勇者科、勇者候補生
演習場に移動したテオとアルバ。
そこで待っていたのは教官と、他の勇者科生徒だった。
「整列!」
演習場に大きな声が響く。
「今日も今日とて、このカイルが教官だ!まぁ勇者科実技の教官は私しかいないわけだが!」
「俺たちは一応ペアっすけど、教官はここでも独身なんすね!」
教官であるカイルに対して、なめた口を聞いているのは、朝アルバの肩を叩いた、あいつだった。
「無駄口を叩くな!それでも貴様は勇者になる意志があるのか?答えてみろクロウ!」
「教官よ、今の発言は俺じゃない。分かるだろ。(ダァホ)」
「おいクロウ、今何か言ったか?」
「いえ、何も?」
「ッチ、誰も好きこのんで貴様らと汗なんか流したくないっての。こっちの気も知らないでよぉ・・・」
教官に名指しされたのは、お調子者とコンビを組まされている、やる気のなさそうな男だった。
どちらも能力だけで、ここに立っている、と言わんばかりの態度だ。
勇者になど、なる気は無いのだろう。
少し教官が可愛そうだ。
「へへっ、クロウ怒られてやんの。」
「てめぇオッド!誰の飛び火でこうなってると思ってんだ。」
お調子者の名前はオッド、ある意味似合いの二人だ。
「貴様ら二人は、昼抜きで戦わせてやろうか?」
「そっ、それは勘弁してくれよ教官!」
「・・・」
教官の言葉に焦って謝るオッドと、できるもんならやってみろよ、と言わんばかりの表情で、明後日の方向を見るクロウ。
実に対照的な二人だ。
「きょうかーん。あんまり無駄話してると、ほんとに時間なくなるんですけど。」
「そうだな、すまんセリカ。」
セリカと呼ばれた子は、勇者科唯一の女性だ。
とても小柄で可愛らしいが、気が強く偉そうな雰囲気がある。
ここに立てている事実が、彼女の強気を支える一つなのだろう。
「教官、セリカちゃんと戦うなんて・・・僕・・・はへぇ・・・・」
「うっわ・・・気持ち悪・・・」
何を想像したのかは知らないが、どこか遠い世界へ逝ってしまったような顔で、よだれを垂らしている大男がセリカの相棒。
名前をビルドと言う。
この二人も体格だけで言ったら、とても対照的だ。
なんでも、男しかいない辺境の地に住んでいたとかで、女性に対しての免疫が無いらしい。
黙って無表情で立っていたら、人気の出そうな造形をしているビルドだが、これのせいで近づく女性は少ない。
「なぁテオ、なんでここには、こんな個性的なやつが多いんだろうな?」
「私語は慎めアルバ。僕たちは勇者を目指しているんだぞ。」
「本当にお前は真面目だな・・・」
勇者科にはこの六人が在籍していた。
全体の生徒数は千人弱だが、たった六人しか勇者科には編入できていない。
中には自分の意志で、勇者科に来ない者もいたが、勇者に求められる能力は高いと言うことだ。
さらに、今期のこの六人は、史上最も優秀と言われるほどで、この六人が勇者科に入って以来新たな編入者は居ない。
水準を満たした者もいたが、オッドのようなお調子者でない限りは、入ってこないだろう。
それにこの六人は尊敬こそされるが、同期だったため、近寄りがたい存在・・・少なくとも中に入りたい、と思う者はいなかった。
「では午前中は、実戦形式で戦ってもらうが、身体能力向上以外の魔力行使を禁ずる。」
カイルが真剣に本題を進めると、やっと静かになった。
とはいえ真剣に話を聞いている、と言えるような状態ではない。
「私を中心に演習場を3つに分け、その中で戦ってもらう。」
演習場の中心にカイルは立っていて、各科の演習場は基本的に円形で作られている。
所属人数に限らず、どの科も同じ広さだ。
一対一の戦闘であれば五組、六組同時に行える広さだろう。
「では私から見て右手がテオ、アルバペア。左手がクロウ、オッドペア。後ろにセリカ、ビルドペアで入ってくれ。」
それぞれが移動して武器を構える。
勇者を目指す者なら誰もがロングソード、片手で扱えてある程度の重みがある、両刃の剣を持つはずなのだが、ここに該当するのはテオとアルバだけだった。
オッドはファルカタ、クロウは死神が持っていそうなサイス。
セリカはレイピアタイプの軽量化片手剣、ビルドはガントレットのような、肘まで覆う金属製の手甲で、手首から肘方向に三日月型の刃が伸びている。
「本気で勇者を目指しているのは、僕らだけらしいな。」
「俺はテオに合わせてこれ持ってんの。魔法込みだったら剣より杖派だよ。」
「そうだったな。午後に期待するよ。」
「おっと?もう午前は終わったつもりか?テオ・・・これでも俺は次席だぜ?」
「自己紹介がまだだったようだね。僕は主席だよ。」
「では始めてくれ!」
テオとアルバが話していると開始の号令がかかった。
長くなってしまったので模擬戦前で一度切りました。