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三国志  作者: 大田牛二
第三章 弱肉強食

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韓浩

 曹操そうそう陳宮ちんきゅうを本当に信頼しており、彼を東郡に留め、兵を率いて駐屯させていた。しかしながら陳宮はその信頼を裏切り、その兵を率いて秘かに呂布りょふを迎え入れ、兗州牧に立てた。


「よくやってくれた陳宮よ」


「ありがとうございます」


 呂布は彼の恭しい態度に満足そうに頷く。


「さて、張邈ちょうぱく殿、あなたは鄄城へ使者を出してください。既にこちらに靡く者はおりますので、陥落させるのは容易でしょう」


「ああ」


「呂布殿は兵を率いて、濮陽を手に入れるべきです」


「よかろう、さっさと取ってやる」


 呂布は濮陽へ向かった。


 張邈は劉翊りゅうしょうを鄄城にいる荀彧じゅんいくの元に送った。


「張邈殿から使者?」


 荀彧はなんだろうかと思いながら会った。すると使者の劉翊はこう告げた。


「呂将軍が曹使君の陶謙とうけん攻撃を助けようと参られた。速やかに軍糧を提供されたし」


 荀彧はどういう意味かと思い、目を細めた。そして、しばしお時間を頂きたいと言って部屋を出た。部屋を出ると程昱ていいくがいた。


「聞いていましたか?」


「ああ」


「誰がやったことでしょうか?」


「わかっているはずだ」


 二人は顔を見合わせる。


「「陳宮」」


 二人がこの状況を作り出したであろう男はすぐさま思い浮かべた。


「しかし何故、このようなことを……」


 陳宮がやったと確信を持つことは荀彧はできるが、なぜそのようなことをしたのかまではわからなかった。


「やつは空想家で張良を尊敬している。だからお前に勝ちたいのだろう」


 荀彧は渋い表情を浮かべる。そんなことで反乱など起こすのだろうか?


「やつはそれでいて、自己愛が激しいからな。まあそれよりもこの状況でどうするべきかだ」


「ええ、そうですね。夏侯惇かこうとん将軍を招きましょう。私たちでここを保つことは難しい」


 恐らく陳宮は兗州の大部分で反乱を起こさせているだろう。そのため動揺するであろう鄄城の人々を抑える人物が必要であった。


「それでよかろう」


 二人は頷き合うと使者の劉翊を城から叩き出すと兵を整えて備えを設け、急いで濮陽にいる夏侯惇を招いた。


「これは大変だ」


 鄄城には曹操の家族もいる。ここは絶対に陥落させてはならない。


 夏侯惇は素早く鄄城に向かった。すると濮陽に向かっていた呂布軍とかち合った。


「ええい邪魔だ」


 呂布は夏侯惇の軍を蹴散らそうとしたが、急に出会ったため打ち破ることができなかったため、一度退いた。


「呂布よりも鄄城だ」


 夏侯惇は急いで向かおうとした。それを知った呂布は濮陽を占拠した。濮陽を占拠した呂布は兵を出して夏侯惇の後を着けさせた。


 呂布の兵は濮陽から逃げてきたと述べて夏侯惇に保護を求めた。夏侯惇はそれを受け入れるとそこで呂布の兵は彼を捕らえて彼の喉元に剣を当てて人質とすると食料と財宝を寄越せと言った。


 すると彼らの前に一人の男が現れた。韓浩かんこうである。


 彼は黄巾の乱の中、故郷の県が山岳地帯に隣接していたため、韓浩は人を集めて盗賊から県を自衛していた。後に王匡から従事に任命され、董卓を討つため兵を率いて孟津に出兵した。董卓が、河陰県令であった母の兄弟の杜陽を人質にして韓浩を招いたが、彼は応じなかった。


 この話を聞いた袁術は韓浩の態度に感心し、韓浩を招いて騎都尉とした。 その後、韓浩の名声を聞いた夏侯惇は彼との面会を要望し、韓浩を大いに評価した。夏侯惇は韓浩に兵を率いさせ、征伐に随行させるようになった人物である。


「きさまら、夏侯惇将軍を人質にするような真似をしてただで済むと思っているのか。私は賊を討伐するように命令を受けている。夏侯惇将軍の命を盾にできるのであればやってみせよ」


 彼はそう言い放つと剣を抜いた。そして夏侯惇にこう言った。


「将軍、これは法でございます」


 涙ぐみながらも彼は剣を持って呂布の兵へと向かい始める。これに呂布の兵たちは恐れて、夏侯惇を開放すると許して欲しいと乞うた。


「許すと思っているのか。馬鹿め」


 韓浩は全て殺した。


 その後、このことを知った曹操は韓浩を称えたという。


 鄄城に夏侯惇が到着した。


 曹操が全ての軍を率いて陶謙を攻撃していたため、留守の兵はわずかしかいなかった。しかも督将、大吏の多くが張邈、陳宮と通謀していた。


 鄄城に到着した夏侯惇は、その夜、謀叛した者数十人を誅殺した。衆人がやっと安定した。


 しかし、まだ危機は過ぎてはいなかった。


 豫州刺史・郭貢かくこうが数万の兵を率いて近づいてきたのである。


「呂布と共謀しているのか?」


「いえ、そうではないでしょう」


 荀彧がそう答えてほどなくして郭貢が会見を求めてきた。荀彧は会いに行こうとすると夏侯惇らは止めた。


「あなたは一州の重鎮だ。行ったら必ず危められることになる、行ってはならない」


 万が一ということがある。しかし、荀彧はそれは無いと思っていた。


「郭貢と張邈らは元々情義が結ばれているわけではありません。今、郭貢が来るのが速かったのは、計がまだ定まっていないからにちがいなく、まだ定まっていない時に乗じて説得すれば、たとえ用いることができなくても、中立にさせることはできましょう。もし我々が先に彼を疑えば、彼は怒って意志を固めさせてしまいましょう」


 会見の場で、郭貢は荀彧に会うと彼に懼意(恐れる気持ち、様子)がないと感じ、鄄城は容易に攻略できないと判断して、そのまま兵を率いて去っていった。


 ひとまずの危機は去ったが、まだ兗州全体の危機は去っていない。


「ここからが勝負だ」


 兗州を巡る戦いは始まったばかりである。





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