もし処罰されたとしても対象は彼女だけだから。
でも伝えておいたにも関わらず居ないってことは・・・もしかして緊急の要件でもできたのかしら?。
なら安易に連絡するわけにもいかないわね。
ここは戻られるまで待機するべきでしょう。
「あ、フレイ様!。今報告に来たんですけど何処に居るんですか?」
何連絡してんの!?
「ちょっと!?、何で連絡してるのよ!?。フレイ様が取り込み中だったらどうするの!?」
もうこの子怖い!。いつもの事だけど怖いわ。
フレイ様が優しいから今の所大丈夫だけど、いつ処罰されてもおかしくないわ。
「はーい、了解しましたー!。・・・フレイ様、もうすぐしたら帰ってくるって!」
「あ、そう・・・」
もう疲れた・・・。




