第111話 ウォール・スライム①
うーむ・・・。
さて、どうしたものか。
「どうします?、これ・・・」
「とりあえず持って帰るか?」
目の前に乱立する透明な棒状の塊の一つに触れる。
これは水晶・・・いや、石英か?。
『これは・・・クリスタルやな』
「これがですか?」
壁や床から無造作に生えているクリスタル(セリ知識)が俺たちの行手を阻んでいる。まるで格子のように張り巡らされ先へ進めないのだ。
進むためには壊す必要があるのだが、なんか勿体無い気がして壊すのを躊躇ってしまう。
さて、そうしたものか・・。
『いや、壊したらええやん。ほっといてもまた生えてくるし』
「それ何年かかるの?」
『知らん。100年位かかるんちゃう?』
「それを聞くと、壊せないんですが・・・」
次、元に戻るまでに俺たち死んでるじゃん。
余計壊しにくくなったじゃないか。
『でも壊さんと進めへんやん!、こんなもんは考えんとパーッとやってしまった方がええんや!』
「「あー!!」」
二の足を踏んでいた俺たちにイライラしたセリが前方に鎌風を飛ばした。
前方を四角く切り取るように飛ばしてクリスタルをカットした。
ズゥンと地面に落ちたり、クリスタル通しがぶつかってキィンと音を鳴らしつつ、クリスタルの壁が崩れる。
そこには人1人が通れる大きさの通路が出来ていた。
「「ああ〜・・・」」
無残に割れているクリスタルを見て声が漏れる。意外と脆いのか、クリスタル通しでぶつかった場所でも罅が
出来ていた。
『これでも壊れんように配慮したんやで!、クリスタルは脆いししゃあないんや』
「いや別に責めて無いから」
壊すのも最小限?にしてくれているし、誰かがやらないと先に進めないからな。
とりあえず大きめのものを回収して先に進もう。
「それにしても少し暑くなって来ましたね」
「うん?・・そう言われると確かに少し暑いかな・・」
ナギは手で顔を仰いでいるが、俺はそこまで気にならない。
だが気にするとそんな感じがする。
ジメジメしていた入口と違って、全体的に熱気がする。
後で調べたけど、水晶とかってマグマなどで熱せられた水に溶けたケイ素が冷やされて固まった物らしい。
サイトを見ても良く理解できなかったが、水晶を溶かすほどの何かがあるということは分かったよ。
つまりこの下?には高温の何か(多分マグマだろう)があるのだろう。
とはいえこの時はそんなこと知らないので、なんか暑いなぐらいの認識しかなかった。
『ススムこの先になんか居るから言っとくわ。後、デカいで』
唐突ににセリが警告してくる。いや急にデカいやついるって言われても・・・。分かっているならもっと早くに言って欲しい。
言われても洞窟の先はは緩やかな下り坂でカーブしているため、そのデカブツはここからじゃ見えないけど。
「もしかしてヤバい奴か?」
『分からんけど、“気配察知”の反応からして魔石はかなりデカいで。このデカさやとカイマン位ありそうやな』
「それだとこの洞窟では動けないのでは?」
確かにカイマンサイズだとこの洞窟では移動し辛いだろう。洞窟のサイズに対して体が大きすぎる。もしそうだとすると体の向きすら変えられないだろう。
俺たちは確認するためゆっくりと進み、そのデカブツが見える所まで移動する。
そして先に何かが見えてきた。
「壁?」
「壁・・・ですね」
『いやそれがそやで』
目の前に見えるのは洞窟の壁だ、まるで行き止まりのように道を塞いでいる。
というか普通に行き止まりではなかろうか?。正直魔物と言われても信じられない、どこから見ても壁にしか見えなかった。
触っても質感は洞窟の壁と同じだし。
「これが・・・魔物何ですか?」
『せや、ウォール・スライムやな。張り付いた壁と同じ質感になって擬態するんやけど・・・、ここまで大きいのは初めてやな』
「危険な奴か?」
『全然危険やないで、スライムはな種族的に温厚な奴ばかりで襲ってくるやつは居らんからな。こいつみたいに邪魔な奴はたまに居るけどな』
スライムと言えば、かなり強いか、弱いか、エロいやつの3パターンで分けられるが、この世界のスライムは弱い部類に入るようだ。強い場合だと、大抵攻撃が効かずなんでも溶かしたり、毒状態にしてきたり、流動する形状で不定形だったりと何でもありなので厄介な奴が多い。
「あの・・・、大抵のスライムはそうですよ?。村では見つけたら刺激しないようにと言われてました」
『ふつうはそやな。ウチみたいに倒せん奴は関わらんのが一番や。下手に関わったら危ないで』
「・・・ダメな奴じゃないか」
話からしてかなり危険な奴じゃないか!、
何もしなければ襲われることは無いとセリは言うが、今回の場合はスライムが道を塞いでいる。
先に進むにはどいてもらう必要があるのだが・・・、
「セリいける?」
『ふふん!。ウチやで?、余裕や!』
相変わらずの自信だがどうするんだろう。
弱点でもあるのか?。
『奴らは共通して溶けたらあかんのや、どんな方法でもええから、溶かしきったらウチらの勝ちやで。まぁ溶けるというか縮むといったほうが正しいかもしれんけど』
縮むと内部にある核(魔石らしい)が露出するので、後はその核をつぶせばいい。セリによると溶けるのならどんな方法でもいいらしい。
いいらしいが・・・、
「溶かすってどうするんだ?」
溶かすと言えば火を使うイメージだが、セリは火が使えない。
雷を纏って電熱で溶かしたりするのだろうか。
『そんな面倒なことせーへんわ。ウチの腐食毒で噛むだけで終わるわ』
「腐食毒・・・」
“毒牙”で使える毒の一種で、触れたものを溶かす毒らしいが物騒すぎる。
どうでもいいが、俺たちにはかからないように頼むぞ。
『何ビビってんねん。胃酸とたいして変わらんやろ?』
そう言いつつ、セリがスライム(らしい壁)に思いっきり噛みついた。ガチッと音がし、セリの目から涙があふれてくる。
『いひゃい・・・』
「おい・・セリ・・・」
どうやら硬すぎて歯が刺さらなかったようだ、流石名前にウォールとつくだけある。
刺さらないので当然ながら毒がウォール・スライムには届いていない。
涙目のセリがとぼとぼと戻ってきた。
『かたゃい・・、噛めへん・・・』
「大丈夫ですか?」
『大丈夫やない。ウチの歯は大丈夫なん?』
「見た所欠けてはいませんが・・・」
ナギがチェックしたところ歯は大丈夫そうだが・・・。
大丈夫じゃないことが一つ。
「セリ、あれどうしたらいいい?」
『「あれ?」』
俺が指差した方向をセリたちが見る。
ズズズッとゆっくりと壁がこちらに向かってきていた。
どうやらウォール・スライムを刺激してしまったらしい。
「どうする!?」
『一旦帰ろか・・・、ウチには無理や』
さっきの自信は何処行ったのか、速攻で撤退を選択するセリ。
俺達は慌てて家に帰った。




