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誰もが認める勇者

各組激戦を繰り広げる中、本気を出さずに戦う二人の姿がそこにはあった。

 ブンッ!

 スパン!

 キィン!


 他の組の試合が終わっても、まだこの二人は戦っていた。


「ふぅー・・・全然届かないなぁ・・・手品でも見てるみたいだぜ。」


 大きく息を吐き、呼吸を整えながら、軽口を叩くアルバ。

 わずかながら、息が上がってきているようだ。


「ふっ、それはこっちの台詞だ。どんな体勢からでも立て直す君の方こそ、なにと戦っているのか分からなくなるよ。」


 対するテオは、鼻で笑いながら答える。

 あくまで手合わせの試合、お互いに余力があるようだが、テオには一筋の汗すら見られなかった。


「他の試合は終わったようだが、そろそろ良い時間だし僕らも終わらせるかい?」


 構えを崩さず、ひとかけらの隙も見せないテオ。

 軽そうな言葉の割には、まだまだやる気に満ちていた。


「カイルさんよー、この形式の試合はずるいんじゃないか?」


 他の試合が終わって、こちらを見ているカイルに気づいたアルバが不満を唱えた。


「ん?どうしたアルバ、ずるいとは?」

「テオの魔法はほとんど身体強化や、物理的な戦いに特化してる事を、教官も知っているだろ?これじゃ魔法あり状態で戦ってるのと変わらないって!」


 テオは生粋の勇者だった。

 攻撃魔法や相手を弱体化させる魔法が使えない訳では無いが、自分を強化することに特化した使い方をする。

 腕さえ健在ならいつまでも戦える、そんなスタイルだ。


「だがその身体強化も、自身の精神力や筋力に比例して上がるものだ、それだけの魔法を自身にかけながら戦える事こそが、この戦闘で見るべき肉体の強さなのだよ。」


 カイルの言葉を聞いて肩を落とすアルバ。

 もとよりそんなことは承知の上だったが、攻めきれないテオに対しての不満を言葉にしたかった。


「スゥーッ、フゥ~・・・」


 目を閉じて深呼吸をするアルバ。

 テオは黙ってアルバの動きを注視していた。

 カッ!


「ハッ!」


 アルバが目を開き、息を吐くと同時に、テオめがけて飛び出した。

 弾丸のような速度でまっすぐに飛ぶ。

 ギャキンッ!


「な、なんて速度かしら・・・レイピアを持っている私より速・・・そ、そんなわけないわよね?」

「え、えっと・・・速いと思う。セリカちゃんが、あんなに速かったら、僕はあっという間に・・・。」

「正直に答えないでよ!」

「ご、ご、めんっなさい。」


 テオとアルバには、そんな外野の声など、とうに聞こえていないようだ。

 振り下ろした剣に、両手で力を込めるアルバ。

 テオはそんな斬撃を、片手で握った剣で止めていた。

 交差する剣の奥に見えるテオを、にらみつけるアルバだが、そんなアルバを見てどこか嬉しそうに、テオは微笑んだ。


「やっと本気を出してくれるのかい?」

「・・・」


 アルバに向かって声をかけるテオだが、アルバは答えない。

 この試合に本気になったと言うことだろう。


「ありがとう、アルバ・・・君がいるからッ!」


 少し声を張りながらテオは、アルバの剣を力で振り払う。

 アルバはやや後ろに押し出されながらも、再度剣を振る。

 キイィィン!


「僕も本気を出せる。」


 そう言ったテオの表情から、すでに笑みは消えていた。

 二合目を切り結んだと思った瞬間、テオの姿はすでに空中だった。


「ッチ」


 舌打ちしながら横に飛ぶアルバ。

 しかしすでに、テオはアルバを捕らえていた。

 ガキィン!

 とっさに防御をしたが、飛んで躱そうとした分、衝撃に耐えられず飛ばされる。


「ハァッ!」


 自分で飛ばしたアルバを、テオはすぐさま追いかける。

 空中で身を翻しながら着地をしたアルバだったが、テオの軌道を確認して低めに剣を構え、打ち上げるように切り上げる。

 ギャリッ

 テオは空中で、アルバの切り上げに対して剣を少し当て、体をひねりながら避けた。


「ここだ!」


 アルバの懐に着地したテオが、逆にアルバを切り上げる。

 ガキッ!


