セリカvsフリィ
ちょうど良い対戦相手と言うことで、戦う事になりました。
「おいおい、セリカ・・・いくら何でも補助科のフリィを戦わせるわけにはいかないだろう。」
困ったような顔で、教官であるカイルが話す。
フリィの実力も知っていたが、自分の管轄外の子を戦わせるわけにはいかない。
「私は大丈夫ですけど・・・どうしてそうなるんですか?」
フリィが質問をすると、カイルが説明を始めた。
「それなんだが、実はな・・・」
獣人のハーフであるビルドは、バリバリのファイターで、魔眼以外の魔力はほとんど無い。
その分、人ではあり得ないような身体能力を持っているため、他に補助をする人間が居た場合の戦闘力、突破力は凄まじくなるのだが、一対一では、セリカの相手にならない。
と言うことだった。
「事情は分かったわ。それで・・・私が戦っても良いんですか?」
「もちろん、それはセリカにとっても、観戦する者にとっても、ためになるしありがたい。だがそっちは実習後だろ?」
カイルはとても気を遣っているようだった。
「ちょうど実習じゃ物足りなかったので良いですよ。やりましょう。」
そう言ってフリィは手に持っていたロッドをどこかに転送し、代わりにダガーを二本手元に転移させた。
一般的なダガーよりも刃渡りが長く、ショートソードと言った方が良いくらいの物だが、カトラスに近い曲剣状の刃が特徴的だった。
「そう来なくちゃね。」
嬉しそうにセリカは演習場の中へ進む。
セリカの後にフリィも続き、演習場の中心付近で二人は止まった。
「セリカから指名してもらえるなんて、光栄だわ。」
微笑みながらフリィはセリカを見る。
「本気で来ないと怪我するわよ。」
振り返りながらレイピアを抜いたセリカの顔は真剣で、小柄な彼女が今は少し大きく見える。
凄まじい威圧感だった。
「そのようね。」
先ほどのダガーを腰に装備していたフリィも、ダガーを抜き、真剣な表情になる。
「フッ」
セリカが音もなく消えた。
そう見えるほどの速度で、フリィめがけて突いたのだった。
フリィの体をセリカのレイピアが貫いた瞬間、フリィの体が靄となって消える。
「ミラージュ」
フリィの得意技だった。
対象一人にかける幻術ではなく、実像を生み出す幻術。
幻であることに変わりはないが、分身しているような物だった。
「ッチ」
振り返ったセリカは、三人に増えたフリィのミラージュを見て、舌打ちした。
目を閉じ、レイピアの腹に左手を添えて、撫でるように這わせた後、勢いよくレイピアで地面を切る。
ッパン!
「なぁクロウ、あの中で生きてる自信あるか?」
「・・・」
オッドが惚けたような顔でそう言うが、クロウは答えない。
二人の目に入ったのは、フリィの分身のうち一人が靄と消え、セリカの正面の地面が障壁までぱっくりと切れた、破壊の爪痕だった。
だがセリカの技は、これだけではなかった。
レイピアを振り下ろした地点から、レーザーのような光が八本打ち上がり、弧を描きながら演習場全体を覆うほど、分裂しながら落下した。
ドドドドド!
セリカ周辺は障壁を自分に貼っているので、もちろん無傷だ。
しかし、他にも地面に着弾しない場所があった。
そこへ突進するセリカ。
「ハァッ!」
キィン!
フリィが姿を現し、右手のダガーでセリカのレイピアを逸らしつつ、左手で逆手に持っていたダガーを、セリカの首めがけて振るう。
バチッ!
