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勇者養成学校

魔王が即位してから三年が経ちました。

勇者は学校に通っています。

 魔王が即位してから三年後・・・勇者は学校に通っていた。

 ゴーン、ゴォーン!

 街の中心にそびえる塔に、設置された鐘が鳴り響く。


「ふぁ・・あぁ~。ったく、毎朝こんな音で起こされてたら、住んでるやつ全員が偏頭痛持ちになんぞ・・・」


 大きく欠伸をしながら一人の青年が起き上がった。


「アルバ、君もここへ来て何年か経つだろ。いい加減慣れたらどうだ?」


 アルバ、と呼ばれた青年が起き上がったベッドの側で、身支度を調えるもう一人がそう言った。


「おあぁ~よう。テオはいつも早いな。」

「欠伸をしながら挨拶するやつがあるか。おはよう、相変わらず朝は苦手なようだが、一度医者にでも診てもらったらどうだ?」


 だらしのないアルバに、テオと呼ばれた青年は冗談を交えて答えた。


「医者にって・・・俺はそんなに重傷なのか?」

「はは、冗談だよアルバ。ほら、さっさと準備しないと遅刻するぞ?」

「お前の冗談が心配になって、夜寝れないんだよ。まったく・・・男と相部屋で毎日訓練なんて笑えないぜ。」


 冗談に冗談で返すアルバ。

 二人はとても仲の良いルームメイトだった。


「僕たちは勇者候補生だ。異性と相部屋なんて、もってのほかだろう。」

「だからって成績順で相部屋って・・・例えば、下位のやつが相部屋の上位を殺して、一つ順位を上げたい!とか考えたらどうするんだ?」

「アルバ・・・君はなんて悪魔的な発想をしているんだ・・・そんな考えを持ったとして、実行するようなやつは精神鑑定で退学させられてるよ。」

「なるほど、それもそうだな。」


 他愛のない会話をしながら、着替えや準備を進める二人。

 ここは人族、獣人族、その他人型の種族が共同生活を送る世界最大の街、エリュシオン。

 世界でただ一つの、勇者養成校がここにはあった。


「よし、準備できたか?テオ、今日も張り切っていこう!」

「君がベッドから降りた頃には、もう済んでたよ。さぁ、行こうか。」


 呆れたような顔を見せるテオと、待たせた事を全く悪びれもしないアルバ。

 二人は朝食をとるため、食堂へ向かった。




 バシッ!


