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魔力耐性人形

午後の授業が始まりました。

「さぁ、午後からは実習だ!気合いを入れて望むように!」


 補助科の女性教官が声を上げた。

 基本的に座学が多くなる補助科の生徒達は、やや緊張気味に見える。


「今日の実習では、狙った人形に対して、的確な魔法を放てるか、位置把握ができるか、密集地でも単体を狙えるか、そのようなことを見る。」


 魔法をただ放つだけでなく、単体を狙ったり、効果範囲を限定して放つ事は、とても細かい魔力調整が必要な高等技術だ。


「ではまず、ジェネとフリィに、目の前の人形を使って手本を見せてもらおうか。」


 補助科のトップに指名が入った。

 この演習場は、他の演習場と違っていくつかの区画に区切られており、障害物なども設置されている。

 区画を進むにつれて、難度が上がっていくような設計で、今全員が通されている区画には、二体の人形が転がっているだけだった。


「頑張ろうね、フリィちゃん!」

「ジェネは回復と強化をお願い。私は弱体と攻撃を入れるわ。」

「では初めてもらおう。」


 そう言って教官が二体の人形を起動した。

 すると人形は戦い始め、頭の色が変わる。

 この色で判断して、魔法をかけろと言うことだ。


「行くわよジェネ。」

「うん!」


 実習には真剣に望んでいるのか、いつものふざけた様子は見られないフリィが、ジェネに声をかけ魔力を溜める。

 それを確認した教官は他の生徒に、細かい説明を始めた。


「このように、二体以上存在する人形に補助や弱体をかけ、青い人形を勝たせたら終了だ。能力に一定の差が生じた時点で、青い人形の攻撃で、赤い人形が崩れるようになっている。もちろん魔力に耐性のある人形だ、使う魔法に本来の効果は望めない。」


 生徒達は教官の声を聞きながらも、ジェネとフリィの動きに注目していた。


「ヒーリングミスト!」

「アシッド。」


 ジェネのかけた魔法は、広範囲に持続回復する霧を生じさせる魔法。

 設置型に近く、一度発動してしまえばしばらくの時間は保つ便利な魔法だが、本来は後衛全体を覆って、都度回復する手間を省くためのものだった。

 しかしジェネのミストは、対象者の表皮、鎧や服の隙間に高密度で発生させることができる。

 そんな高等技術に生徒達が唖然とする中、教官の説明は続いた。


「人形を魔力で破壊することは、できないように作られているので、複数の魔法で確固たる差を・・・」


 ガシャァン!


