仲睦まじい食卓
一戦終えて、帰ってきた面々の癒しは食事?それとも。
「あっ、テオ君。お帰り!」
「アルバ様、お疲れ様です。」
テオとアルバが、食事を受け取って席に向かうと、そこにはすでに、ジェネとフリィの姿があった。
「ただいま、ジェネ。」
「お疲れ~。」
「本当に疲れてますね。」
「そりゃあ未来の勇者様に、お手合わせいただいたんだからな・・・疲れて当然だよ・・・」
フリィは嘲笑気味に笑っている。
やや語弊があるかも知れないが、疲れているアルバにはそう映った。
「それで勝てましたか?」
「いや、魔法抜きでテオに勝てるやつがいたら、それはきっと生き物じゃない。概念とか、何かそう言う類だ。」
「ふふ。でしょうね。」
「もぅ、フリィちゃんったら、またアルバ君に意地悪してる。」
ダメでしょ!と少し頬を膨らませてジェネが注意する。
ジェネはとても優しい子だった。
「しかしなぜ、フリィはアルバに対して敬語なんだ?」
ふと疑問に思ったテオが問いかける。
「それはね、テオ君。アルバ様はこんなでも、名家の次期当主様だからよ。」
「なるほどな。しかしそれにしては君の態度はどうなんだ?」
説教をする訳ではなく、笑いながら尋ねるテオ。
こんなでも!?と驚いた顔でフリィを見るアルバ。
「私はアルバ様が生まれたときから、世話役であり友人であり、母であり姉である。そう振る舞ってきたの。その名残というか・・・アルバ様をいじるのが楽しくて。」
本当に楽しそうに語るフリィだった。
「なるほど・・・?常に一緒にいた事は理解したが、はっきりイメージできないほど多役だな。」
「んー・・・?そう言われて見れば・・・あんまり気にしてなかったけど、フリィはたくさんいたな。」
テオの疑問を聞いたアルバは、記憶をたどるように考えたが、どの役のフリィも覚えているようだ。
改めて考えて、初めて気づくほど、フリィの役柄は自然だったらしい。
「あれ?でもさ、それって今の俺がこうなったのは・・・フリィの影響が、めちゃくちゃでかいんじゃないか?」
「ふふっ、なんのことでしょうか?」
余計なことに気づいてしまったアルバの問いに、視線を逸らしながら笑うフリィ。
テオは状況を察して、これ以上言及しないことに決めた。
「フリィちゃんは、四つ子さんなの?」
全く話を理解できていないジェネが、わくわくした瞳を向けてフリィに聞いた。
「そうよ、ジェネたん・・・本当に可愛いわね。」
しれっと嘘をつきながら、ジェネの頭を撫でるフリィ。
「えへへ・・・って子供扱いしないでよ~」
一瞬、騙されてることを、ジェネに伝えようとしたテオだったが、ジェネの笑顔を見てやめた。
アルバと目が合い、手を少しあげて、やれやれ、とジェスチャーする。
それを見たアルバも笑っていた。
「ところで、そっちの座学はどうだったんだ?」
じゃれている二人にテオが声をかけた。
「あっ、へっほね!はへっ?」
「主に状況把握の重要性ね。戦況を隅々まで把握して、広い視野を持って的確なサポートをする。なんて事をご高説いただいたわ。」
テオの質問を聞いて、すぐに口を開いたジェネだったが、頭を撫でていたはずのフリィが、いつの間にか両手で頬をムニムニしていた。
よほど鈍いほっぺなのだろう、ジェネが状況を把握するよりも早く、フリィがテオに説明した。
「うぅ・・・ひどいよフリィちゃん。」
「後で飴あげるから許して?」
「そっ、そんなことで釣られない・・・もん。」
いじけるジェネを、なおも子供扱いするフリィ。
しかしジェネの心は揺れているようだった。
「僕ら前衛が、心置きなく戦いに集中できるようにする補助か。」
