割と危ない刑事
危ないほうの刑事は見たことが無いです。
「通報があったのはこっちか?」 初老の制服警官が車を走らせ助手席にそう訊いた。
「はい。その通りです。「違法薬物の取引を押さえました。犯人の回収を頼みます。」と言ってました。」
助手席にいた若手の警官は大きな声でそう言った。
「全くこんな倉庫街になんだって呼び出したんだ?そいつ?」
若いの曰く、鳴りっぱなしの署内の電話を取ったら言うことだけ言って一方的に切ったらしい。マフィアの罠にしてはおかしいが解せない。
「あ、見えました。多分あれです。」
さぁ、鬼が出るか悪魔がでるか…。
目の前の光景はそれはそれは凄まじいものだった。
初老と若手の警官が見たのはマフィアだった。しかし、罠でもなかった。
彼らが見たのは、天井から叉焼のように吊るされた虫の息のマフィア達だった。
「彼は私の依頼を達成してくれたでしょうか?」
そう独り言を呟きながらサキョーは車を走らせる。
彼はうっかりしていた。マフィアを一網打尽にしたのは良いが、回収するのを忘れていた。流石にあれだけの人数を逃走中に護送するのは彼にも無理だ。
「回収を任せられる相手が居ないでもないですが、流石に誤解が起きますからね。」
取り敢えず取った誰かに手柄ごと差し上げるのが最善でしょう。
「それで、どうしましょう?」
「どうするも何も運ぶしかないだろ。」
すし詰めの車で凸凹警官は話していた。叉焼になったマフィアを運びながら。だ。
「いえ、逮捕なさった方にはどう…」
「手柄なら心配要らん、こいつら運んだ送料として俺らが貰えばいい。」
しかし…。と遮る若手を他所に彼は犯人の顔を思い浮かべていた。
相も変わらず無茶苦茶だが、あの若造、元気でやってるみたいだ。
「ハァ、全く。最近の若いのは分かったモンじゃない。」
カウンターからひょっこり首を出したコリーは、呆れながら目の前の若者を見ていた。
「スタングレネードを撃った時はビビったが、よく考えりゃ、ゴム弾だった。よかったぜー。」
目の前の若者は自分達の投げたスタングレネードでもんどり打っていた。
コリーの弾丸はスタングレネードを全て撃ち落とした。つまり、閃光をモロに浴びたのは、赤と緑達だった。
「ハーイ皆ぁー!!警官だよ。大人しく捕まりゃこれ以上はなんもしないけど、次なんかやろってんなら…」
スチャ と拳銃を首領達の頭に突きつけて、
「次潰れるのは目じゃなく頭だかんなー。」
その声にはその場の皆が震える位の威力はあった。
「弱りましたね。」
サキョーは困っていた。銀行で途方に暮れていた。それは彼が金に困っていたから。とか、通帳を無くした。程度の、ありふれた理由ではなかった。
「おい手前ら!金目のモノを全部出せ!!」
目出し帽を被った男がショットガンを振り回して金を要求していた。
彼は今、銀行強盗に遭遇していた。
「どうしましょうか?」
この場で警官だと言えば目出し帽の彼はパニックを起こして銃を乱射するでしょう。かと言って何もしないのは愚策の極み。なれば…
「隙を突いて制圧、しかありませんか。」 犯人に聞こえない小さな声でそう呟いた。
「さっさとしやがれ!!ブチ殺すぞ!!」
そうこうしている間に犯人は異様に興奮し始めた。窓口の行員に銃を突きつけ、今にも引き金を引きそうだ。
「金、金だ金。金を出せっつってんだろうが」
行員は泣きじゃくってそれどこではない。
「やれやれ、仕方ありませんか。」
選択の余地は無し。やるしかありませんね。
「すいません、警察です。お取り込み中悪いのですが、貴方を逮捕させて頂きます。」
犯人と行員に割り込み、素手で銃を掴み、銃口を誰も居ない天井に向ける。
「何だよ!!誰だ警察呼んだのは!!」 興奮して強盗は引き金を引く、何度も何度も引き金を引く、銃声が響き、客が悲鳴をあげる。
しかし、
「威嚇でお仕舞いですか?」
「ん、ん!ンン!」
犯人が泣きそうな声で懸命にサキョーを撃とうとしている。銃口を下に向ければそれでおしまい。が、銃は動かない。
遂には手が銃からすっぽ抜け、尻餅をついてしまった。
「銃は危険なものです。こういった使い方は感心しませんよ。と、言うわけで、」
よいしょ
そんな気の抜けた掛け声と共に、サキョーの手の中のショットガンがグニャリと曲がった。
「ヒ!!ヒィー!」
目の前の光景を目にし、強盗の血の気は一気に引いてしまった。
「君、二度と、こんな真似をしないでくださいね。」
警官は、「はぁ、だから銃は嫌いなんですよ。」と言いながら、曲がったショットガンを手の中で更に曲げた。
後に、この銀行強盗が悪さをすることは決して無かった。
「ハァー、何だってこんなトコ走ってんだ、俺は?」
コリーは屋根の上を走りながらぼやいていた。
カラーギャングの鎮圧を終えた直後に、警察がやって来た。無理もない。あれだけの騒ぎに気付かない方がおかしいと言うものだ。 そんなわけで、追われる身のコリーは仕方なく、カフェの屋根によじ登り、屋根から屋根への移動を余儀無くされていた。
「全く、よっと、遅すぎるよなぁ。よっ!あんだけ騒いで事後にやって来るなんてな。ほっ!!俺らは、そりゃ!正義の味方で、ヒーローじゃねぇんだ。遅れてきたら大目玉だってーのっ!」
屋根を駆けながら器用にぼやくコリー、しかし、彼はぼやきに気をとられ、足元の屋根が徐々に地面から離れていっている事に気が付かなかった。
彼はぼやきと共に、高みに昇っていく。
はぐれのほうの刑事は好きです。