「なに!?」


 教官が最後まで説明する前に、人形は崩れた。

 驚いて振り返った教官が肩を落とす。


「またか・・・ちなみに聞くが、ジェネは強化魔法を使ったのか?」

「えっ?使ってないですよ?」

「フリィ、耐性人形の組み方は知っているな?」

「はい、教官。組み直しますか?」

「あぁ、頼む。ついでにこの先の人形達も組み直しておいてくれ。」


 そのまま教官は、どのくらいの能力差で崩れる設定だったかをフリィに説明し、フリィとジェネは先に進んだ。


「まったくあいつらは・・・前回よりも人形を強化したのにな・・・」


 教官の独り言がこぼれる。

 その言葉は悔しそうに聞こえたが、嬉しそうな笑顔で二人を見ていた。

 フリィの使ったアシッドは、弱体魔法の中でも最高位に位置するほどの魔法だったが、それでも弱体魔法であって攻撃魔法ではない。

 対象の能力を著しく、且つ持続的に下げていく魔法だが、フリィのアシッドは能力を下げると同時に、ダメージを与える特別製だった。


「と言うことで、破壊はできなくなった。ちゃんと人形に倒させるように!」

「「はいっ!」」


 生徒達の元気な返事が聞こえたところで、二人は次の区画に入った。


「また壊しちゃったね。」

「早く終わらせようと思ったらつい、ね。」


 クスクス笑いながら、フリィに声をかけるジェネ。


「やっぱりフリィちゃんも、アルバ君の試合見たいんだ?」

「従者だからね、主の活躍は見させてもらわないと。」

「じゃあ急いで終わらせよっか!」


 実習だと言うのに、楽しそうな二人だった。


「ここは混戦を想定しているようね。」

「じゃあ久しぶりに腕相撲してみる?」

「あら、ジェネはテオ君の試合見たくないのかしら?」

「あっ、そうだった。」


 敵味方関係無く、お互いに魔法を掛け合い、力比べをする事を、二人は腕相撲と呼んでいた。

 しかしそれでは当然、必要以上に時間がかかる。

 本来試されている実技が、朝飯前だからこそできる二人の遊びだった。


「じゃあぱぱっと強化しちゃうね!」

「私は眺めているわ。」

「えぇっちょっとフリィちゃん!」

「冗談よ、私もやるわ。」


 あっという間に、次の区画も突破していく二人。

 二人で一緒に進む事を楽しみながら、協力して進んでいった。


「次で最後の区画ね。」

「最後は・・・えっと。」


 多対一や、死角になる場所での戦闘への補助も突破した後、着いた区画は小さな部屋だった。


「完全に視覚を奪われた状態、ってことかしらね。多分この部屋の外で、今までやったパターン全部の戦闘が行われてるんじゃないかしら。」

「そっかぁ・・・少し時間かかるかな?」

「少しやっかいだけど、大丈夫よ。」


 心配そうにするジェネに対して、フリィは何か考えがあるらしい。


「リンク」


 普段は、補助する対象にかけるリンク。

 術者の使い方によって、何をつなげるかは変わってくるが、基本的に魔法の対象を増やすために、前提として入れる魔法だ。

 だが魔法的な防御を一切行わず、相互でかけ合えば、ジェネとフリィのリンクは、もはや別の魔法となる。


「あ、そっか!リンク!」


 ジェネも気づいたようだ。

 二人が互いに、互いをつなぐ。

 こうすることで、お互いの感覚、能力に至るまで共有することができる。

 絶対の信頼がなければ、できない荒技だった。


「すごいね、フリィちゃん。もうこんなに見つけたんだ。」

「ジェネも私が見つけてないのを、見つけてるじゃない。」


 もはや思考までも共有している、そんな状態の二人だが、お互いの能力の高さを褒め合った。


「じゃあ、終わらせよっか。」

「うん!いくよー、アシッド!」

「ヒールミスト。」


 相手の力を使えることを良いことに、お互いに逆の役回りで魔法を使った。


「えへへ。」

「ふふ。」


 二人が顔を合わせて笑い合うと、外から人形の崩れる音が聞こえ、入って来た場所と違うところに扉が現れる。

 出る前にフリィは崩れた人形達にリンクをかけ、修復した。


「お前達、もう帰ってきたのか・・・まだ一時間と経っていないはずだが。」


 扉を出た先は最初の区画だった。

 まだ大半の生徒がこの区画に残ってる。


「あまりに早いかもしれんが・・・そうだな・・・お前達は自由時間に何をするつもりだ?」

「テオ君の試合を見に行きます!」

「勇者科の見学です。」

「あぁ、そうか。今日の午後は魔法戦闘だったな・・・それならもう行ってもいいぞ!」


 少し悩んだ教官だったが、笑顔で送り出してくれた。

 それを見たジェネは、嬉しそうな顔で頭を下げ、走り出した。


「では教官、私も行ってきます。」


 フリィも挨拶をしてからジェネの後を追った。

 勇者科の演習場は、生徒に本気で魔法戦闘をさせるために、結界のような魔法で覆われている。

 そして、その結界の外側に、誰でも入り観戦できるスペースが設けられていた。

 他科の生徒のモチベーションを上げるためのスペースだったが、教官達もその戦闘を参考にする事があり見学者はそれなりに多く、一つの見世物のように整備されている。

 ジェネとフリィが演習場に着いたとき、ちょうど一試合目が終わったところだった。


「あれ?もう一組目、終わっちゃったのかな?」

「そのようね。」


 さすがにテオとアルバの試合が、こんなに早く終わるはずがない。

 そう思っている二人は落ち着いていた。


「お、ジェネちゃん!フリィちゃん!いらっしゃい!」


 二人の姿を見たオッドが、大きな声を掛ける。

 ちょうど試合が一段落したところだったため、一斉に視線が向けられた。

 その姿をみたセリカが嬉しそうに声を上げた。


「ちょうど良かったわ!フリィ、私と勝負しなさい!」

「「え?」」


 何を言われたのか理解できなかったのは、ジェネとフリィだけではなく、演習場内の至る所で声が上がっていた。

因縁の?ライバル対決は次のお話です。

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