だが、魔力だけで無く、物理的な障壁も貼っているセリカに、ダガーは届かなかった。
続けてフリィは仕掛ける。
「こんなに接近して良かったのかしら?」
フリィは魔力で自分のダガーを支え、ダガーから自分の手を離し、セリカの右腕を掴んだ。
魔法技術に精通しているフリィにとって、自分の触れる場所の魔力を解除するくらいお手の物だった。
「ロック」
そのままレイピアを持っている腕を、動かなくする魔法をかける。
身動きが取れないセリカに対して、掌打を放とうとした。
「本気で来ないと怪我をするって言ったでしょ・・・」
チャキ
「なっ」
わずかな金属音を聞き逃さず、セリカの腕を掴むために解除していた障壁を慌てて展開しながら、後ろに距離を取ろうと飛ぶフリィ。
スパンッ
「魔力の扱いがうまくなったのね、セリカ。」
「毎日遊んでいる訳じゃないのよ。分かるでしょう?」
セリカは、身動きが取れなくなったふりをしていただけだった。
フリィの隙を突くため、あえて不利な状況を演じ、レイピアを左手に持ち替えて切り上げた。
左手には魔力を打ち消す魔法を溜めており、展開したフリィの障壁を切り裂く。
「どう防ぐのか、見せてもらおうじゃない。」
避ける事を読んでいたセリカは、切り上げたレイピアに右手を添えて踏み込む。
ガィン!
「当たらなかったら防ぐ必要は無いわ。」
フリィは空中に足場を作って、さらに前方へ飛んだ。
自分の頭上を飛ぶフリィに対し、セリカはさらにレイピアで追い打ちをかける。
「私の攻撃を武器なしで、すべて躱せるはずがないっ!」
「あら?誰の武器が無いのかしら?」
ガキン!
手放したはずのダガーが、セリカの攻撃を防ぐ。
フリィはゆっくりと着地した。
「遠隔・・・操作!?」
「フフ、私も毎日遊んでいる訳じゃないの。」
術者と物理的なつながりが無い物を、魔力で動かす、そんな事ができると思っていなかったセリカは隙だらけだった。
ドスッ
「ぅ・・・ック・・・」
もう一本のダガーで峰打ちされ、セリカは倒れた。
空中に浮いている、もう一本のダガーを取りつつセリカに突きつけるフリィ。
「勝負あり、ね。」
セリカを見てにっこりと笑うフリィだったが、その笑みはすぐに消えた。
ズバッ!
「不意打ちばかり得意になったようね。」
「今のは演技じゃないわよ!」
レイピアを振り上げたセリカは、顔を赤くし、涙目になっていた。
よほど痛かったのだろう。
「フフ、あまりにも微弱過ぎて、使った魔法がヒールとまでは、分からなかったのよ。」
「ふんっ」
一度距離を取ったフリィは、手元にダガーを寄せ、構え直した。
セリカも再度呼吸を整える。
「アルバ、どっちが勝つと思う?」
「うーん・・・そうだな・・・ジェネは?」
「フリィちゃん!」
「そうだな、仲良しだもんな。俺は魔力量ではフリィ、戦闘技術ではセリカ、かな?」
「ハァア!」
テオ達が予想をしていると、再度セリカから攻撃を仕掛ける声が聞こえた。
距離を詰めるセリカを飛び越えるフリィ。
ガキィッ!
それを見た瞬間直上へ飛びながら、レイピアを振ったセリカの斬撃をダガーで護りつつも、さらに上空へ打ち上げられるフリィ。
「まだまだ!」
セリカも魔法で足場を作り飛び上がる。
「ライトニング・レイ」
演習場に光が走った。
その中心から何かが打ち出され、地面にたたきつけられる。
観戦していた人間の大半は、なにも見えていなかったが、何かが地面に落ちた、それを理解した瞬間、轟音が演習場を包み込む。
ジェネはとっさに聴覚保護の魔法を、結界外の広範囲にかけた。
ビシャァッ
「み、みんな大丈夫?」
「フリィイッ!」
「待て、アルバ。」
瞬きをせずに戦闘を見ていた、テオとアルバには見えていた。
魔法で身体能力を上げ、音速を超える速度で自分の体を打ち出す。
体の前面に自分の身を守るため、障壁を展開しながらの、超高速突き。
対象を中心に全方位から、足場を発生させては跳ね返り、十六連撃を打ち込む。
それがセリカのライトニング・レイだった。
もちろん命を奪う気は無いので、すべて柄での攻撃だったが、ジェネが聴覚保護を行った直後に、血が降ってきたのだ。
その音と光景に、アルバは身を乗り出したが、テオに止められた。
「ハァッ・・・ハァ・・・これで」
少し遅れて着地したセリカが、フリィの落ちた場所へレイピアを向けた。
セリカの捨て身にも近い必殺技・・・なのですが、わかりにくかったらごめんなさい。