淫行 麻薬 火薬 何でもアリ
いきなり爆発音が響き渡ります。
俺は今、シートベルトごと空を飛んでいた。
「ア゛ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
サキョーはコリーが飛ぶのを確認すると、目にも止まらぬ早業で後ろからコリーそっくりの人形を取り出すと、また何事も無かったかのようにカーチェイスに戻るのだった。
追手はそれに気づかず、彼ら(・・)を追い続ける。
猛スピード&カーブの遠心力でおそらく飛ばしたんだろう。ただ、それだけで人間は飛ばない。おそらく椅子の下に火薬か何かを仕込んでおいたのだ。
オレは飛ばされながらそんなことを考えていた。椅子ごと空中を高速回転しながら考えていた。
ヤベー、これ走馬燈って奴だ。絶対死ぬヤベーのだ。
タフガイの死因は訓練中に相棒が行った凶行だった。
笑えねー。てか、サキョーのヤツ、覚えておけ!
そんなことを思っているうちに、
彼はホテルの看板上の窓へ
パリーン
窓を突き破っての斬新なチェックインを世界で初めて果たした。
「ア゛。アァ、アァァァァァァァァァ↓死んだ、てか死ぬかと思った。」
散乱する窓ガラスの破片の中、シートベルトを外して、安堵、苦悶の声、魂を抜かれたような凄まじい声。で怒鳴りながら立ち上がる。
流石のオレもこんなチェックインは初めてだ。 幸い足から入ったお陰でこの素敵な頭は無事だし、歩ける。
「さぁて、鬼ごっこ続けるか…………ン?」
オレは部屋の中の塊に気付いた。そりゃホテルだ。人が居てもおかしか無い。が、
「オイオイオイオイオイオイ、なーんでこんな安ホテルで女子高生とアンタがよろしくやってんだ?」
目の前には、明らかに成人していない若い女と、管轄違いの同業者。マルネル警部が裸で身を寄せ合っていた。
ご丁寧にハンガーには彼の服とセーラー服が仲良く掛かっている。
「コ、リー巡査…ここで何を…。」
この状態でナニ言ってんだか?
「警部を捕まえに。警官がナニやってんだか?はいチーズ。はい。じゃ、これで。」
警官が未成年と淫行している動かぬ証拠ゲット。さ、サッサと逃げないと。さーて、何処に逃げるかな。
後ろの方で喚く警部の声を無視し、コリーはホテルを出て行った。
模擬訓練。コレはちゃんとやる。しかし、その間もオレ達は警官だ。なら逃げるついでにこんな風に事件を解決してもいいだろう?
と、いう訳でオレとサキョーの間で予めしていた捜査を今回、訓練の合間に詰めにいこう。と、前もって決めていたのだ。
その内の一件がコレ。マフィアと警官の癒着だ。コレは密会場所は割れてたんでオレがサキョーと別行動でやる。ってことになってたんだが…
「サキョー、後で覚えてやがれ。」
その頃、カーチェイスをしていたサキョーの方も捜査が大詰めだった。
流石にサイレンは不味いのでパトカーを振り切り、倉庫街に向かう。
尾行は無し。それでは行きましょう。
倉庫街のとある倉庫、さびれたこんな所に来る輩はそう居ない。
が、今日は違った。二台の車がとある倉庫前に停まっていた。
車の主はお供を数人連れ、倉庫の中でそれぞれアタッシュケースを持ち、対峙していた。どちらも凶悪な人相と尖った雰囲気で、どう見てもダンスバトルをしに来たダンサーではない。
「約束のブツは?」
「これだ。確認しろ。で、金は?」
「これだ。確認しろ。」
互いのグループの一番上の身分と思しき男たちがそれぞれのアタッシュケースの中身を開けて相手に見せる。
片や中身は幾つもの札束。片や透明なビニールに詰まった白い粉。
麻薬の取引だった。
「確認した。」
「こちらも確認した。」
お互いに商品と金に細工の無い事を確認し、今まさに取引は終了した。
お互いに警察の不安は無かったが、下手に長居は無用、それぞれの車に乗り込もうとしたとき。
キー‼
黒のオープンカーが倉庫に乗り込んできた。
お互いに相手の裏切りを考えたが、互いに咄嗟にオープンカーに銃を突きつけたところを見ると裏切りではない。つまり、こんな所に用の有るヤツは決まっていた。
何故、今日警察が?
「警察です!皆さん、そこを動かぬようにお願いします。それから、銃を捨てて両手を見えるように高く上げてください。」
車から降りて来たの色白の眼鏡を掛けた東洋人は俺たちを見るといやに落ち着いた声でそう言った。
しかし、それにわざわざ従う程俺たちはバカじゃない。よく見たら他に味方は居ない。おそらく手柄を焦ったスタンドプレーだろう。
お互いの部下もボスの言わんとすることが分かったらしく、次の瞬間。
パンパンパンパンパン
倉庫内に幾つもの銃声が鳴り響いた。
「フイィー、終わった終わった。後はバカな警察から逃げて…オシマイッ!」
まるで凶悪犯罪の犯人のようなセリフを言いながらコリーはカフェのテラス席でカフェオレを楽しんでいた。
オレは写真撮影のあと、暇になって街をフラついていた、無論。見つかるようなヘマはしないで…だ。
で、あんまり暇なんで人通りの少ない裏通りのヒッソリとしたカフェ『ノーラスケール』で休憩している。ってワケだ。
あー、暇だな。いつもなら事件から飛び込んでくんのに…
暇を持て余しながらわらわら歩く若者のさまを見ていた。
ぞろぞろぞろぞろ若者たちは歩く。イヤー、暇だ。
緑の帽子、赤の帽子、赤色のバンダナに緑のバンダナ。緑のTシャツや赤いパーカー…なんだか今日はカラフルだなー……あれ?