テオはうんうん、と関心している。
テオならどちらもこなした上で、涼しい顔して戦いそうだな。
そんなことをアルバは思った。
「午後からは私たちも実技だから、午前よりは退屈しないで済みそうだわ。」
「フリィちゃんは優秀だもんねっ」
フリィは、どうして勇者科じゃないの?なんて質問をされるほど優秀だった。
そんなフリィを、自分の事のように、嬉しそうに褒めるジェネ。
「補助でジェネちゃんには、かなわないわよ。」
そう言って微笑むフリィ。
「そ、そんなこと、ないよ?」
「ジェネたんてばもうっ」
褒められて、恥ずかしそうに頬を赤らめるジェネを見て、フリィの微笑みが少し下品な笑顔に変わった。
若干呼吸が荒い。
「あら?あなたたちまだいたのね。」
声の聞こえた方向に目をやると、そこにはセリカとビルドが立っていた。
「セリカちゃん!ビルドさん、こんにちは!」
「こんにちは、ジェネさん。」
「じ、じぇ、じぇ・・じぇっゲハァッッ!」
ジェネが二人に挨拶をした。
微笑みながら挨拶を返したセリカだったが、緊張して言葉に詰まるビルドにイライラしたのか、表情を変えることなくビルドに拳をたたき込んだ。
血の気が引く光景だった。
「セ・リ・カ!」
「きゃぁっ!ふ、フリィ!?離しなさい!」
いつの間にか席を立って、セリカの後ろに回り込んでいたフリィが、セリカに抱きついた。
ジェネより少し背の高いセリカだが、小柄な女の子に代わりはなく、フリィは基本的にロリコンだった。
慌てて振り払うセリカ。
「フリィ!あなたね・・・補助科の方はどうなのかしら?あなたが本当に、テオ君やアルバ君をサポートできるのか不安ね!」
「もーセリカってば・・・私にサポートしてほしいのかしら?」
そんなことを言いながら、再度抱きつこうとするフリィ。
セリカは最小限の動きで避ける。
「違うわよ!まったくもう・・・もう行くわ!」
横でうずくまっていたビルドを起こして、セリカは演習場の方へ向かった。
「セリカは冷たいなぁ。」
「いや、普通ああだろ。」
残念そうなフリィにアルバが突っ込む。
だがセリカは確かに、フリィの事をライバル視しているようなところはあった。
フリィが勇者科にいたら、セリカと良い勝負ではないか?と、噂されることがあったからだ。
それだけの戦闘ができるフリィと、同じ土台で競えない、しかし補助科での成績も知らないわけではない。
そんな複雑な気持ちが、フリィへの態度に棘を生やすのだった。
だがそんなこと気にせず、一人の女の子として可愛がりたいフリィ。
お互いに永遠の片思いだろう。
「そろそろ僕らも行かないと、遅刻してしまうな。」
「でもどうせ午後は一組ずつになるだろ・・・?」
「アルバ、そう言う問題ではない。」
魔法をフルに使った戦闘を、一つの空間を分けて行ったら、他の組に被害が出かねない。
だから魔法戦闘をまとめて行うことはなかった。
「冗談に真顔で返すなよ。」
「冗談だったのか・・・?」
「ふふ。テオ君にはかなわないですね。アルバ様。」
「フリィちゃん、私たちも、そろそろ行かないと!」
本気で言っていると思われた事に、アルバはショックを隠せなかった。
そんなアルバを見て笑うフリィの手を引いて、ジェネは移動を開始しようとした。
「テオ君、私たちは実習が終わったら自由だから、見に行くね!」
「ああ。主席と次席の名に恥じない戦いを約束するよ。な、アルバ。」
「勝手に約束するなよテオ・・・」
「ふふふ、ではまた後ほどお会いしましょう。」
そう言って四人は食堂を後にした。
いざ書いてみると本当に難しいと痛感しております・・・