「ッグ」


 アルバに届くと思われた剣が止まり、テオは少し顔をゆがめた。

 切り上げの途中、テオにいなされた瞬間アルバは剣を立てて構え、柄頭でテオの切り上げを防いだのだ。

 そのままアルバは、柄頭を走らせ、テオの手元を狙った。


「なっ」


 ドス

 アルバは、驚いたような表情を一瞬見せた。

 その直後苦悶の表情を浮かべ、膝を突いた。

 そのアルバを抱えるように、手を回しながら、一歩踏み込むテオ。

 アルバの体を支えながらも、テオの剣はアルバの首に添えられていた。


「一瞬ひやっとさせられたよ。」

「よく言うぜ・・・こっちが気づいたときにはもう遅かった・・・」


 テオの手元を柄頭で狙ったアルバは、打ち込む瞬間に負けを確信した。

 両手で握りながら、切り上げたはずのテオの左手が、剣には触れていなかったからだ。

 切り上げを止められた瞬間にテオは左手を離し、拳を打ち込んだのだ。


「教官・・・今何が起きたんですか?」

「そうだな、ビルドは見えたか?」

「いえ、あまりに自然な動きだったので・・・はっきりとは。」


 男性とは普通に会話ができるビルドだった。


「切り上げを柄頭で止める、そんな荒技を使われてもなお、テオは次の一手を打った、そういうことだ。」


 いくら勇者候補といえど、動揺して判断が遅れるような場面、それでもテオは次につなげる事ができた。


「もはやこれは、頭で考えるとか予想するって領域じゃないな。反射的に体が動いた、と言うレベルだろう。」


 そんなことを話している間に、剣を納めたテオとアルバも、カイルの元へ歩いていた。


「確かに反射に近いのかも知れませんが、ずっとアルバの相手をしてきたからこそ、習得できた技術ですよ。」

「刹那の世界の反射が、習得できる技術とは・・・さすがテオ。言うことが違うぜ・・・」


 テオの言葉に、アルバはどこか呆れたような視線を向ける。

 その視線にテオは笑顔を返した。


「だがテオの言うことも一理あるな。アルバの機転の利いた戦術があってこそ、テオはここまでの反応を身につけたのだろう。」


 ゴーン、ゴォーン!

 しかし、剣術戦闘ではまだテオが一枚上手だな。

 そうカイルが続けたところで、鐘の音が鳴り響いた。


「おっと、もう正午か。あっちで伸びてる二人を起こさないとな。」


 鐘の音は正午を知らせる音だった。

 そう口にしてからカイルは二人を起こしに行く。


「動いたらおなか減っちゃったわね。ビルド、食堂へ行きましょう。」

「う、うん、セリカちゃん。僕もおなか減ったよ。」

「昼からも戦うなんてなぁ・・・こんなの一日に何度もしたくない・・・」

「いいのか?アルバ、君は魔法が使える戦闘の方が得意だろう?」

「そうだな・・・魔法込みだったら戦績は俺の勝ち越しだ。とは言ってもそれは一対一だったら、だからなぁ・・・」

「そうよね、補助をしてくれる人がいるだけで、身体能力の基礎値が物を言う戦闘になるし・・・そう思うと、やっぱりテオ君が主席で、アルバ君が次席というのは、妥当なのかしらね?」


 セリカも会話に入って来た。

 私とはさらに次元が違うけれど・・・なんて、少し控えめな彼女だった。

 教官や他の生徒達には高飛車なイメージを感じさせる彼女だが、テオとアルバは認められているらしい。


「まぁ俺は主席って柄じゃないね、やっぱり。」

「それでもテオ君にあれだけついて行けて、しかも魔法を使ったら互角以上に戦えるのは、アルバ君だけなんだから、二人が同期で良かったと思うわ。」


 アルバのフォローをしながら、二人の前に出たセリカは微笑んだ。


「ありがとう、セリカ。僕らはきっと世界を救うよ。」

「う、うん。期待してるからっ!お昼からの試合も、楽しみにしてるね。」


 真剣な顔で、セリカの手を握って誓うテオ。

 驚いて、とっさに手を引っ込めたセリカは、少し恥ずかしそうだった。


「テオ、お前は本当に真面目だな。」

「何がだ?」


 呆れたまなざしを向けるアルバだった。


「俺たちも早く食堂に向かおうぜ?」

「そうだな。行くか。」


 四人が演習場を出た頃、オッドとクロウは目を覚ました。


「んっ、うーん・・・」

「おいクロウ!今日は俺の勝ちだったな!」

「あ?」

「いいや、お前達は引き分けだ。お互い甘さの残る試合だったよ。」

「はぁ?」

「えーまじかよ教官!ところで他の四人は?」

「もう食堂に向かったよ。お前らも昼に備えてしっかり食べてこい!」


 ふーやれやれ。なんて言いながら、カイルも演習場を後にする。


「なんてこった!俺ら置いてかれてんじゃん・・・」

「ッツ・・・あー・・・嫌われてるんだろ。」


 焦るオッドと、左頬の痛みに少し顔を引きつるクロウ。


「それはないな!さっさと行こうぜクロウ!ほら、先行くぞ?」

「なぜ断言する。」


 そんなクロウの言葉は、すでに駆けだしていたオッドの耳には届いていなかった。


「置いていくぞ?」

「・・・」


 あっという間に、演習場の出口に到達したオッドが、振り返りながらそう言って演習場を出る。

 クロウはゆっくり歩き出した。


「ほんとに置いてくぞ?」


 出口から顔だけ出したオッドを見て、クロウは鼻で笑った。


勇者科の面々は、なんだかんだ言って仲良しです。

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