「ようツートップ!今期の試験も、またお前らに持ってかれると思うと、食が細くなるってもんよ!食堂までの足取りが重いったらねーの。んじゃ、先行くぜ!」


 アルバの背中を叩きながら、そう言った男は、あっという間に走り去っていった。

 言葉と体がここまで食い違うのも珍しい。


「ってーな、まったく。アレで勇者候補生とはな・・・」

「まぁそう言うなアルバ、この学校の目的は勇者となりうる人材の育成だが、未だ勇者たり得る者は排出されていない。多くはこの都市の警護に当たるんだ。」

「とは言ってもなぁ・・・」

「だがそんな事を言ったら君も・・・勇者としてはどうなんだ?」


 悪態をつくアルバに、テオは皮肉を言う。


「あーはいはい、主席の言葉は耳が痛いなぁ・・・まったく。」

「そういう素直じゃないところが、君を次席たらしめているんだよ。」


 彼らはこの学校の主席と次席だ。

 辛辣な物言いのようだが、これがテオのアルバに対する冗談だった。

 二人は本当に仲が良く、お互いの事をよく知っている。

 食堂へ向かう途中、二人はしきりに声をかけられていた。


「ふー、やっと着いたな。」


 朝食を受け取り、席についたアルバはため息をつく。


「声をかけられると言うことは、それだけ魔王討伐に期待されてると言うことだ。素直に受け止めようじゃないか。」


 そう言って、アルバの向かいの席に座ろうとしたテオが、また声をかけられた。


「キャー!テオ様!今日もとてもかっこいいです!握手してください!」

「あぁ、ありがとう。」


 どう見ても期待とかではなく、テオ個人のファンへ対応するテオを、呆れたような目で見るアルバ。


「あ、アルバ君も、今期は頑張ってね!」


 去り際に、お世辞程度の挨拶をする女の子を見て、アルバはげんなりした。

 それを見たテオは、少し困ったような表情で笑った。


「おはようテオ君、もうすぐ試験だけど・・・調子はどう?」


 テオに挨拶をしながら、一人の女の子がテオの隣に座る。


「やぁジェネ、常に体調管理は最善だよ。」


 勇者たるもの、どんなときでも戦えるように・・・なんてジェネと話すテオを眺めながら、朝食に手を付けたアルバの隣にも、一人の女の子が座った。


「アルバ様、おはようございます。今日のお目覚めはどうですか?」


 微笑みながら聞いてくる女の子にアルバは答える。


「おはようフリィ、朝から鐘で起こされて、背中をはたかれて、この環境に頭が痛いぜ・・・」

「ふふふ、アルバ様は毎日そんなことを言ってますね。大丈夫ですか?膝枕しましょうか?」


 フリィはそんなことを言いながら、太ももを見せた。


「フリィ、俺の心を理解して、支えてくれるのはお前だけだよ・・・」

「アルバ様、その顔は少し嫌なので、こちらを向かないでくださいね。」


 フリィは笑顔でそんなことを言う。

 だが、アルバは知っていた。

 フリィは絶対に、膝枕などさせる気は無い。

 少しでも喜んだ顔を見せると、次の瞬間には笑顔でけなしてくるのだ。

 アルバよりも悪魔的なフリィだった。


「フリィちゃん、それはアルバ君が可愛そうだよ・・・?」


 二人の心配をしたジェネが声をかける。


「安心しろジェネ、いつもの夫婦漫才だ。」


 そんなジェネをテオは止める。


「なぁテオ、俺にいつも考えが悪魔的だとか言うけど、お前も大概だよな?」

「ん?何を言っているんだいアルバ。僕ほど素直で誠実な人間はいまいよ。」

「確かにお前は素直かもしれんがなぁ・・・」


 そんな二人を見て笑うジェネとフリィ。

 これがいつものメンバーだった。

 この学校では、基本的に成績が近く、能力のバランスも考慮した四人でグループを作り、活動させる。

 卒業後すぐに、他の者と連携を取って仕事ができるようにするためだった。

 勇者養成学校卒業者の主な就職先は、各地の治安維持部隊。

 つまり、常にモンスターとの戦闘が、起こりうる環境に放り込まれる事になる。

 それ故のシステムだ。


「さて、僕たち勇者科の、今日の予定は・・・模擬戦形式の戦闘訓練、それから昼食を挟んで魔法込みの模擬戦・・・さすがに試験が近いと実技が多いな。」


 食事を済ませたテオが、今日の予定を大まかに説明する。


「勇者科は大変そう・・・怪我しないでね、テオ君。」


 ジェネが不安そうな顔で尋ねる。

 もちろん模擬戦と言っても、怪我をするリスクくらいはある。

 しかしテオの相手は次席のアルバだ。

 お互いに十分過ぎる実力を持った二人ならば、怪我などすることなくこなすだろう。

 それが分かっていても、ジェネは心配していた。


「そっちはどんな予定なんだ?」


 アルバがフリィに聞いた。


「私たち補助科は、朝は座学です。午後から回復魔法や、ステータスコントロール魔法を、魔力耐性人形にかける実技、となっています。その後空いた時間は、自由に過ごして良いみたいです。」


 勇者養成学校といえど、全員が勇者になるわけではない。

 この学校にはいくつかの専攻が設けられていた。

 もちろん性別で割り振られるのではなく、それぞれの希望で別れていく。

 勇者ではなく警護を元から目指す者もいるので、他にも特殊戦闘科や魔法技術科等、いくつか別れている。

 その中で勇者科と(勇者)補助科は、すべての技能を習得したと認められた上で、編入する事が可能な科である。

 補助科には、魔法技術に優れていた者の編入を推奨しており、勇者科には、すべての水準が非凡且つ戦闘能力の長けた者が推奨される。

 ここにいるテオとアルバは、お互いに並々外れた戦闘技術を有している、と言うことだ。


「さて、そろそろ演習場に向かうか。」


 そう言ってテオが立ち上がる。


「そうだな・・・お手柔らかに頼むぜ?」

「アルバこそ。今食べたものを吐かせないでくれよ?」


 そう言って笑いながら食堂を後にする二人。


「私たちもいこっか。」

「は、はいっ。フリィちゃん!私たちも頑張ろうね。」

「ふふ、可愛いなぁジェネたんは・・・」


 よだれでも垂れていそうな顔で、フリィはジェネを撫でながら歩きだす。


「も、もう!フリィちゃん子供扱いしないで!」

「いいじゃん少しくらい~」

「むぅ~」


 ジェネはすねたように頬を膨らませたが、まんざらでもなさそうだった。


魔族の話から一転して勇者の物語です。

基本的には勇者の冒険を書いていこうと思っています。

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