コリーは違和感に気付いた。ここは人通り(・・)の少ない(・・・)裏通り(・・・)のヒッソリとしたカフェの筈だ。なのに、
「なんでこんなに人が集まってんだ?」
目の前の通りには赤を基調とした若者と緑を基調とした若者の二つのグループが集まり、互いに互いを睨みつけていた。
「マッズイ。カラーギャングの抗争かよ。」
カラーギャング。この街で少し前から勢力を伸ばし始めた若者のグループ。いわばタチ悪い不良軍団。半グレだ。
どうやらオレはカラーギャングの抗争の現場に居合わせたらしい。しかもよりにもよって緑と赤かよ。
この街で今最も勢力の有るカラーギャンググループは二つ。『ストロンレッド』と『グリーンマン』だ。
そしてコイツらは最も勢いがあると同時にタチ悪い連中としても有名だ。
それが証拠に、赤と緑ばっかに目がいってたが、よく見りゃ手には鉄パイプにナイフ、ヌンチャクに木刀とより取り見取りの凶器がズラリ。
「何のショーだよこりゃ?」
言うなりゃ喧嘩ショーか?にしちゃぁ大事過ぎる。最近の小競り合いとは明らかに規模が違う。流石に1人じゃ厳しいがしゃーない。オレは意を決して出来るだけ威厳ありそーな声で若者に話し掛ける。
「キミ達待ち給へ。警察だ。」
その甲斐あって一触即発の赤と緑が一斉にこちらを向いた。気を反らせることには成功した。が。
「なんだよ、ケーサツ?」「うるせぇよ。」「なんだよサツかよ。」「誰だよ呼んだの?」「ふざけんなよ?」
「「止せ、お前ら」」
予想外の警察の登場で騒いでいた部下を赤緑各々の首領が一言で黙らせた。おー、流石のカリスマ。烏合の衆かと思ってたからお兄さんびっくり。
「「ケーサツを先に潰せ。」」
ビックリ×2 オレ狙い?
その声を合図に赤と緑が持ってる物を振り回し始めた。
「ワァオ!ちょっと?公務執行妨害&暴行未遂も追加ですよ。」
そんな言葉は聞こえないとばかりに降り掛かる。鉄パイプにナイフ、ヌンチャクに木刀…。素人とは言え、流石にこれだけの人数はツライなぁー。
とか考えている内に赤と緑の大半が引き摺り倒されていた。一瞬! アー…杞憂かぁ。
「「殺れ」」
そんな赤緑の首領の声と共に数人が銃を取り出した。
「ヤベ」
オレはカフェに飛び込むとカウンター裏にグラスを拭いていた大将を巻き込んで飛び込み伏せた。
ババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババババ
何丁もの銃の一斉射撃。戸棚の酒が後ろでバンパン弾ける音が聞こえ、火薬混じりのカクテルの香りが鼻につく。
「ダダだ旦那ぁ。何がどうしたんで?」
怯える大将がこちらを向いた。顔面蒼白、身体は震え、大の男が涙と鼻水でべちゃべちゃだ。
「悪ぃな。警察だ。少し捜査協力してくれ。」
けたたましい銃声の最中、大将は少しずつ落ち着き始めた。
「店、オイラの店が…」
今にも泣きそうだ。無理ねーか。 「大丈夫だ大将!捜査協力して損害が出たらその分はちゃんと出るから。てか出すから。」
ここまでなったら貧乏警察は全額出せねえが、何とか出来る。
「ほ、本。本当にですか?」
「あぁ。だから安心しろ。命と店はオレが保証する。」
「分かり、ました。」
「オーケー任せろ。」
オレは銃を取り出すと、それを天井に向けて構える。
「ゴム弾ならではの使い方を見してやる。」
パンパンパン
数発天井に打ち込む。その弾は天井にぶつかり、貫通せずに弾き返され、床に叩きつけられる。
床にたたきつけられた弾が若者の銃を撃ち落とす。
よし、前段命中。チャンスだ!蜂の巣にしてやんよ!
実際はゴム弾。蜂の巣は無理なのだが、彼は銃を構えて立ち上がろうとした。その瞬間のことだ。 カウンター越しに何かが幾つも宙を舞っていたのが見えた。それには見覚えがある。確か警察御用達の…
「スタングレネードだぁー!!」
ヤバい!目が!!てか思わず全部撃っちまったー!
「アーーーーーーーーー!!」
火薬香るカフェの中で太陽が弾けた。